ビール酵母を活用した農業資材(肥料)開発で「地球環境大賞・農林水産大臣賞」を受賞!

[研究開発]

 アサヒグループでは10年以上に渡り、ビール製造における副産物の「ビール酵母」を活用した農業資材(肥料)の開発・研究を進めてきました。この取り組みが評価され、このたび「第25回地球環境大賞」にて「農林水産大臣賞」を受賞しました。「地球環境大賞」は、地球温暖化の防止や持続可能な社会の実現に貢献する技術や製品を開発した企業・団体に贈られる賞で、アサヒグループからは昨年度もカルピス(株)が微生物を活用した環境への取り組みで同じ「農林水産大臣賞」を受賞しています。

 酒類や食品事業を手がけるアサヒグループが、なぜ農業に関する研究を始めたのでしょうか。このテーマに取り組んできた担当者に、その経緯や研究の成果を聞きました。

授賞式の様子 授賞式の様子
右端:北川 隆徳

―まずは受賞の感想をお願いします。

北川:私はもともと研究部門にいて、2004年からビール酵母を農業用肥料に活用するための研究を始めました。長年の研究が評価されたのは、とても嬉しいですね。今回の「地球環境大賞」には100件を超える応募があったそうなので、その中で受賞できたのは光栄です。

アサヒグループホールディングス(株)経営企画部門 マネジャー 北川隆徳 アサヒグループホールディングス(株)
経営企画部門 マネジャー
北川隆徳

―なぜ、ビール酵母を使った農業資材(肥料)の開発を始めたのですか。

北川:まず、ビール酵母とは、ビールづくりに欠かせない微生物です。ビールを作るには、水と麦芽から麦汁を作り、ホップを加えた後、ビール酵母を加え発酵させます。ビール酵母は、麦汁に含まれる糖などの栄養分を食べて、アルコールや炭酸ガスを作り出してくれるのです。すると発泡するお酒、つまりビールができ上がるわけですね。

―なるほど、ビール作りには欠かせないものなのですね。

北川:製品中での風味変化を防ぐため、酵母はすべて取り除かれます。ここで課題となるのがこの「副産物のビール酵母をどう活用するか」です。ビール酵母にはビタミンやミネラル、アミノ酸など健康に良い成分が豊富に含まれているので、役立てないのはあまりにもったいない。

 アサヒグループでは早くからビール酵母の栄養価に着目し、商品化したのが「エビオス錠」です。これは、ビール酵母を乾燥させて錠剤にしたもので、胃腸の不調や栄養補給に役立つ健康食品として昭和5年に発売されて以来、現在でも幅広い世代の方にご愛用いただいています。また、ビール酵母の内側にある栄養分や旨味成分を含むエキスを抽出し、調味料としても活用しています。

 ただ、エキスを抽出した後に残る細胞壁(ビール酵母を覆う殻のようなもの)は、一部は家畜の飼料にも利用されているものの、十分には有効活用できていませんでした。そんな中で思いついたのが、ビール酵母を植物の肥料に使えないかというアイデアです。「動物に効果があるなら、植物でも免疫力を高めたり、成長を促進する効果が期待できるのでは」と考えたのです。

アサヒグループ食品(株)エビオス錠 アサヒグループ食品(株)
エビオス錠

―そこからどのようにして、植物への効果を実証したのですか。

北川:JA長野の協力を得て、ビール酵母細胞壁を用いた肥料を使ったレタスの試験栽培を始めました。ビール酵母細胞壁は水に溶けにくいため、そのままでは植物が吸収できません。そこで、ビール酵母細胞壁を細かく分解し、植物が栄養分を吸収しやすくなるよう加工したところ、この肥料をかけたレタスはほとんどが病気になったり枯れたりせず、健康に育ったのです。

 そこで、より多くの生産者に肥料を使ってもらったところ、水稲や小麦、じゃがいも、大豆でも、ビール酵母を使うと通常より約2割も多く収穫できることが確認されました。さらに研究を重ねると、ビール酵母細胞壁には植物の根の成長を促進し、植物の免疫力を高める効果があることが実証されたのです。さらには、水稲の収穫量当たりのCO2排出量を減らす効果もあるとわかりました。

 これらが今回、「地球環境大賞」の農林水産大臣賞を受賞するにあたって、高く評価して頂いた点です。ビール酵母はもともと食品にも使われているものですから、人にも環境にも優しい農業の実現につながります。植物の根の成長を促進する効果が確認されたことから、日照不足などの悪環境においても安定的に農作物を生産できるのではないかという点も期待して頂いたようです。

左:通常栽培 右:ビール酵母細胞壁処理 左:通常栽培
右:ビール酵母細胞壁処理

―ビール酵母にはすごい力があるのですね!

北川: ようやくビール酵母の効果を実証するデータが出揃ったばかりなので、これから本格的に事業化や商品化を検討したいと考えています。海外展開も視野に入れ、すでにタイやベトナムなどの東南アジアでビール酵母を使った栽培実験を進めています。ここでも作物の増収効果が確認され、現地での販売実現に向けて動いているところです。東南アジアは人口の爆発的な増加により、食糧危機の可能性が高まっていますから、アサヒグループとしてその課題解決に貢献できればと考えています。

 研究者として私が何より嬉しいのは、ビール酵母細胞壁入りの肥料を使った農家の方たちから「こんなにいいものを作ってくれてありがとう」という言葉を頂いた時です。農作物の病気を減らし、高い収穫量を維持できれば、生産者の収益を増やすことにも貢献できます。今後は国内外でより多くの人に使って頂き、農業に携わる皆さんのお役に立ちたいと思っています。