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青山ハッピー研究所 ハピ研

「人がしあわせを感じるモノやコトって、何だろう?」衣・食・住・美など生活に密着したテーマでその答えを考える"しあわせ探しの情報サイト"

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今の時代の気分やリアルコンシューマーを読み取る一冊。

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あなたのしあわせのシンボルは何ですか?ぬいぐるみ?あんこのつまったたいやき?現代の日本人が考えるしあわせの姿を形にした必読の一冊。

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人と本の新しい形の出会いを模索
〜紙束をぺらぺらとめくる所作が失われつつある

以前は書店で働いていましたが、21世紀になった辺りから人が来てくれなくなり、それなら自分が人のいる場所に本を持っていこうと思い、この仕事を始めました。その後は、人と本の新しい形の出会いを模索しています。例えば、不定期ですが、東京ミッドタウンの芝生広場で本の貸し出しサービスを行っています。50個のバスケットにそれぞれ3冊の本と敷物を入れ、本の中身のヒントを書いた札を付けておくんですね。「こんなところに行きたいな」とか「犬が好き過ぎる」とか。今年のゴールデンウイークに開いた時は、近くにドイツワインの屋台が出ていたので、ワインをたらふく飲みながら寝転んで気持ち良く読書できるわけです。そういう場所だと、普段は本を読まない人が読んでくれるんですよ。例えば、中年男性の一人のお客さんについてなのですが、彼は敷物がタダという理由で借りて、風で飛ばないように本を重しに使っていたんです。そしてご飯やワインを楽しんでいましたが、目の前に紙束があると開いてみたくなるのでしょうね。2年ぶりに本を読んだそうです。

出版業界の真ん中にいる我々からすると、2年も本を開かない方がいるのは驚きですが、それを嘆くより、久しぶりに読んでもらったことを喜ぶべきではないかと。出版社が潰れまくって雑誌に広告が入らないなどと言われていますが、何が一番怖いかといえば、身体がページをめくるという感覚を忘れることではないでしょうか。紙束をぺらぺらとめくる所作は、確かに日常から失われつつあります。それをもう一度取り戻すためなら、お酒の力でも、芝生の力でも、何でも借りますよ。開いてもらえば、こっちのものですから。そんな風に、どんな場所で読んでもいい、途中で読むのを止めてもいい、読書をもっと自由にしたいなどと思いつつ、最近は仕事をしています。

ウイスキーの奥深さを教えてくれた一冊

■『もし僕らの言葉がウイスキーであったなら』(新潮社)/村上春樹著

昔の僕は、ビールばかり飲んでいました。その後、ワインバーでバイトをしたのを機にワインにはまって、「ワイン最高」と思っていた頃に出会ったのが、村上春樹さんの『もし僕らの言葉がウイスキーであったなら』という一冊のエッセイ集。皆さんは、読まれましたか。この本は、僕とウイスキーを結び付けてくれました。村上さんと奥様の陽子さんがスコットランドとアイルランドにウイスキーを飲みに行く様子がつづられた旅日記形式で、村上さんが文章を書かれ、洋子さんが写真を撮られています。シングルモルトの聖地と言われるスコットランドのアイラ島で、あらゆるシングルモルトを飲みまくる村上さんは、とても楽しそうですね。僕がびっくりしたのが、村上さんが前書きの文章でウイスキーに「敗北宣言」をしていること。タイトルになっている一文について、彼はこう語っているんです。

「もし僕らのことばがウイスキーであったなら、もちろん、これほど苦労することもなかったはずだ。僕は黙ってグラスを差し出し、あなたはそれを受け取って静かに喉に送り込む、それだけですんだはずだ。とてもシンプルで、とても親密で、とても正確だ。しかし残念ながら、僕らはことばがことばであり、ことばでしかない世界に住んでいる。僕らはすべてのものごとを、何かべつの素面のものに置き換えて語り、その限定性の中で生きていくしかない」(『もし僕らの言葉がウイスキーであったなら』より)

つまり、ウイスキーの方が言葉よりも雄弁に語っているということなのですが、とても期待感を抱かせる前書きですね。一冊丸ごとウイスキーに捧げたこういう本を読むと、ウイスキーの味の複雑性というか、雄弁性みたいなものの素晴らしさを改めて感じます。こんな本が476円(新潮文庫)で読めるなんて、安い。

「一人酒」を極めるための指南書

■『酒 肴 酒』(光文社文庫)/吉田健一著

ところで、お酒に関して書かれた本は面白いと思えるものが少ないんですよね。なんというか、お酒に寄りすぎているというのか。小説のシーンに登場するお酒の描写の方がいいと思うことが多いです。ところが、この人だけは別格と思わされるのが、吉田健一さん。今日持ってきたのは、お酒について書かれたエッセイ集、その名も『酒 肴 酒』という一冊です。吉田さんの飲みっぷりは、どこか可愛さを感じさせるんですよ。父親は元首相の吉田茂で、幼少の頃から海外を転々として世界中の美味しいものを食べきたという、ほとんど貴族みたいな育ちですが、戦後の一時期、不遇な貧乏生活を味わい、その後、筆一本で身を立てた方です。彼がお酒について書いた量や深さは上回る人を、僕は知りませんね。

吉田さんは日本酒が好きな方でした。洋酒はシチュエーションによって飲み分けることが多いのに対し、日本酒は最初に飲もうが、食事中に飲もうが、最後に飲もうが、何かと合わせて飲もうが、一人で飲もうが、大勢で飲もうが、いつでも旨い、こんな万能な酒はないということを言っています。そして、一人酒をまったく恐れぬ姿がまたいい。それこそ「バー読」の話をすれば、一人でバーカウンターに座ってお酒を飲みながら本を読むのは、「何だかカッコ良過ぎるのでは」と、ドキドキしてしまう方もいるでしょう。僕も昔はそうでした。しかし、吉田さんに言わせれば、他人の視点を意識している時点で、まだ一人酒ではないんです。周りを気にしながら飲むのは、大勢で飲むのと同じであり、完全に自分の世界に入らなければ一人酒ではないのだ、と。吉田さんクラスになると、一人で飲みながら笑っていたりとか、ハタから見たらとても気持ち悪いことになっていますからね(笑)。僕もそんな酒飲みを目指したい、と、ちょっと思います。本題に入りますと、吉田さんは、酔っ払って書いたのかと思わせる、くねくねとした文体が特徴です。この本の冒頭を読んでみると――。

「ああでもない、こうでもないと文句をつけるのが食通だということについては前から疑問をもっているが、もしそれが確かに食通ならば、そういうものになりたいかどうかについては前から考えがきまっているので、そんなものになるよりは何も食べない方がいい、とは言えないから困る。あるいはそこに食通とそうでない人間の違いがあるのかも知れない。食通は気に入らないものしかなければ伯夷叔斉にでもなった積りで飢え死にするのではないかと思うが、我々にはそんな真似は出来ない」(『酒 肴 酒』より)

吉田さんの文章を読むだけで、酔っ払ってくるという人もいるくらいです。しかし、何と言うか、自然とたゆたうような、泰然自若としたうねりで、読んでいてまったく疲れません。酒飲みの師匠と呼ぶにはまだまだ僭越ですが、50年後に目指したいと思わせる、そんな吉田さんの本を、ぜひ手に取ってみてください。

身体感覚を刺激する「遅効性」の長編小説

■『百年の孤独』(新潮社)/ガブリエル・ガルシア=マルケス著

ウイスキーを飲みながら読みたい本を、もう一冊、ご紹介しましょう。コロンビアの作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』です。高校時代に初めて読みましたが、人生で初めて「分からないことが楽しい」と思えた小説でした。それまで小説を読むときは、何かを得たいという気持ちが強く、最終的に自分の中で割り切れるものを欲していましたが、この本に出会って考え方が変わりました。本というのは、本来、遅効性の道具であるはずです。ところが現代では、朝礼で部下に良い話をするために新書を読むような、即効性を求める読書が横行している気がしてなりません。最近のベストセラーがハウツー本で埋め尽くされていることも、その表れでしょう。まずタイトルで即効性を感じさせて瞬間的な情報を入れ、読んだ気にさせる本があまりに多いのが残念です。後からじわじわと効いてくる本こそ、本当に魅力的な本というのが僕の考えです。その点、『百年の孤独』に即効性はありません。マコンドという村を舞台に、ブエンディア家という一族の7代100年間にわたる栄枯盛衰が描かれていますが、読んでいて混乱すること、この上ない。まず登場人物の名前がホセ・アルカディオ・ブエンディアなどと長くて似通っていたり、頻繁に時系列が前後したり、とてもスラスラとは読めません。途中で本当に分からなくなってしまうんですよ。ところが、分からないことに対する不安がなぜか生じず、「分からないなりに、たゆたっていたい」と、むしろ分からないことに面白さを感じるんですね。何度も読んだら物語の構造が分かってしまい、逆に面白くなくなってしまったほどです。

各受講生が順番に持参したお気に入りの本を紹介した。

本とお酒の共通点といえば、どちらも生きていく上で絶対に必要ではない、ということもあるでしょう。どちらが欠けたからといって生命の危機は感じないですよね。生活の余白を楽しむという性格が、本にもお酒にもあると思います。それから、どちらも体に直結した感覚がありますよね。お酒を飲めば体中が反応しますし、『百年の孤独』や『失われた時を求めて』のような長大な作品をパラパラとめくる行為には感覚的な心地良さがあり、こういう本は電子書籍では読めないなと思わされます。電子書籍は、途中で読み返したくなって「大体この辺りかな」と戻るような感覚が欠けていると思うんです。ツルゲーネフの『初恋』にしたって、「こんなに薄い本なのに良いことがたくさん書いてあるな」という驚きや感動は、電子書籍では味わえないでしょう。身体に近いところにある情報は意外と大切で、それが欠落するのは不幸なことだと思っています。本が商品である以上、紙や印刷や流通のコストを考えると電子化の流れは避けられないかもしれませんが、作品の内容によって異なるフォーマットを用意するような配慮は、今後、必要になってくるでしょう。だって嫌じゃないですか、お酒を注射で注入されてしまったら(笑)。最後、話がちょっと横道に反れましたが、これからも皆さんの自由な読書生活がますます充実することを祈りつつ、今日の僕からの授業は終了したいと思います。

エピローグ

ブックコーディネーターの幅さん講師のもと、本好きの受講生約20名と共に進めてきた今回の授業。一般的に「講義」「授業」といえば、アルコールを飲みながらなんてあり得ない話ですが、今回は幅さんも、受講生もウイスキーを飲みながらのリラックスしたムードの中で行われました。授業が進行してくうちに、酔いが回ってきたせいか幅さんのトークも徐々に軽快さを増し、受講生たちの笑いが溢れる場面も多々…。電子書籍化が進み、紙の本の存続が危ぶまれる昨今の中で、1枚1枚ページを捲る必要のある紙の本の魅力は、どこか不器用でアナログなイメージの強いウイスキーにも相通じるものを感じます。「即効性」よりも「遅効性」、幅さんの言葉がズシッと心に残ります。くつろぎの時間に「読書」と「ウイスキー」を組み合わせる、そんな心と生活の余裕を持ちたいなと感じさせる素敵な授業となりました。

受講生の皆さんが選んだお気に入りの本

授業に参加された受講生の皆さんにも、ウイスキーグラスを傾けながら読みたい「星に関する本」を選んで持ってきていただきました。その中からいくつかをご紹介します。

『いま生きているという冒険 (よりみちパン!セ)』(理論社)/石川直樹著 星空と冒険はイメージが近いような気がします。平易な言葉で、いろいろな冒険の話がつづられたこの本。とくに想像力がかき立てられたのが、島と島の距離が離れたミクロネシアで星を羅針盤にして航海する「スターナビゲーション」の話です。
(30代男性・会社員)

『銀河鉄道の夜』(角川文庫)/宮沢賢治著 ウイスキーを飲んで酔ってしまっても、難しいことを考えずに世界観に浸れる本として選びました。星空に思いを巡らせるには、ぴったりの一冊だと思います。宮沢賢治も星空を眺めるのが好きだったそうですね。
(20代女性・自由業)

『羊の宇宙』(講談社)/夢枕獏著 老物理学者が羊飼いの少年と出会い、宇宙的な世界観について語り合う物語です。少年の素朴な発想から現代文明の矛盾を考えさせられます。ウイスキーを読みながらじっくりと読みたい一冊です。たむらしげるさんのイラストも素敵です。
(20代男性・大学院生)

『プラネタリウムのふたご』(講談社)/いしいしんじ著 装丁などで直感的に本を選ぶことがよくあるのですが、星空のテーマにした本ということで、まずプラネタリウムが思い浮かび、ジャケットとフォントの素敵さで、「良い本に違いない」と手に取りました。これから読みたいと思います。
(20代女性・学生)

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プロフィール

幅允孝さん(はば・よしたかさん/ブックディレクター、有限会社BACH代表)

人と本がもうすこし上手く出会えるよう、様々な場所で本の提案をしている。六本木ヒルズ「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」、新宿マルイアネックス「Brooklyn Parlor」、阪急メンズ館「THE LOBBY」などのショップにおける選書や、千里リハビリテーション病院、スルガ銀行ミッドタウン支店「d-labo」のライブラリ制作など、その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたる。最近では、東北大学の「book+cafe BOOOK」の選書を手掛ける。無類のお酒好きでもある。
>> www.bach-inc.com