「和食のちから」をテーマとしたシンポジウムを開催

[サステナビリティ]

 1984年に設立されたアサヒグループ学術振興財団。「人と社会の未来を展望し、学術研究の発展と国民の生活文化の向上に寄与すること」を目的とし、主として食に関わる「生活科学」「生活文化」および「地球環境科学」「サスティナブル社会・経済学」の4つの分野で個人やグループの研究活動への助成を行っている。
 そして、財団設立30周年を迎えるのを記念して、第三回特別シンポジウム「和食のちから」が10月31日に開催された。今回は、その様子をレポートしよう。

―「そもそも和食とは何か」をひもとく講演

 2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、海外からの注目度が高まる一方、実は日本人自身が和食の基本的な定義や魅力をきちんと理解していないという側面がある。そこで、和食に込められた先人たちの知恵と工夫を紹介し、この文化を将来へどのように伝承するかを考えるのが、このシンポジウムの大きな目的だ。

 会場になったアサヒ・アートスクエアには、学生から主婦、年配の方たちまで、食に関心のある幅広い層が約150名集まった。シンポジウムは二部構成で、第一部は6名の研究者による講演、第二部はパネルディスカッションが行われる。

 第一部で最初に登壇したのは、東京家政学院大学名誉教授の江原絢子氏。講演では、ユネスコ無形文化遺産への申請がどのように行われたのかを説明しながら、「そもそも和食とは何か」をひもといていった。江原氏によれば、ユネスコの登録リストには、「和食:日本人の伝統的な食文化 正月を例として」と記載されている。つまり、「和食」とは料理そのものというより、「日本人の食を育んできた社会的慣習」を指す言葉として定義されているということ。そして、和食が自然を尊重した食文化であること、正月などの年中行事で伝統的な食事をとることにより家族や地域の絆を強めてきたこと、「飯・汁・菜・漬け物」という基本形がバランスのよい健康的な食生活に貢献していることなどが、世界でも高く評価されたと解説した。

 続いて壇上に上がったのは、千葉大学教育学部教授の石井克枝氏。石井氏はアサヒグループ学術振興財団から3年間の助成を受け、「タンパク質を多く含む食品の日常食における位置づけの国際比較」をテーマに研究を続けてきた。日本、台湾、タイ、フランス、イタリアを対象に、肉類、魚介類、卵類、大豆加工品、乳製品などがどのように食されているかを調査。その比較から見えてきた和食の特徴について発表した。特筆すべきは、日本の食事のバランスの良さ。朝食だけで比較しても、肉類が多い台湾やタイ、ほぼ乳製品のみのフランスやイタリアに対し、日本の朝食には肉、魚、卵、大豆など多様な食品が含まれていた。とくに味噌や納豆などの大豆加工品は朝食の53%に含まれ、ほとんど大豆加工品を含まない他国との違いが鮮明に。「日本でも肉類の摂取量が増え、食事が洋風化したと言われるが、実際は魚介類や大豆加工品を多く食べるスタイルが現代にも受け継がれている」と語り、現在も和食文化の伝統は決して失われていないと強調した。

 またアサヒグループからは、アサヒビール酒類技術研究所の滝澤宗禎が講演。和食文化を支える微生物の働きに着目し、醤油や味噌、酢の製造に欠かせない有用微生物について解説。アサヒグループの主力商品である酒類を製造する過程でも、麹菌や酵母の働きが欠かせないことを紹介し、和食とお酒が"微生物"という共通点でつながっていることを語った。

東京家政学院大学名誉教授
江原絢子氏
千葉大学教育学部教授
石井克枝氏

―和食を次世代に継承するために何が必要か

 こうして計6名の講演者がそれぞれ熱のこもった発表を行い、会場に集まった人たちもうなずいたり、メモを取ったりしながら、熱心に聞き入った。第一部が終わると、休憩を挟んで第二部へ。第一部で登場した6名に、コーディネーターとしてお茶の水女子大学名誉教授の島田淳子氏が加わり、「未来へ向けて 現代の食の課題 」をテーマにパネルディスカッションが始まった。

 冒頭で島田氏より、「今後ますますグローバル化が進む中で、和食文化をどうやって守ればいいか」という問題提起がなされた。様々な発言が飛び交う中、和食文化の継承において家庭が果たす役割について議論が白熱。昭和学院短期大学学長の畑江敬子氏は、「今のお母さんたちは仕事を持つ人も多く、本当に忙しい。家庭での食育が大事だと分かっていても、毎日の食事で本格的な和食を作るのは難しい人も多く、外食産業に頼らざるを得ない部分もある」と発言。「できあいの総菜なども上手に活用しつつ、消費者である私たちがより健康的で安全な商品を選ぶ目を持ち、家庭だけでなく外食産業も含めた日本の食事全体の質を高めていくことが和食の伝承につながるのではないか」と現実的な意見を述べた。

 すると石井氏から、「そもそも『和食は手間や時間がかかる』というのは本当でしょうか」との意見が。学生たちと調理実習をした体験を引き合いに、「実際に調理を体験すると、学生たちは『煮魚ってこんなに簡単にできるんですね!』と驚く。つまり、作り方をよく知らないまま、大変そうというイメージだけが先行しているのでは」と指摘。すると両者の意見に江原氏が共感を示し、「もちろん忙しい時はできあいのお惣菜を買ってもいいと思うが、それでも味噌汁だけは自分で作る、といった簡単な調理は誰もがやっているはず。その時、子どもに『危ないからあっちへ行っていなさい』と言うのではなく、親のそばで調理の過程を見せるという体験を積み重ねることが、和食文化を次世代に伝えることにつながるのでは」と話し、他のパネリストからも同意の声が相次いだ。

 こうして活発な議論が繰り広げられ、最後は島田氏が「様々な課題はあるが、私たち大人は未来に向けて和食文化を伝えていく責任があることを忘れないようにしましょう」と締めくくり、会場からは大きな拍手が送られた。

 アサヒグループ学術振興財団の竹田義信は、「普段は財団のホームページを通じて研究成果を公開しているが、なかなか一般の方たちには伝わりにくいという課題があった。でも今回、こうした発表の場を設けたことで、講演した先生たちからも『自分たちの研究にこれほど関心を持って頂いているのかと驚くと同時に、やって良かったと思えた』という感想を頂きました」と手応えを実感したよう。講演者として登壇した滝澤も、「私が普段研究しているビールや焼酎などのお酒は、基本的に食事とともに楽しむもの。ですから、『お客様にどうしたらお酒をおいしく飲んで頂けるか』という原点に立ち返ると、和食というテーマについて考えるのは非常に意義があると実感しました」と語った。

 私たち日本人の生活と切っても切り離せない「和食」について改めて考える場を持ったことで、主催したアサヒグループも登壇した講演者たちも、そして集まってくれた参加者の方たちも、それぞれに大きな学びを手にした収穫の多い一日となったようだ。

アサヒグループ学術振興財団
竹田義信業務執行理事
アサヒビール酒類技術研究所
副所長 滝澤宗禎