「暗闇ごはん」で体験した非日常の食事を通じて、改めて感じたこと

[サステナビリティ]

「暗闇ごはん」で非日常を体験する!

 11月11日と毎月11日に設定された「いただきますの日」。それにちなんだイベント「いただきますの日感謝祭」が、11月11・14・15日の3日間に渡って行われた。これは2012年から「いただきますの日」普及推進委員会とアサヒグループが共同で年に一度開催しているもので、食に関するユニークな催しを毎年行っている。昨年は間伐材を利用した「お箸作りワークショップ」を取材したが、今年は「暗闇ごはん」のレポートをお届けしよう。

当日は、雨空にも関わらず多くの方が参加されました。

「自分は何を食べているか」を真剣に考える

 「暗闇ごはん」とは、明かりを落とした部屋でアイマスクをつけ、何も見えない状態で食事をするイベントだ。講師は東京・浅草にある緑泉寺の住職、青江覚峰さん。もともと暗闇ごはんは10年ほど前から緑泉寺で定期的に開催されているイベントで、今日は「いただきますの日感謝祭」のためにアサヒグループ本社隣のビルにあるレストランへ出張して行われた。
 会場に入ると、すでに定員40名の席は埋まりつつある。友人同士で来ている人もいるが、一人での参加も多いようだ。テーブルにはお箸がセットされ、アイマスクが置かれている。それを見て、「何も見えないのに、お箸を使って食べられるんだろうか。そもそも何を食べているかわかるのか?」と早くも期待と不安でドキドキしてきた。

当日は、雨空にも関わらず多くの方が参加されました。

 そしていよいよ、1品目がテーブルに置かれた。青江さんから「皆さんの正面にグラスがあります」と説明が。こわごわ手を伸ばすと、確かにグラスがある。器の位置がわかっただけで、これほど安心するとは。そしてグラスに口をつけると......。この味と香りはトマトだ! トマトの冷製スープといった感じだろうか。
 続いて2品目。「お皿に前菜がのっています」と説明がある。しかし、お箸を使う最初の料理とあって、案の定うまくいかない。お箸の先に何か当たっているのはわかるが、なかなかつまめないのだ。何度かトライするうち、ようやくお箸の間に食べ物が挟まった感触があり、ゆっくり口に運ぶ。食べた瞬間、ごまが入っていると直感。だが、この甘みは何だろう? 隣から「柿じゃない?」という声がする。もう一度噛み締めると、確かに柿のような気もする......。口の中に何が入っているか、これほど真剣に考えたことがあっただろうか。

目隠しをしながら、視覚以外の感覚で食事を味わう参加者 目隠しをしながら、視覚以外の感覚で食事を味わう参加者

 こうして3品目、4品目と続くうち、暗闇でのお箸の使い方にも慣れ、料理そのものを楽しめるようになってきた。5品目からは、何やら香ばしいにおいが漂ってくる。「もしや揚げ物?」と箸をつけると、サクサクした衣の食感。どうやら当たりのようだ。だが、何を揚げているのか。肉や魚ではない。もっと味わいが淡白で...、そうか、お麩か湯葉かな? 最初は緊張が先立ったが、次第に自分が何を食べているのか考えるのが楽しくなってきた。

 このように食事は進み、「ここでアイマスクを外してください」と声がかかった。目を開けると部屋は明るくなっていて、丼ものが用意されている。 「それを食べながら、お話を聞いてくださいね」ということで、青江さんからタネ明かしが始まった。
 「最初に飲んだのは何かわかりました?」との質問に、あちこちから「トマト!」と声が。すると青江さんが、「皆さんが飲んだのは、これです」と小さなグラスを掲げて見せた。中身はなんと透明の液体! トマトなら赤いはずだ。他の人たちも戸惑いを見せる中、青江さんがにっこり笑って、「実はこれ、トマトなんですよ」とひと言。トマトを湯むきしたものを漉して、2日間寝かせると透明になるそう。ざわめく参加者を前に、青江さんは語りかけた。

アイマスクを取り外して、青江さんのお話を熱心に聞く参加者 アイマスクを取り外して、青江さんのお話を熱心に聞く参加者

 「目隠しをして飲むと、ほとんどの方がトマトと答えます。ところが目隠しをせずに飲むと、トマトと答えるのは6割程度で、あとはキュウリやナスという答えが返ってくるんですね。私たちは『トマトは赤い』という先入観があるので、透明な液体を見るとトマトではないと思ってしまう。つまり先入観があるがゆえに、ものが見えなくなることがあるのです」
 こうして食べたものが明かされるたび、「やっぱり!」「違ってたね」といった会話があちこちで交わされた。初対面の人も多いはずだが、同じ体験を共有したせいか、以前から知り合いだったかのような賑やかさだ。最後に青江さんは、参加者にこう問いかけた。
 「こんなに一生懸命食事をしたのは、いつ以来ですか?」
 「一週間ぶり?」「思い出せない」といった声に耳を傾けつつ、青江さんは「たまにはそんなことも考えながら、普段のお食事を召し上がって頂ければと思います」と話し、イベントはお開きとなった。

毎回異なるメニュー。一品ずつ丁寧に作られている。 毎回異なるメニュー。一品ずつ丁寧に作られている。

自分と食べ物が1対1で向き合える時間

 最後の問いの意味について、青江さんはこう話してくれた。
 「現代人は忙しいので、食事をしながらつい他のことを考えてしまいます。ランチをしている間も『午後は会議があるから、資料を用意しなくちゃ』などと考えている人も多いでしょう。つまり私たちは、食事に意識を向ける時間がとても短いのです。でも暗闇では何も見えないぶん、目の前のことに集中する。『これは何?』『おいしいかな?』と一生懸命に考え、自分と食べ物が1対1で向き合う時間を持てるのです。私が暗闇ごはんを始めたのも、皆さんがもともと持っている感受性を刺激したいという思いがあったからです」

湯島山緑泉寺院 住職 青江 覚峰さん 湯島山緑泉寺院
住職 青江 覚峰さん

 今年で4回目を迎えたこのイベントについて、「いただきますの日」普及推進委員会の有福英幸さんは、「今年は申し込み開始からすぐに定員が埋まったイベントも多く、毎年続けてきたことで広く認知されたという手応えを感じている」と話す。
 「『いただきますの日』は、"自然・いのち・労働・知恵・周りの人"への5つの感謝を通じて、心豊かな食卓や幸せな暮らしの時間を社会に広げていくためのプロジェクトです。暗闇ごはんは、まさにこの5つの感謝を包含している。何も見えないので、自然と独り言をつぶやいたり、隣の人に問いかけたりして、"周りの人"との一体感を得る。講師の青江さんは、"知恵"を使っておいしい料理を工夫してくださる。そして参加者が口にする食べ物はすべて尊い"いのち"であり、その命は"自然"が育むものであり、食卓に上るまでに多くの人の"労働"に支えられている。普段は惰性で『いただきます』を言っている人も、今日を"食"を見つめ直すきっかけにしてもらえたら嬉しいですね」

右:「いただきますの日」普及推進委員会代表 有福 英幸さん 
左:アサヒグループホールディングス(株)CSR部門マネジャー 松香 容子 右:「いただきますの日」普及推進委員会 代表 有福 英幸さん
左:アサヒグループホールディングス(株) CSR部門マネジャー 松香 容子

 また、アサヒグループホールディングス(株)CSR部門の松香容子は、「もともと食に関心のある方も、会場に来て知らない人たちと同じ体験をすることで、より鮮明な思い出として刻み込まれるのではないでしょうか。このイベントを通じて、アサヒグループが「長期ビジョン2020」で掲げる"食の感動"というテーマが多くの人に届き、皆さんの生活がより豊かなものになればと願っています」と話す。
 毎日何気なく食べていた食事が、ちょっと違ったものに思えてくる。暗闇でご飯を食べるという非日常的な体験は、そんな気づきを日常にもたらしてくれるに違いない。

写真:片山祐輔