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ビールの香味劣化を防ぐ麦芽製造法を開発

「大麦を麦芽に加工する製麦工程で、製品化されたビールの香味劣化に関わる物質を低減させ、ビールのおいしさを長持ちさせる」方法を開発しました。
この酒類研究所の研究成果については、第50回日本食品科学工学会(平成15年9月11日〜13日開催)にて発表いたしました。
この成果にもとづいた製麦法について特許出願を行うとともに、契約している海外の製麦業者にこの方法で製麦を依頼し、ビール製品にこの方法で製麦した麦芽を順次使用し、より品質の高いビールの提供につなげていきます。

 「工場で飲むビールが一番おいしい」と言われるように、一般的にビールは、製造後新しければ新しいほど美味しく、製造してから日数が経過するほど香味の劣化が進むとされています。アサヒビール(株)では、1993年より、全社的な活動として、ビールの製造から店頭に届くまでの日数の短縮を柱とした、「フレッシュマネジメント活動」を展開し、お客様により品質の高いビールを提供する取組みを進めています。

 一方、商品技術開発本部では、原料の選定、仕込、発酵、貯酒、パッケージング、さらには保管・輸送に至るまで、ビールの品質を如何に向上させ、また製品の香味劣化を防ぐのかに関する研究活動を行っています。今回、そうした研究の一環として、ビールの主原料である麦芽の製造工程(製麦工程)における、醸造・製造後のビールの香味劣化に関わる物質の生成量の変化に着目し、それを低減させる方法を開発したものです。この研究成果により、製麦して麦芽となるビール大麦の種類に関係なく、製造後の保存期間中のビールの品質維持がいっそう進められ、お客様へより美味しいビールを提供することが可能になります。

 製品化されたビールの香味劣化については、過去の研究から、ビール中でのT2N(トランス-2-ノネナール)生成量と強い相関があることがわかっています。劣化したビールは、カードボード臭といわれる異臭がついたり、渋味がでたりして、ビール本来の爽快な香味が損なわれていきます。劣化成分が生成されるメカニズムは、まず、麦芽由来の酵素LOX(リポキシゲナーゼ)が、仕込み工程で脂肪酸類を酸化させて劣化原因因子をつくり、その後ビール製品となって保存される間に、ビール中で、その劣化原因因子が、劣化成分本体に変化するものと考えられています。T2Nは、そうした劣化成分の代表的なものです。

 製麦工程では、まず、ビール大麦を水に浸し(浸麦)、発芽させた後、熱風により乾燥させる焙燥を行い、ビール原料となる麦芽をつくります。今回の研究では、浸麦、発芽、焙燥の各段階でのLOXの活性を子細に研究し、特にLOX活性に関わるとみられた焙燥条件をコントロールすることで、出来あがる麦芽のLOX活性を低減することに成功したものです。

 こうしてLOX活性を低減した麦芽を用いて試醸したビールの強制劣化試験(37℃1週間保存)を行った結果、劣化物質の代表であるT2N含量は、約25%減少しました。したがって、こうした製麦工程を用いることで、製品化したビールの香味安定性を増し、劣化を遅らせることができることが分かりました。

 アサヒビール(株)では、契約している海外の製麦業者にこの方法で製麦を依頼し、ビール製品にこの方法で製麦した麦芽を順次使用し、より品質の高いビールの提供につなげていきます。
「有害」という表現は、ビールに生育し「液が混濁する」「味が変る」「臭いがつく」ことにより“商品としての価値を失う”という意味で使用しています。「お腹をこわす」等、人体にとって健康を害するような影響を及ぼすことを意味するものではありません。また、ビールにおいて健康を損なう微生物が生育しないことは一般的に 知られており、当社の調査でも確認しています。
 アサヒビール(株)商品技術開発本部酒類研究所では、今回の研究において、保存中のビールの品質維持を目的に、ビールの主原料である麦芽をつくる製麦工程の抜本的な見直しを行い、ビールの劣化の原因となる酵素であるLOX(リポキシゲナーゼ)を低減する方法を開発しました。なお、この製麦方法について、特許を出願中です。(研究には、子会社のアサヒビールモルト株式会社が協力しています。)

 製品ビールの香味の劣化は、麦芽中の酵素LOXが、麦汁製造工程中に脂肪酸類を酸化することによって、劣化原因因子を作り、その劣化原因因子がビール保存期間中に劣化成分本体に変化することで起ると考えられています。今回の研究では、ビール中の劣化成分の一つとされているT2N(トランスー2-ノネナール)の生成量を、製品ビールの劣化度合の指標として用いて、製麦工程でLOX酵素を低減した麦芽を作成した上で、それを用いて醸造したビールのT2N生成量を通常ビールと比較し、香味安定性を評価しました。
ビール劣化成分生成イメージ図
 ビール原料の麦芽を作る製麦工程おいて、大麦中のLOX活性は、発芽の時期から麦芽を乾燥させる焙燥初期工程中に最大化し、焙燥工程終了時までに失活していきます。商品技術開発本部酒類研究所で、製麦工程中のLOX活性を追跡したところ、焙燥工程の条件によって、麦芽中でのLOX残存活性に違いがあることがわかりました。

 図2は、焙燥工程を示したもので、プログラムされた温度の熱風を麦芽の下から吹き込み、焙燥を行います。通常は、熱風は一部循環再利用されます。また、熱風の温度は、図3に示すように、20〜40時間程度かけて昇温させて、焙燥を行います。
焙燥設備の模式図焙燥工程中の温度プログラム例
そこで、(1)空気循環の有無、(2)熱風吹込量、(3)焙燥初期温度、(4)焙燥終了温度の条件について、検討しました。

 図4は、(1)、(2)、(3)の条件について検討した結果を示しています。その結果、空気循環をせず、熱風吹込量を30%増加させ、焙燥初期温度を55℃から15℃程度低下させることによって、LOX活性が大幅に低下することがわかりました。
試験製麦における麦芽LOX活性(1)試験製麦における麦芽LOX活性(2)
 次に、焙燥工程終了時の最終温度について、3つの温度(75℃、83℃、90℃)で比較を行いました(図5)。その結果、最終温度が高いほど、LOX活性が低下することがわかりました。

 これらの施策を組み合わせて、海外の製麦工場で、試験製麦を行った結果、麦芽のLOX残存活性は通常の製麦工程を経た麦芽に対し、約70%も減少させることができました(図6)。

 さらに、その条件で試験製麦を行った麦芽を用いて試醸したビールの強制劣化試験(37℃・1週間保存)を行った結果、劣化物質の代表であるT2N含量は、対照のビールと比べ約25%減少しました(図7)。更に、当社専門パネルによる官能評価を行った結果、香味安定性が改善されていることが判りました。
試験製麦における麦芽LOX活性(2)試験製麦における麦芽LOX活性(2)
この製麦法を用いれば、保存時のビールの品質維持に大きく寄与することがわかりました。