英語でおしゃべり?! 「対話型自動販売機」が浅草に登場

[グループ会社の取り組み]

 円安やビザ発給要件の緩和などを背景に、日本を訪れる外国人観光客が急増している。その"おもてなし活動"の一環として、アサヒグループと野村総合研究所(以下、NRI)で共同開発したのが「対話型自動販売機」だ。これは最新の音声認識技術を活用したもので、自動販売機の横に設置したタブレット端末に英語で話しかけると、音声で商品情報を教えてくれたり、おすすめの商品を紹介してくれる。つまり、リアルタイムで会話ができる自動販売機というわけだ。まずは東京・浅草の雷門近くに1台設置し、2016年1月から2月まで実証実験を行って、外国人利用者の行動データを収集・分析する。
 このユニークな「対話型自動販売機」はなぜ生まれたのか。開発プロジェクトのメンバーたちに、その経緯と狙いを語ってもらった。

アサヒグループホールディングス(株)
お客様生活文化研究部門 情報調査解析室
マネージャー 上籔寛士

アサヒ飲料(株) 市場開発部 開発グループ
副課長 福本武士

アサヒビジネスソリューションズ(株) 開発統括部
第4システムグループ 宮川彩

(株)野村総合研究所
IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス推進部
主任コンサルタント 鷺森崇氏

(株)野村総合研究所
IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス推進部
上級テクニカルエンジニア 幸田敏宏氏

このプロジェクトが始まったきっかけを教えてください。

上籔:2015年5月から、お客様生活文化研究所とグループ各社のメンバーで、訪日外国人の消費行動について調査を行ってきました。それで判明したのは、外国人のお客様は、馴染みがあって、よく知っている商品を選ぶ傾向が強いということ。特に自動販売機については、「何が出てくるかわからない!」という戸惑いの声があったほど。確かに缶コーヒー1つとっても、自販機には多種多様な商品が並んでいますから、日本語表示が読めない外国の方は商品特性の違いがわかり辛いのだと思います。
 一方でもうひとつ、私たちが着目したテーマがITの先端技術でした。ITの最新技術が、生活者のライフスタイルにどのような影響をもたらす可能性があるのかをNRIさんにレポートしてもらったのです。それを受けて、先端技術を活用してグループの事業で何かテストマーケティングができないかと考えていた時に、NRIさんから「NRI未来ガレージ」をご紹介頂いたんですよね。

アサヒグループホールディングス(株) お客様生活文化研究部門 情報調査解析室 マネージャー 上籔寛士 アサヒグループホールディングス(株)
お客様生活文化研究部門
情報調査解析室 マネージャー
上籔寛士

鷺森:「NRI未来ガレージ」は、NRIのコンサルティング、先端技術の調査研究成果、システム開発技術と、参画企業の持つニーズやノウハウと掛け合わせることにより、新たなビジネスやサービスを生み出すことを目的としたプログラムです。今回はアサヒグループさんに参画して頂き、インバウンド市場に関する課題を話し合ううちに、「自動販売機には新たなビジネスチャンスがあるのではないか」という仮説に辿り着いた。それが今回の「対話型自動販売機」のアイデアにつながりました。

(株)野村総合研究所 IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス推進部 主任コンサルタント 鷺森崇氏 (株)野村総合研究所
IT基盤イノベーション本部
デジタルビジネス推進部
主任コンサルタント 鷺森崇氏

福本:アサヒ飲料としても、訪日外国人が増えているにも関わらず、それが自動販売機の売上げに直結していないという課題は認識していました。一方で、これまでに外国人向けに様々な対策をしてきましたが、なかなか購入に繋がらないのが現状です。

上籔:そこでアサヒ飲料と、弊社側のシステム担当としてアサヒビジネスソリューションズも加わって、今回のプロジェクトを立ち上げました。外国人のお客様にとって、購入の際に何がハードルになっていて、どんな課題が解決されれば商品を買ってもらえるのか、それを把握するのが今回の実験の最大の目的です。

アサヒ飲料(株) 市場開発部 開発グループ 副課長 福本武士 アサヒ飲料(株)
市場開発部 開発グループ
副課長 福本武士

「対話型自動販売機」に使われている音声認識技術とは、どんなものですか。

鷺森:今、人と機械のコミュニケーションに音声を活用することがトレンドになってきています。音声認識技術の良さは、より自然に人が機械に対して指示したり、逆に情報を得たりできる点にあります。昨年には、端末に話しかけるだけで音楽の再生や買い物リストの作成などができる『Amazon Echo』という製品がアメリカで一般発売されて話題となりました。このようなデバイスからインターネット上のクラウドにデータが蓄積され、人工知能や機械学習システムを使って分析し、活用しようとするさまざまな試みがはじまっています。今回のプロジェクトでは、マイクロソフト社が提供する音声認識の機械学習APIサービス(Microsoft Project Oxford)を活用し、外国人が自動販売機や日本の商品への理解を深めるのに、音声によるコミュニケーションがどれだけ有効か検証することを考えました。

上籔:ただ、音声の内容を決めるのは、なかなか難しかったですね。せっかく会話をするのですから、カタログ的な説明ではなく、カジュアルで親しみやすい雰囲気で話しかけたい。でも私たちが自社商品を説明しようとすると、どうしても型にはまった文章になってしまって......。ですから、そこはNRIさんのお力をかなりお借りしました。

幸田:とはいえ、アサヒさんの大切な商品ですから、あまりにくだけすぎてもいけない。ですから、フランクさを意識しつつ、アサヒ側のメンバーに文案を見てもらいながら、一緒に練り上げていきました。

福本:私からも社内の公式資料をお渡しして、アサヒ飲料として伝えたいコアメッセージだけはぶれないようにとお願いしました。

(株)野村総合研究所 IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス推進部 上級テクニカルエンジニア 幸田敏宏氏 (株)野村総合研究所
IT基盤イノベーション本部
デジタルビジネス推進部
上級テクニカルエンジニア 幸田敏宏氏

幸田:アサヒグループの資料に「旨味のある味わいと、まろやかさを引き立てたお茶です」とあっても、これを英語で伝えるのは非常に難しい。そもそも外国の方には「旨味」や「まろやか」という概念がないので、それを直訳してもあまり意味はありません。その結果、英語の説明は「日本のお茶で心も体も温まってね。でも、苦かったらごめんね!」となりました(笑)。もちろんそれは、アサヒさんが伝えたいコアメッセージをきちんと踏まえた上で、「訪日中の外国人が聞いた時にどう感じるか」を検討した結果です。

宮川:2月からは中国語でのサービス提供も行う予定で、私は今、その翻訳作業を担当しているのですが、こちらもやはり難しいですね。社内のプロジェクトメンバーと協力しながら、誰にでもわかりやすい表現にするにはどうすればいいか、試行錯誤しているところです。

アサヒビジネスソリューションズ(株) 開発統括部 第4システムグループ 宮川彩 アサヒビジネスソリューションズ(株)
開発統括部
第4システムグループ 宮川彩

実証実験の結果を、今後どのように生かしたいですか。

上籔:国内の人口が伸び悩む反面、訪日外国人の数は2020年の東京オリンピックに向けて、さらに伸びると予想されます。ですから、今回の実験で蓄積したデータを分析し、外国人のお客様の購入につなげられれば、大きなビジネスチャンスになると考えています。

宮川:音声認識技術を使った新しい取り組みは、アサヒグループでも前例がありませんし、大きなトピックだと思います。このプロジェクトをきっかけに、先端技術を用いた取り組みがグループ内で広がっていくことを期待しています。

幸田:イノベーションは、サービスの現場から得られる「実践知」から生み出されます。そのため、最新技術を使った際のユーザーの反応をダイレクトに知ることができる機会はとても貴重です。このプロジェクトは、今後の私たちの研究にも深い示唆を与えてくれるだろうと思います。