“ママさん研究者”が乳酸菌学会で優秀発表賞を受賞!

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“ママさん研究者”が乳酸菌学会で優秀発表賞を受賞!

 今年7月に開催された日本乳酸菌学会2016年度大会において、アサヒグループホールディングス(株)コアテクノロジー研究所の柳原沙恵が優秀発表賞を受賞しました。世界で初めて実証した“乳酸菌と免疫”に関する新たな知見をインパクトある写真を用いてプレゼンテーションし、学会参加者の注目を集めました。彼女がこの研究に取り組み始めたのは約6年前。その間に1年間の産休・育休を経て、育児と両立しながら困難な研究をやり遂げたのです。
 そんな“リケジョ”ならぬ“リケママ”な女性が、いかにして今まで誰もなし遂げられなかった研究を成功させたのか。その道のりをレポートします。

コアテクノロジー研究所
柳原 沙恵

―世界で初めて、乳酸菌が体内に取り込まれる謎を解明

 今回の研究発表で披露された “世界初”の知見は、乳酸菌が小腸から取り込まれ免疫細胞に渡されることを世界で初めて実証したというもの。小腸内の表面のところどころにM細胞という特殊な細胞があり、乳酸菌がそこから体内に取り込まれて、免疫細胞に渡されることを確認したのです。近年、“乳酸菌と免疫”について様々な研究が世界中で行われていますが、そもそも「口から入った乳酸菌がどのように免疫にアプローチするのか?」という点に着目した研究者は多くなく、また技術的にも容易ではなかったことから、誰も明らかにしていませんでした。そこに着目した柳原が苦労の末、撮影に成功して、目で見てわかる形で実証したのは、非常に画期的な成果です。
 さらにもう1つ、“M細胞から取り込まれやすい乳酸菌”の特徴の一つとして「SlpA」という乳酸菌の表面にあるタンパク質が重要であることを明らかにしました。今回の実験では、アサヒグループが保有する「ラクトバチルス・アシドフィルス L-92株」(以下、「L-92株」)を用いています。「L-92株」は、インフルエンザの感染予防やアレルギー症状の改善など免疫に働きかけることを特徴とする乳酸菌です。「L-92株」は「SlpA」をたくさん持っていることはこれまでの研究でわかっていましたが、今回の発見により、「L-92株」が免疫に働きかける理由、また、そのメカニズムの解明に向けて大きく前進したと考えています。

乳酸菌(赤)がM細胞から取り込まれ、免疫細胞(青)に渡されている様子。共焦点顕微鏡を用いて撮影。(右は模式図)

―「細かい作業を地道に続ける」

 この2つの快挙に辿り着くことになる研究に柳原が着手したのは、入社2年目のことでした。「L-92株」の働きを明らかにするため、当時のカルピス(株)発酵応用研究所(現アサヒグループホールディングス(株)コアテクノロジー研究所)が理化学研究所と共同研究プロジェクトをスタートさせることになり、柳原がそのメンバーに抜擢されたのです。
「私は大学時代から乳酸菌を研究してきたので、乳酸菌と免疫との関係は関心のあるテーマでした。それに、理化学研究所という日本を代表する研究機関と一緒に取り組むチャンスをもらえたのですから、ぜひ頑張ってみたいと思いました。」

 しかし、それは決してたやすいことではありませんでした。前述の通り、乳酸菌が免疫に働きかける仕組みを明らかにするのは技術的にもハードルが高かったからです。しかも柳原は、データやグラフで根拠を示すのではなく、画像で視覚的に示すことにこだわりました。
「私たちの研究は、一般の方たちからはどうしても『難しそう』というイメージを持たれがちです。でも、写真などで視覚的に見せられれば、誰にでもわかりやすく研究内容を伝えられるはず。乳酸菌の良さを広く知ってもらうためにも、ぜひビジュアルで証明したいと考えました」
 そのために柳原は、日々、顕微鏡でひたすら観察するという地道な実験を繰り返しました。
「最初はなかなかうまくできず苦労しました。乳酸菌を取り込む入り口になると予想されたM細胞は、数μmという小ささ(1μm=1/1000mm)。しかも周囲は絨毛と呼ばれる細かいひだに囲まれているので、M細胞を撮影するには、顕微鏡をのぞきながら絨毛を取り除く作業も必要でした」
 柳原は週に4~5回、理化学研究所に通ってこれらの実験を続けました。そして約半年後、ようやく乳酸菌がM細胞に取り込まれる瞬間の撮影に成功したのです。しかし柳原にとっては、この快挙もひとつの通過点に過ぎませんでした。
「これでようやく、研究のスタートラインに立てたという気持ちでしたね。その先にはなぜ『L-92株』には免疫に働きかける特徴があるのか』を解明するという目標がありましたから。」

M細胞からの取り込みの鍵となる乳酸菌表面の「SlpA」

―周囲の協力も得ながら、研究と育児を両立

 こうして、今度は分子レベルで「L-92株」の特徴を解明する研究が始まりました。結果的には、ここからさらに5年をかけて、今回の乳酸菌学会で発表した成果に辿り着いたのです。「生来の粘り強さがあったから、ここまで来られたのだと思う。」と話す柳原。その途中、プライベートでは出産という大きな転機を経験しました。産休・育休で一年間研究を離れることや、復帰後に育児と研究を両立することに不安はなかったのでしょうか。
「もちろん不安はありましたが、主人と協力して研究を続けられる体制を作りました。子どもが熱を出して保育園から呼び出しがかかった時や、重要な実験や会議のある日は主人に保育園へ迎えに行ってもらったり。私自身も、急な呼び出しに備えて締め切りより早めに仕事を終わらせるようにして、仕事に支障が出ないよう心がけたつもりです。復帰後は時短勤務だったので、研究所にいる時間が短い分、周囲の人となるべく密にコミュニケーションをとるようにもしました。それでも、上司やメンバーにはたくさん迷惑をかけたと思うので、支えてくれる周囲の人たちにはいつも本当に感謝しています。」
 今回、乳酸菌学会での受賞という大きな評価を手にしましたが、柳原はすでに次の目標へ向けて動き出しています。
「研究の仕事が好きなのは、新しい発見が得られるから。今後も、難しいと思われている研究の成果を一般の方たちにわかりやすく示していきたい。そして、アサヒグループの研究を国内外に広くアピールしていければと思っています。」
 柳原が証明した「SlpA」というタンパク質の機能は、食品だけでなく製薬の分野でも活用できる可能性があります。乳酸菌の研究を通じて、その成果を社会に広く役立てていきたい。そんな思いが、研究を続ける大きな原動力になっています。

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