2016年第2四半期決算・上半期決算総括・通期事業方針

『長期ビジョン』&『中期経営方針』代表取締役会長 兼 CEO 泉谷 直木

『長期ビジョン』の概要

本年2月に更新した「長期ビジョン」の概要を掲載しております。

『中期経営方針』の概要

本年2月に発表した「中期経営方針」の概要を掲載しております。内容は既にご案内かと思いますので省略いたしまして、市場との対話を踏まえた現状認識からお話しします。

私は、前回2月の説明会を経て、皆様をはじめとした国内の機関投資家への 個別訪問やスモールミーティングを通じて多数の方々と意見交換をいたしました。またその後、3月の株主総会を経て、北米・欧州・アジアにおける海外の株主や投資家とも、様々なディスカッションを重ねてまいりました。こうした中で、「長期ビジョン」や「中期経営方針」といった今後の経営の方向性については一定のご理解、評価がいただけたものと判断しております。

その中では、「必ずしも短期的な目標設定に拘るのではなく、中長期的な視点で成長を目指すこと」、或いは、「成長に向けての積極的な投資に挑戦すること」、「株主や投資家がワクワクする経営を期待する」、といった前向きなご意見を数多く頂戴しました。ただし一方では、「長期ビジョンや中期経営方針に基づく具体的な成果や見通しが未だ見えてこない」、といったご指摘もいただいております。具体的には、国内では「デフレ脱却が見えない中、高付加価値化を図ると言うがその成果が見えてこない」、また海外では「欧州の買収案件を活かした今後のシナジーの見通しがまだよく見えない」等々のご意見があり、安心感と期待感を「見える化」して欲しいといった声が聞かれました。

また、現状の株価につきましては、本年の業績予想が、足元を再度固める意味もあり、低めの目標設定でスタートしたこともあり、投資家の皆さんの当社に対する期待と不安のギャップが、株価のバリュエーションに表れているのではないかとも分析しております。

成長投資につきましては、欧州の案件がクロージング前で情報開示が限定されていること、及び、高付加価値化の実現には一定の時間も必要となりますが、「欧州の統合プロジェクト」や「イノベーション実行会議」などを通じて、現在、具体化な検討を進めているところであります。

今後は来年に向けて、こうした取り組みの成果や見通しなど、成長のプロセスをできる限り「見える化」しながら、「企業価値の向上」を重視した経営を進めていく考えでおります。

2016年第2四半期決算・年間予想の概要 常務取締役(CFO) 奥田 好秀

2016年 第2四半期決算ハイライト

上半期の売上高につきましては、主に国際事業において、円高の影響により 177億円の減収要因がございましたが、国内3事業の好調により、トータルでは前期比69億円増収となり、年初予想を超過達成いたしました。一方で、年間予想については、主に円高に伴う想定レートの見直しなどにより、年初予想からは100億円下方修正をしております。

また、上半期の営業利益につきましては、全事業で計画を上回ったことにより、トータルでは前期比52億円増益の525億円となり、年初予想比で82億円の超過達成となりました。一方年間予想につきましては、主に食品や国際事業において、販売促進費などの経費が期ズレすることに加えて、下期は、各事業におけるブランド投資を強化することなどを織り込んでいるため、年初予想比では37億円の上方修正となる1,407億円を見込んでおります。

尚、この年間予想には「欧州ビール事業の取得」に伴う影響につきましては、クロージング前であるため織り込んでおりません。今期は、クロージング後に、取込期間に応じた業績を反映させる予定ですが、一方で企業結合会計の基準改正に伴い、IT関連費用などの分離コストやFAなどの買収関連コストなどの一時的な費用が発生する見込みです。現時点では、実際の分離作業を進めようとする段階で、資産化などの調整項目が多いことや、買収事業の利益とのれん等償却費も取込期間によって変動するため、具体的な影響額を織り込むことは難しい状況です。但し、今期は、クロージングが先になればなる程、ネットで数十億円規模のマイナスインパクトが発生し、業績予想を見直す可能性もございますので、クロージング後に、改めて業績への影響も開示していきたいと考えております。

経常利益・当期純利益

上半期の経常利益につきましては、営業外損益が、持分法投資損益の反動減や円高による為替差損などにより、トータルで118億円悪化した結果、前期比66億円減益の451億円となりました。年間予想につきましては、営業外損益が、上半期同様に、主に持分法投資損益の反動減により、前期比130億円のマイナスとなることから、前期比74億円減益の1,385億円を見込んでおります。

四半期純利益につきましては、特別損益において、前期に発生した関係会社関連損益45億円がなくなったものの、食品事業の統合に伴い遊休化した和光堂本社ビルの処分や投資有価証券の売却など、資産の効率化を進めた結果、年初予想を87億円超過する285億円となりました。尚、当期純利益への影響につきましては、持分法適用会社の減益リスクや為替差損の発生リスクに加えて、更なる資産効率化のための原資確保といった、現時点では確定できないリスクに備えるため、当期純利益の年初予想を据え置くこととしました。

今後発生するかもしれない特殊要因を除いたベースの必達ラインとして、年初計画である800億円の達成を目指していく方針です。

IFRSの導入影響

今期末から適用するIFRS導入の影響につきまして、年初予想からの変更点をご説明致します。

年初の段階では、日本基準と比較した概算値として、売上高では1,600億円~1,800億円の減少、営業利益につきましては85億円の押し上げ効果、当期純利益につきましては120億円の押し上げ効果をそれぞれ見込んでおりました。その後、直近のシミュレーションにおいて精査した結果、売上高への影響に特に変更はございませんが、退職給付費用において、日本基準との基準間差異を調整するため、費用が約30億円増加する見通しとなりました。

また、のれん等償却費が、年初より円高が進んだことにより外貨建のれんの円貨償却額が約5億円圧縮される見込みであり、IFRS移行による営業利益の押し上げ効果は、退職給付費用の増加と併せて約50億円となる見込みです。これにより、持分法適用会社の「のれん」の非償却化による効果35億円を合わせ、当期純利益の押し上げ効果は、約85億円となる見通しです。

尚、この資料に記載しております営業利益は、営業外損益や特別損益などの 影響は織り込まず、従来の日本基準の営業利益から、主なIFRS影響であるのれん償却や減価償却を加味した数値であり、時系列での比較可能性など、その利便性を鑑みIFRS移行後も開示していきたいと考えております。

2016年上半期の総括と今後の経営方針 代表取締役社長 兼 COO 小路 明善

エクゼクティブ・サマリー

本年上半期は、決算としては、主に為替の影響により国際事業が減収・減益となりましたが、国内3事業における強いブランド基盤の拡大などにより、トータルでは年初計画を上回る増収・増益を達成することができました。事業別には、酒類事業では、新ジャンルやRTDが業界平均を大幅に上回るとともに、飲料や食品事業においても、「ワンダ」や「ミンティア」など主力ブランドに集中した戦略により収益性を着実に高めております。また海外では、主にオセアニア事業において、成長カテゴリーの強化や統合シナジーの拡大などにより、構造改革が着実に進展しています。

しかしながら、デフレ脱却が足踏みする中、コアカテゴリーのビールが計画未達となったことに加えて、新価値提案や持分法会社を含む中国、東南アジアの成長戦略などに課題を残しております。また一方で、中期的な海外成長基盤の拡大といった観点では、既にご案内の通り「ペローニ」、「グロールシュ」といった欧州ビール事業の取得で合意したことにより、コア事業であるビールの成長戦略のオプションは拡大しております。

こうした上半期の総括を受けて、各事業のご説明をする前に、HDの社長として、今後の経営方針に関して重視する課題認識についてお話しいたします。先ず、「長期ビジョン」や「中期経営方針」に基づいて、私が社長として取り組まなければいけないことは、アサヒグループの「ダイナミックな成長」に向けて、その礎を築くことにあると考えています。そのために、先ずは、記載しております3つの課題に重点的に取り組んでいきたいと考えています。

一つ目は、「高付加価値化を軸とした強いブランドの創出」です。ダイナミックな成長を目指していくためには、柔軟な成長投資を可能とするキャッシュフローを安定的に創出していく必要があります。古今東西、企業の利益の源泉となるのは「ブランド」であると考えており、各事業でNo.1、または付加価値の高いNo.2のブランドを、製販、開発一体となって育成、拡大していくことが最も重要であると考えています。

アサヒグループは、ビール類をはじめとして、酒類、飲料、食品の各事業において、多くのNo.1ブランドやトップシェアのカテゴリーを創出してきております。引き続き、付加価値の高い強いブランドの創出を目指して「選択と集中」を進めていくと共に、それに伴うミックス改善、単価の向上により、キャッシュカウカテゴリーを拡大していく方針です。

二つ目は、価値競争を主導する業界でのリーダーシップの発揮です。ビール社の社長時代から申し上げてきましたが、商品や営業活動の付加価値化の促進、それに伴う条件競争から価値競争へのシフトを、グループ全体で推進していきたいと考えています。既存ブランドにおいては、例えば酒類での美味しい飲み方提案や機能性の付加、飲料では健康基軸のイノベーションなど、ブランドの付加価値を常に高め続けていくことがポイントとなります。さらに、研究開発機能の強化に基づいて、技術に裏打ちされたファーストエントリーの商品を上市していくことにより、価値競争を主導していきたいと考えています。

また、グローバルな大型再編が進行するなか、酒類、飲料業界共に、国内での消耗戦を繰り返していては、お互いの競争力が疲弊していきます。そうはならないためにも、健全な価値競争に移行していくと共に、先週発表 いたしました「競合他社との共同物流の拡大」など、業界全体の協業・協調体制を推進していく方針です。もちろん談合することは論外ですが、10年先を見越したグローバルな競争環境を共有した上で、業界全体のプロフィットプール拡大に向けた「協調の土壌」を醸成していきたいと考えています。

そして3つ目は、日本発の強みを活かすグローバルプレイヤーへの挑戦です。先程も触れましたように、この度「欧州ビール事業」の買収で合意に至りましたが、当社の強みは、やはりビール事業で発揮していきたいと考えています。本案件については、後程ご説明しますが、クロージング後は、スムーズにセパレーションを実行した上で、当社がこれまで培ってきた「強み」を融合していくことで、シナジーを拡大していく方針です。さらに、海外事業のポートフォリオを再構築しつつ、一層の成長基盤の拡大を目指して、引き続きM&Aや提携を検討していきたいと考えています。

酒類事業(ビール類販売数量)

先ず、酒類事業につきましては、上半期のビール類市場が1~2%減少する中、当社は、新ジャンルの大幅な伸長により1.1%の増加となり、トータルシェアを拡大しております。

酒類事業(売上高)

また、ビール類以外でも、新たに「鮮度」という付加価値を提案した「もぎたて」が好調なRTDに加えて、トップシェア効果を発揮しているアルコールテイスト清涼飲料が、引き続き計画を超過達成しております。

酒類事業(営業利益)

加えて、原材料やユーティリティコストなど計画を上回る製造原価の低減により、上半期の営業利益を超過達成し、年間計画も上方修正いたしました。

<参考>ビール類の概況

資料の下段に掲載しておりますが、特に新ジャンルでは、節約志向を含む消費の2極化の流れを想定し、主力ブランドの強化に努めてきました。その結果、今上半期では「プライムリッチ」のリニューアルも奏功したことで、課税数量ベースのシェアは29.3%となり、トップを伺える水準にまで高まってきております。

一方で、最も強化すべきビールについては、外食市場の低迷による業務用のマイナスに加えて、昨年の「ドライプレミアム」や限定商品の反動減などにより、トータルでは計画未達となりました。また、7年ぶりの新商品として投入した「ザ・ドリーム」につきましても、その価値を十分に伝えきれず、計画を下回る進捗となっています。

尚、酒税改正なども見据えて、業界各社がビールの強化に注力する中、「スーパードライ」本体の缶容器は前年比で3.6%増加しており、その結果、ビールの限界利益率は向上しています。中期的には、デフレ脱却や酒税改正の可能性を踏まえると、市場全体のカテゴリーミックスは改善していくものと見込んでおりますが、一方で依然として消費の2極化、アルコール消費の多様化も進んでいくものと思われます。

<参考>その他酒類、ドライゼロの概況

業務用も含めてビールカテゴリーのさらなる強化を図ることは勿論ですが、節約志向へのシフトも踏まえ、新ジャンルやRTDは、ブランド強化のチャンスであると考えております。下期以降もブランド投資を強化することで、来期以降の増益ドライバーとなるブランドを拡大していく方針です。

冒頭申し上げたように、各カテゴリーで強いブランドを育成していくと共に、価値競争を主導するリーダーシップの発揮により、高い収益性の維持、拡大を図っていきたいと考えております。

飲料事業(販売数量)

上半期の飲料市場全体が2~3%程度拡大する中、当社の販売数量は1.6%の増加に留まりましたが、営業利益については、主力ブランドに集中した販売戦略やカルピスと完全統合したシナジーの拡大などにより、計画を超過達成し、年間計画を上方修正いたしました。

飲料事業(営業利益)

上半期は、ミネラルウォーターなどでは大容量の販売を抑制し、「ワンダ」「十六茶」「ウィルキンソン」といった主力ブランドに集中したマーケティング戦略により、品種・容器ミックスの改善に努めた成果が現れています。

<参考>飲料事業の概況

飲料業界では、利益重視の方針を打出す動きも見られるなど、過度な競争環境は緩和してきているものと思われ、当社としても、トータルシェアではなく、ブランドを重視する経営が定着してきていることが、収益性の向上に繋がっています。但し、健康機能など付加価値ブランドの育成などに未だ課題を残しております。飲料事業においても、業界全体の条件競争緩和の流れを継続させるべく、差別化された付加価値競争において存在感を高め、更なる収益性の向上につなげていく方針です。

食品事業(売上高・営業利益)

食品事業では、上半期は、3社を統合した新生「アサヒグループ食品」の下、主力ブランドを中心とした売上拡大と、それに伴うミックス改善などにより 年初計画を上回り、売上・利益共に通期計画を上方修正致しました。

<参考>食品事業の概況

上半期は、海外フリーズドライ事業など事業ポートフォリオの見直しによる減収要因がございましたが、「ミンティア」やベビーフードなど主力ブランドに集中した戦略が奏功し、トータルの利益率は8%を超える見込みです。今後も引き続き、強い主力ブランドの強化に加えて、事業全体のポートフォリオを俯瞰した上で、「選択と集中」を一層加速していくことにより、食品会社としての存在価値を更に高めていきたいと思います。

国際事業(売上高)

決算ベースでは、国際事業トータルで減収・減益となりました。

国際事業(営業利益)

一方、為替影響を除いたベースでは、全ての事業において増収を果たすとともに、営業利益は計画を超過達成することができました。

<参考>国際事業(オセアニア事業)

上半期の総括としては、オセアニア事業については、飲料事業では厳しい競争環境が続いているものの、酒類事業において「スーパードライ」などのブランド育成が進んでおり、さらにSCM全般におけるシナジーも拡大しております。下半期も、小売の競争激化など厳しい市場環境が想定されますが、引き続き強いブランド資産を活かした成長戦略を柱として、計画の超過達成を目指します。

一方インドネシアでは、稼働率の向上などにより利益は計画ラインで進捗したものの、成長戦略の面では、十分なブランド育成には繋がっておりません。

<参考>中国持分法適用会社の四半期業績

中国の持分法適用会社である青島ビールや康師傅飲品社は、急激に変化する市場変化に対応できず、両社ともに業績が低迷しております。当社としては引き続き、経営全般のサポートなど友好関係を継続してきたいと考えておりますが、一方で、今後のグローバル展開において、中国市場をどう位置付けていくかも含め、様々な戦略オプションを、早期に検討していく必要があると認識しています。

冒頭に申し上げたように、グローバルプレイヤーとして事業ポートフォリオを再構築していく上で、今後はコア事業への集中に向けて、国内外のあらゆる 資産をゼロベースで見直していく方針です。

<参考>欧州ビール事業の取得

「欧州ビール事業の取得」と今後のM&A戦略についてご説明致します。既にご案内かと思いますが、本件はABIによるSABミラー社の買収実行が条件となり、クロージング前であるため、未だ具体的なお話はできませんが、戦略の考え方などをご説明したいと思います。

先ず今回の買収は、グローバルな1位と2位の統合により規模の競争がエンドゲームとなる中、『長期ビジョン』に掲げる「日本発の強みを活かすグローバルプレイヤーとして独自ポジションを確立する」とした戦略の一環となります。この買収により、欧州における有力なプレミアムブランドや製造・販売インフラを獲得できるだけでなく、「スーパードライ」のグローバルブランド化など、当社のビール事業での「強み」を活かす、様々なシナジーの拡大が可能となります。さらに、獲得するブランド資産やノウハウを活かし、欧州だけでなく、既に進出しているオセアニアやアジア地域などにおいても、多様な戦略オプションが拡大することになります。

<参考>『アサヒ』ブランドのグローバル展開

『スーパードライ』は、米国のWBC(ワールドビアカップ)やベルギーBBC(ブリュッセルビアチャンレジ)といった世界的に権威のあるビアコンテストで金賞を受賞するなど、その味と品質はグローバルに認められてきています。これまで、韓国や豪州などにおいては、プレミアムビールとして強いポジションを確立しつつありますが、欧米等では、未だ十分なプレゼンスを獲得できておりません。

今後は、グローバルトップレベルのマーケティングノウハウや人材を獲得できる今回のチャンスを活かすと共に、引き続き、更なる成長投資や提携に積極的に取り組んでいくことにより、強い事業ポートフォリオの再構築を図っていく方針です。今期は、欧州の案件に関しては、買収に伴う一時費用が発生するため、利益に対してはマイナスとなる可能性がありますが、10年、20年先を見据え、独自のポジションを持つグローバルプレイヤーを目指し、成長の礎を築いていきたいと思います。

以上で私からの説明を終わらせて頂きますが、本年は、年初に1%の増益計画を発表したことで、1桁台後半の増益率を掲げる「中期経営方針」のガイドラインを不安視するご指摘も頂いておりました。しかしながら上半期を終えた段階で、市場環境が厳しい中でも、国内外の各事業会社の努力により1桁台半ばの増益率まで上方修正することができました。もちろん十分ではありませんが、先ずは、本年の計画を着実にやりきって足元を固めながら、中長期的なダイナミックな成長を目指し、「稼ぐ力」の強化と成長ポートフォリオの再構築に、スピード感を持って取り組んでいく方針です。

<参考>収益構造改革と酒類事業の広告販促費

<参考>為替影響一覧

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