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研究レポート

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ビールを変敗させる乳酸菌の検出時間を大幅に短縮

乳酸菌は、時にビールを変敗させてしまう困りもの。アサヒグループでは、世界に先駆けて、従来難しいとされたビール混濁性乳酸菌を検出できる新たな検査培地の開発と、ビール混濁性乳酸菌がホップの抗菌成分に耐性を示すメカニズムを解き明かし、「日本農芸化学技術賞」(2011年)、「日本醸造学会奨励賞」(2007年)を受賞しています。「できたてのビールのうまさをお客様にお届けしたい」という強い想いから生まれた研究成果をご紹介します。

おいしいビールの敵となる乳酸菌を迅速に検出するには?

健康素材として親しまれている乳酸菌ですが、一方で、ビールの混濁や酸敗、異臭を引き起こし、ビールを変敗させてしまう微生物としても古くから知られています。特に、加熱殺菌処理を施さない生ビールは、厳密な乳酸菌対策が必要となります。しかし、ビール混濁性乳酸菌は従来型の培地では検出困難な菌もおり、その存在に気づけずにビールの品質を落としてしまうため、醸造関係者を悩ませていました。さらに、同じ菌種でも混濁性を示す株と示さない株があり、一方で、強い混濁性を示す未知の乳酸菌種が突然出現することもあるため、乳酸菌を検出した後も、その混濁性の有無を判定するまでには数週間かかっていました。

検出困難なビール混濁性乳酸菌を検出できる
新たな検査培地を開発

ビール混濁性乳酸菌を確実に検出できる培地づくりを目指して、アサヒグループでは実に20年もの歳月を費やして研究にあたり、ビール混濁性乳酸菌がなぜ従来の検査培地では生育しにくいか、その理由を明らかにしました。その結果、ビール混濁性乳酸菌は、ビールという特殊な環境に高度に適応したため、従来型の検査培地に含まれる栄養成分がかえって生育を阻害していることを発見しました。そして、ビールを基に栄養成分添加を少量にとどめた新たなABD(Advanced Beer-spoiler Detection)培地を開発しました。これにより、従来型の検出培地では培養困難だったビール混濁性乳酸菌の検出に有効であることを実証しました。現在、この検出培地は、アサヒビールの国内全工場および海外ライセンス工場で実際に使用されています。

ビール混濁性乳酸菌Lactobacillus lindneriに対する各検査培地の検出力比較

ホップ耐性の謎の解明により、
ビール混濁性判定にかかる時間の大幅短縮に成功

ビールに混入した乳酸菌は、添加されるホップの抗菌成分により、生育が阻害されることが古くから知られています。しかし、一部の乳酸菌はホップ抗菌成分に強い耐性を示し、ビールの中で生育を続け、ビールを変敗させてしまいます。なぜごく一部の乳酸菌だけがホップ耐性を持つことができるのかは、ビール醸造界において100年以上大きな謎の一つでした。この謎を解くべくアサヒグループが研究をすすめた結果、ビール混濁性能をもつ乳酸菌に共通する遺伝子を発見しました。乳酸菌の細胞膜に存在する2つの膜タンパク質「HorA」「HorC」が、さまざまな物質を細胞外に排出する「多剤排出ポンプ」という機能を持っており、ホップ抗菌成分を細胞外に排出することで、ホップ耐性を獲得していたのです。ほとんど全てのビール混濁性乳酸菌が「hocA」または「horC」遺伝子を持つことがわかったことから、「hocA」または「horC」を遺伝子マーカーとして検出する、新たな検査方法を確立しました。その結果、従来は検出菌を製品ビールに接種して混濁性の有無を判定するという数週間かかっていたビール混濁性判定を最短で3時間まで大幅に短縮することにも成功しました。

ビール混濁性乳酸菌の膜タンパク質「HorA」「HorC」が
ホップ耐性を示すしくみ

乳酸菌(赤)がM細胞(緑)から取り込まれ、免疫細胞(青)に渡されている様子
今後の展望
微生物が生育環境へ適応するメカニズムを切り口とした検査法が一つ確立されたことで、今後はビールだけでなく、シードルやワイン、清酒などの酒類や、伝統的な発酵食品分野への応用が期待できます。今後も、食品・飲料のおいしさと品質を守る研究を続けてまいります。

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