エグゼクティブ・サマリーでは、昨年まで取り組んできた「中期経営計画2015」の成果と課題の総括、今後の外部環境、更新致しました「長期ビジョン」と新たに策定した「中期経営方針」について、まとめています。
総括としては、2013年にスタートした「中期経営計画2015」において、「強み」に集中した売上・利益の成長に加えて、株主還元の充実など資本効率の向上を図ることにより、企業価値の向上に取り組みました。
この3年間は、競争環境の激化や中国をはじめとした新興国経済の鈍化など、国内外ともに厳しい事業環境となりましたが、NO.1ブランドの育成による総合酒類化の進展など、各事業で強いブランド基盤を拡大してきました。
また、カルピスやオセアニアにおける統合シナジーの創出など、400億円を上回る収益構造改革の実行に加えて、総還元性向が累計79%となる株主還元の充実などにより、ROEとEPSの目標達成に繋げることができました。
一方、酒類や飲料といった主力事業の競争が激しくなる中、今後は、持続的な成長につながるイノベーションなど、更なる高付加価値化や新需要の創出が課題となっています。
また海外では、オセアニア事業の構造改革が進んでいますが、東南アジアを含めトータルの収益改善が遅れていること、また、グローバルな大型再編が進む中、海外での成長基盤の拡大が急務となっています。
ROEやEPSの目標は達成したものの、収益性のガイドラインであるEBITDAの成長率や営業利益率は未達となっています。
企業価値の向上につながるKPIは、資本政策も合わせて達成した一方で、最優先としていた利益成長、いわゆる「稼ぐ力」の強化には課題を残しました。
国内においては、20年来続いたデフレからの脱却が正念場を迎える中、来年以降には、消費税の再増税や酒税改正などが見込まれるなど、今後は、消費の多様化や多価値化が更に進んでいくことが想定されます。
また海外では、中国をはじめとして新興国経済の成長が鈍化する中、ビールビジネスにおけるグローバルな大型再編が進行するなど、当社にとって、短期的にも中長期的にも、多様な「リスクと機会」が顕在化しています。
こうした流れの中、下段のSWOT分析にも記載しているように、国内、海外ともに、当社の「強み」を活かす成長機会は拡大してくるものと認識しています。
さらに、日本版スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの策定などに応じて、日本企業の経営スタイルや投資家の皆様をはじめとするステークホルダーの視点は、より「持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」にシフトしていくものと理解しています。
こうした総括と外部環境の変化を踏まえ、2012年に策定した「長期ビジョン2020」は、基本方針を踏襲しつつ、10年程度先を見据えた“事業の将来像”を付加した『長期ビジョン』として見直しました。
新たに付加した将来像としては、国内では「高付加価値化を基軸とするリーディングカンパニー」を目指すとともに、「日本発の強みを活かすグローバルプレイヤーとして、独自のポジションを確立する」ことを掲げています。
国内では、消費の多様化や健康機能など付加価値に対する需要は拡大しており、成熟する国内市場においても、今後は、高付加価値化を基軸として成長を果たしていくことは十分可能だと考えています。
酒類を中核とした総合飲料・食品グループとして、多様なトップブランドやカテゴリーを持つ強みを活かし、業界全体の「価値競争」を主導するリーディングカンパニーを目指していく方針です。
さらに海外では、プレミアム価格帯における「スーパードライ」のグローバルブランド化など、「高品質なブランド育成力」や「コスト競争力」といった「強み」を活かすグローバルプレイヤーとして、独自のポジションの確立を目指していきます。
世界経済全体が減速する可能性もある中、これからの海外戦略に必要なことは、グローバル市場における差別化されたポジションの確立であり、今こそ、厳しいデフレ環境下で培ってきた日本発の「強み」を活かし、グローバルに成長する「新たなアサヒグループ」を目指していきたいと思います。
今回より、従来の「中期経営計画」については「中期経営方針」として改め、これまでのアクションプラン型であった内容から、中期的な経営方針に重点を置いた形式に移行していきます。
年次計画は従来通り開示致しますが、「中期経営方針」では、期限を区切った固定的な定量目標は設定せず、3年程度先を想定した主要指標のガイドラインを示しつつ、事業環境の変化などに応じてローリングしていく方針です。今後の3年間を見通すと、国内外ともに不確実性が高まる中、あらゆる「リスクと機会」が急速に顕在化してくるものと想定しています。こうした環境下では、過度に数値目標に縛られない経営の柔軟性を確保するとともに、中期経営方針を建設的な対話の議題として、ステークホルダーとの対話を深めながら、課題解決と業績の拡大を図っていきます。
具体的に今回の「中期経営方針」では、「企業価値向上経営の更なる深化」を目指し、「稼ぐ力の強化」、「資産・資本効率の向上」、「ESGへの取り組み強化」の3点を重点課題として掲げています。
特に「稼ぐ力」の強化を最優先課題として、国内においては、同質化による価格競争ではなく、高付加価値、差別化を軸としたミックス改善やイノベーションにおいて、リーダーシップを発揮していきます。また、既に着手している飲料・食品事業の統合など、収益構造改革の推進に加えて、強い事業の集合体として各事業のビジネスモデルの進化に取り組みます。さらに海外では、既存事業の成長戦略に加えて、「強み」を活かす新たな成長基盤の獲得により「稼ぐ力」を高めていきます。
二つ目の重点課題は、資産・資本効率の向上となります。昨年までの中期計画においても、資本効率を重視した経営に努めましたが、引き続き、エクイティスプレッドなど資本コストを踏また資本効率の向上に努めていきます。またROEについては、財務レバレッジなど資本政策に依存するのではなく、ROICを活用した事業管理やポートフォリオの再構築などに取り組みます。
三つ目の重点課題は、ESGへの取り組み強化です。外部環境でも触れましたが、各種コードの策定などを受けて、事業会社は、より「持続的な成長」や「中長期的な企業価値」を重視した経営が求められてくるものと思います。そこで改めて、事業活動を展開する上で必要不可欠なサステナビリティの向上を目指し、環境、社会、ガバナンスへの取り組みを一層強化していきます。
「中期経営方針」の主要指標のガイドラインについて説明します。
売上高については、引き続き主力事業の安定的な成長を図ると共に、選択と集中による事業再編や新規のM&Aに取り組みます。また、営業利益については、既存事業では、年平均一桁後半の成長率を目指しつつ、新規M&Aによる積み上げを図っていきます。
こうした取り組みの結果指標として、EPSでは、引き続き年平均10%程度の成長を目指すと共に、ROEでは株主資本コストを上回る10%以上の水準の維持・向上を図っていきます。
キャッシュフローについては、営業CFに加えて、資産見直しなどの最大化施策を推進し、累計で4700億円以上の創出を目指します。
設備投資については、持続的成長の土台となる既存設備のリニューアル、収益構造改革に資する効率化投資、海外拠点の再編などを中心として、1800億円から2200億円程度の投資を見込んでいます。
フリーキャッシュフローについては、引き続き成長投資と株主還元のバランスに鑑みて活用していきます。
また、株主還元については、前回の中計方針のように総還元性向は設定せず、成長投資への配分を優先しつつ、その進捗などに応じて自社株買いを検討していく方針です。
外部環境の「リスクと機会」を踏まえ、現時点ではグループの成長基盤の拡大を最優先とすることで、持続的な成長に繋げていきたいと思います。
「稼ぐ力」の強化について、事業毎にブレークダウンして説明します。
先ず、グループ最大のキャッシュカウビジネスである酒類事業については、その高い収益性の維持・拡大を図っていくことが最大のミッションとなります。ビール類に加え、洋酒やワイン、アルコールテイスト飲料におけるトップブランドの育成などで成果を上げるなか、今後は、総合酒類No.1企業として、高付加価値化や業界全体の収益性向上に向けて、リーダーシップを発揮していく方針です。また、各カテゴリーでファーストエントリーを目指したイノベーションに注力すると共に、Eコマースへの展開など、ビジネスモデル自体の進化にも挑戦していきたいと思います。
次に、昨年、競争環境の激化などにより計画未達となった飲料事業では、グループ第2の柱として、これまで培ってきた個性ある主力ブランドの強化を軸に差別化されたポジションを確立することにより「利益ある成長」を目指します。トータルシェアのみを重視して価格競争に陥るのではなく、主力ブランドへの集中を図ると共に、健康機能に強みを持つ会社を目指したイノベーションに取り組みます。また並行して、統合シナジーの最大化やミックス改善、SKUの削減などにより、強靭な収益構造の確立に努めていきます。
食品事業では、ミンティアや機能性食品など、強いブランドやカテゴリーに集中した成長戦略と収益構造改革の実行により、昨年は、計画を大幅に上回る7.2%の利益率を達成しています。今後も「強み」への集中を加速すると共に、事業統合を梃にした機能性分野のイノベーションなどにより、グループの次世代の成長基盤を育成していきます。
国際事業については、売上高の65%を占めるオセアニアにおいて、市場構造の変化に対応したブランド育成や統合シナジーで成果を上げています。一方で、国際事業トータルの収益性は当初の想定には届いておらず、地域別ポートフォリオの見直しなどにより、既存事業の成長戦略を加速していく必要があります。加えて、長期ビジョンの達成を目指し、強みを活かす新たな成長基盤の獲得に積極的に取り組んでいきます。今後も、これまでのM&Aから学んできたノウハウや知見を活かし、中長期的な企業価値の向上に資するM&Aに、引き続き慎重かつ積極的に取り組んでいく方針です。
資本コストを踏まえた資産・資本効率の向上について説明します。
当社の株主資本コストは、現状6.5%程度と認識しています。株主・投資家の期待利回りを上回るROE、つまりエクイティスプレッドが企業価値の源泉であるという考え方を再認識した上で、中期的な改革に努めていく方針です。具体的には、ROEをROICと財務レバレッジに分解し、更にROICの構成要素に、ホールディングスと事業会社の取組みをそれぞれ落とし込んでいくことで、 グループ全体の企業価値向上に向けたベクトルを合わせていきます。
事業会社は、重点課題で掲げた「稼ぐ力」の強化に注力すると共に、商品ポートフォリオの見直し、運転資本の圧縮や設備稼働率の向上などを行動KPIとして、社内マネジメントの高度化に活かしていきます。ホールディングスとしては、中長期的な視点に立ち、リターンを重視したM&Aや事業ポートフォリオの再構築に取り組むとともに、成長投資と株主還元のバランスなど、最適資本構成を踏まえた財務戦略を遂行していきます。
また、株主資本コストの低減について、最も大切なことは株主・投資家の皆様の信頼を高めていくことだと認識しています。引き続き、企業価値を重視した適切な情報開示とそれに基づく建設的な対話の継続により、株主資本コストの低減に努めます。
三つ目の重点課題であるESGへの取組み強化について説明します。
今回の「中期経営方針」では、社会や企業の持続可能性の向上を目指し、環境、社会、人材といった「見えない資本」の高度化や「攻めのガバナンス」を一層強化していく方針です。具体的には、バリューチェーン全般にわたるCO2の削減やコーズマーケティングの展開など、環境負荷低減や取引先・社会との共創に加えて、グループ全体の人材育成、ダイバーシティの推進などを強化していきます。
また、こうして培われる「人材力」や「社会競争力」などを強みとして、社会的課題の解決に向けたビジネスモデルの進化や、健康志向の高まりなど、機会を捉えたCSV戦略への発展にも取り組んでいきます。
ガバナンスについては、「業績連動型の株式報酬制度の導入」に加えて、経営陣のサクセッションプランや取締役会の実行性評価の実施など、株主・投資家視点を重視した経営の実効性を高めていきます。
また、純粋持株会社制に移行して5年目となりますが、その戦略機能やケイパビリティの強化に向けて、国際事業のガバナンス体制やイノベーションの推進体制を改革していきます。