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ホップポリフェノールがピロリ菌による疾病発症リスクの低減を動物実験で確認

ホップポリフェノールがヘリコバクター・ピロリ菌の産生する空胞化毒素を中和、無毒化することをマウスを用いた動物試験により確認いたしました。この研究成果は千葉大学大学院医学研究院・野田公俊教授(病原分子制御学)のグループと共同で行い、第78回日本細菌学会総会(平成17年4月4日〜6日)において、野田公俊教授とアサヒビールR&D本部未来技術研究所、長崎大学熱帯医学研究所病原分子機能解析分野・平山壽哉教授(病原細菌学)により発表されました。


 ヘリコバクター・ピロリ菌は、らせん状の形態を有するグラム陰性桿(かん)菌で、急性・慢性胃炎、胃潰瘍などの消化器疾患の発症に深く関与することが明らかとなっています。特に、ピロリ菌が産出する空胞化毒素は、胃の上皮細胞に作用して障害を引き起こし、炎症をもたらす病原因子であることが知られています。


 現在、臨床現場では、ピロリ菌に起因する消化器疾患を治療するために、抗生物質を用いた除菌治療が行われていますが、耐性菌の出現などの問題点も指摘されています。また、日本において約6千万人といわれるピロリ保菌者の全てに除菌治療を施すことは、医療費の問題などから困難であるとも言われ、日常的に用いうる「保菌者を発症させない」施策の確立がひとつの課題とされています。

  今回の研究では、培養したヒト由来AZ-521細胞に、空胞化毒素とホップポリフェノールを添加して細胞の空胞化の度合を観察しました。その結果、あわせて添加したホップポリフェノールの濃度に依存して、空胞化毒素が無毒化され細胞の空胞化が抑制されることが確認できました。さらに、4週齢のマウスに空胞化毒素とホップポリフェノールを経口投与し、48時間後に胃を摘出し顕微鏡により傷害の程度を観察しました。この結果、空胞化毒素のみを投与されたマウス群に比べ、ホップポリフェノールをあわせて投与された群では、有意に胃の傷害が抑制されたことが確認できました。

  今回の共同研究で、食品素材であるホップポリフェノールに極めて強い空胞化毒素の毒性中和効果があることを確認できたことにより、今後、ヒトへの有効性の検証を行う予定です。将来的にはホップポリフェノールを配合した食品の摂取により、消化器疾患の発症を予防する方法の確立に期待がもたれます。

  千葉大学とアサヒビールの研究グループは、今回の共同研究の成果をもとに、独立行政法人科学技術振興機構の平成16年度第2回委託開発事業に「ピロリ菌による疾病リスクを低減するホップ由来機能性ポリフェノールの開発」案件を応募し、このたび採択を受けました。今後、同事業による支援のもと、ホップポリフェノールを配合した食品の日常的な摂取による消化器疾患の発症予防効果確認を進め、機能の明確な食品の開発を目指します。

  アサヒグループでは、酒類事業で培われた原料・素材研究を基盤として、ホップポリフェノールをはじめとする各種天然素材の健康への機能やそのメカニズムの解明、さらに機能性素材としての応用を目指した研究活動を進めています。

  ホップポリフェノールについても、今回発表するピロリ菌による疾病発症リスク低減効果のほか、これまでにO−157が産生するベロ毒素の中和作用(特許出願中)や、「虫歯菌による歯垢形成抑制作用」(特許登録第3254553号)などの効果を確認しています。

こうした天然素材の機能性研究、応用研究を、新たな製品提案につなげ、「食」を通じたお客様の健康の増進に寄与していくことを目指します。
 アサヒビールの未来技術研究所と千葉大学大学院医学研究院・野田公俊教授の研究グループは、今回、培養細胞及び動物試験において、ホップポリフェノールがヘリコバクター・ピロリ菌の産出する空胞化毒素(VacA)の毒性を強力に中和・無毒化する効果を有することを、確認しました。
効果を確認した試験の詳細は、以下の通りです。

1.空胞化毒素の培養細胞に対する細胞毒性試験、接着試験
  試験は、空胞化毒素が結合するレセプターをもつヒト由来のAZ-521細胞(※1)に、一定濃度の空胞化毒素と各種濃度のホップポリフェノール溶液を添加し、37℃で8時間培養し、空胞化毒素による細胞の空胞化の度合を評価しました。
毒素によってもたらされる細胞の空胞化の度合は、赤色色素(ニュートラルレッド)溶液の空胞への取り込みによる色素沈着濃度によって評価しました。
その結果、図1のように、添加したホップポリフェノールの濃度に依存して、細胞の空胞化が抑制されたことが確認できました。10μg/mlのホップポリフェノール溶液をあわせて添加した場合は、ホップポリフェノールを全く加えなかった場合に比べ細胞の空胞化が10分の1以下となり、同素材が極めて高い、空胞化毒素の中和・無毒化効果をもつことがわかりました。

※1: AZ-521細胞はヒト胃癌由来細胞株で、ヘリコバクター・ピロリ菌の産出する空胞化毒素が結合するレセプターをもつことで知られる細胞株です。
 図1.細胞毒性試験(ホップポリフェノールの毒素中和効果
 さらに、ホップポリフェノールによる毒素中和効果の発現メカニズムを探るため、上記試験でもちいたAZ-521細胞に、各種濃度の空胞化毒素と一定濃度のホップポリフェノール溶液を添加し、37℃で4時間培養した後、細胞表面に接着した空胞化毒素の量を抗体染色手法により測定しました。

  この結果、空胞化毒素のみを添加した細胞においては、細胞表面に付着した毒素の量は、毒素量濃度が上がるにつれ上昇しましたが、ホップポリフェノール溶液をあわせて添加した場合、毒素のみ添加された細胞に対し10%未満に抑制されました。(図2)

  これにより、ホップポリフェノールによる空胞化毒素の中和効果は、ホップポリフェノールが空胞化毒素と強固に結合することにより、毒素の細胞表面への接着を抑制することで発現するものと考えられます。
図2.空胞化毒素と細胞との接着量
2.マウスによる胃傷害試験
試験は、24時間絶食した4週齢のマウス(N=15)に、体重10g当り5μgの空胞化毒素およびホップポリフェノール50μgを経口にて投与し、48時間後に胃を摘出、顕微鏡により傷害の程度を観察しました。 この結果、空胞化毒素のみを投与されたマウス群に比べ、ホップポリフェノールをあわせて投与された群では、有意に胃の傷害が抑制されたことが確認できました。