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研究レポート

Report39

ウイスキーの香りを最大限に愉しむグラスを開発
〜コンピュータ解析で香りの拡がりをシミュレーション〜

スモーキー、モルティー、フローラル、バニラ、フルーティー・・・など、ウイスキーの「香り」は非常に多岐にわたり、それぞれのウイスキーの大きな魅力となっています。アサヒビール(株)容器包装研究所では、ウイスキーの香りを最大限に愉しんでいただきたい、という想いから「香りに出逢うグラス」を開発しました。
 今回の開発では、「CAE」というコンピュータシミュレーションと、人の官能評価を組み合わせ、既存の形状に捉われない、新たなグラスの開発に成功しました。

アサヒの容器開発で活躍する【CAE】

アサヒグループでは、飲料や食品の開発だけでなく、容器包装の自社研究・開発にも注力しています。特にComputer Aided Engineering (CAE) 解析という工学的技術を、食品業界では先駆けて社内に導入しました。これはコンピュータを用いて設計段階から様々なシミュレーションを行い、高精度、高品質な製品の開発をするための技術で、航空や自動車業界をはじめ、建築、機械メーカーなどで用いられています。

当社では今までに、缶軽量化の際の耐圧性確認や、容器以外では錠剤の飲み込みやすさの改良などに、CAEを役立ててきました。通常これらの開発は、既存の容器や錠剤の形状を基に、少しずつ改良した試作品を作り、強度、耐久性、人の五感による使用感(官能評価)をはじめ、様々な項目について評価をしています。しかしこの方法は試作および評価に時間がかかるため、試験できる数が限られてしまい、多種多様な形状を試せないことが課題でした。そこでCAEを用いることにより、実際の容器などを試作をせずとも、シミュレーションにより評価ができるようになりました(図1)。これにより検討できる条件の量が増え、開発のスピード・質・精度が大きく向上しました。またシミュレーションは、評価項目のひとつである官能評価とも、近い結果を示すようになってきています。

図1:CAEを用いた開発の利点

香りの拡散を【シミュレーション】する

今回、アサヒビール(株)容器包装研究所では、容器を通じて食品に新しい価値を付加するため、「香り」という要素に着目し、ウイスキーの香りをより強く豊かに感じられるグラスの開発に取り組みました。開発にあたり、グラス内に香りを充満させてからの方がより香りを愉しめると考え、グラスにフタを組み合わせることを想定しました。フタをして香りが充分に満たされた後に、フタを開けた時の香りの挙動を、CAE解析を用いてシミュレーションすることにしました。

CAEでは、グラスの形状、グラス内部に充満する成分の密度、物性、温度など様々な指標を元に、フタを開けた時の空気の流れをシミュレーションします。ここではグラスの上部に流速を発生させ、グラス内の空気が引張られる、という考え方で、シミュレーションを構築しました(図2)。物理的指標の中でも、特に「拡散物質の濃度×流速」に応じて空気の流れを表示させることで、香りの拡散をシミュレーションすることに成功しました。

図2:グラス内の香り拡散のシミュレーションの考え方

このシミュレーションは、特殊な赤外線カメラを用いて、撮影した既存グラスでの香りの拡がりの挙動と一致し、モデルの正当性を確認することができました。(動画1:カメラ、動画2:シミュレーション)

シミュレーションを用いて、短時間で20種類のグラスにおける香りの拡散を検討し、「液面にあたる部分の面積が大きく、丸みを帯び、口部に向けて狭まっている形状」の場合に、フタを外した時に香りが強く感じられる、という解析結果が得られました。

動画1:赤外線カメラで撮影した香りの拡散
動画2:シミュレーションでの香りの拡散

シミュレーション結果を【官能で検証】する

ここまで工学的なアプローチを行ってきましたが、シミュレーションの結果が本当に人の嗅覚と相関するのか、確認する必要があります。そこで、ニッカウヰスキー(株)で味づくりを担うブレンダーたちによる官能評価を行い、シミュレーション結果と比較しました。

「液面部の面積が大きく、丸みを帯び、口部が狭まっている形状」という解析結果を精査するため、口部から液面までの傾斜や距離が異なるグラスを数種類について、官能検査にて検証しました。すると官能検査においても、CAE解析と一致して「大きい空寸部、小さい口部で丸みを帯びている」グラスで非常に香りを強く感じる、という結果が得られました。

多くのシミュレーションの結果から、最終的に3種類のグラスに絞り込み、実際に作成しました。そしてブレンダーの評価により、この3種類の中でも最も香りを強く感じる形状のグラスを「香りに出逢うグラス」として決定しました(図3、動画3)。

なお、CAEを用いたグラス形状の決定方法は、一連の工程を特許申請(出願番号:特願2016-155839)しています。

図3:香りに出逢うグラス
動画3:香りに出逢うグラスの香り拡散シミュレーション

このグラス開発をきっかけとして、ウイスキーの香りにスポットをあてた「ブラックニッカ 香るバー」のイベント開催や、「ウイスキーは香りの宇宙」の動画制作などが実施され、多くのお客様にウィスキーの新しい愉しみ方を体験していただきました(図4)。

図4:2017年夏に開催したブラックニッカ 香るバー
まとめ
近年、大手食品・飲料企業や、トイレタリー企業でも、CAEの技術を導入し、容器包装や生産技術開発に役立てるケースが増えつつあります。CAEは導入や利用のために、多岐に渡る知識が必要となりますが、運用できれば非常に多くのメリットがあります。今まで述べてきたように開発速度・精度が向上するだけでなく、止めることができない生産ライン条件や、宇宙空間などの再現困難な場合も検討できるため、開発の可能性が大きく拡大します。
 様々な新価値創出のためには、CAE解析のような新技術の導入や、既存技術との組み合わせが重要となります。アサヒグループではCAEを筆頭に、今後も様々な技術を食品や環境などの分野で活用し、新しい価値を生み出して参ります。

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