2022年8月9日

“食べる”をずっと楽しく。アサヒグループ食品と考える、あしたの食卓の作り方。

左:アサヒグループ食品 岸奈津美さん 右:NPO法人 未来をつくるkaigoカフェ 高瀬比左子さん

食べることは生きることとも言いますが、介護が当たり前の日常として生活に溶け込むようになった時、私たちはどんな食卓を作っていくのでしょうか。
アサヒグループ食品で介護食品の開発を担当する岸奈津美さんと、介護に関わる人々を繋げる「NPO法人未来をつくるkaigoカフェ」(以下、kaigoカフェ)の高瀬比左子さんに、これからの「食」についてのお話をうかがいました。

身近過ぎて見落としやすい「食」のお話

高瀬:私はケアマネジャーとして働いているのですが、介護を利用される方々には個性があり、「その人らしさ」を生かした支援を行っていきたいと考えています。ただ、自分の考え方・やり方だけでは見落としてしまうものがあるかもしれない。だったら、介護に関する様々な職種の方と話してみよう。そうすることで、業界全体が前向きに変わってくるのではないか。そんな想いから立ち上げたのがkaigoカフェの活動です。職種を問わずフラットに語り合える場として好評で、kaigoカフェは全国50カ所以上に広まりました。現在はそれぞれの地域にあるkaigoカフェのファシリテーターを育成する講座や、キャリアアップ勉強会などを定期的に開催しています。

岸:実際に介護に関われている方の声を多く聞ける場は貴重ですよね。私は介護食品の開発に携わっていて、商品開発のためにアンケートを取らせていただくことがあるのですが、ケアマネジャーさんのアドバイスが頼りになったという高齢者やご家族が多くいらっしゃいました。介護を想像する時、最初に頭の中に浮かぶのは、手すりやベッドの設置といった動作補助だと思うのですが、私たちは「食事」も重要な要素の一つだと考えています。高瀬さんはどのようにお考えですか?

高瀬:食に関しては個々人の好みや健康状態に左右されることが大きいので、一概に“これがいい”という正解がないところが難しいですね。最近は宅配弁当などのサービスもありますが、なかなか気に入るものと出会えなかったり、ローテーションに飽きてしまったり、という方もいらっしゃるようです。

岸:みなさん、ご自分の好きな味がありますよね。私たちアサヒグループ食品では、食べる力に合わせて約40種類の商品を発売していますが、より食事を楽しんでもらうために、今後もバリエーションは増やしていきたいです。アサヒグループ食品が高齢者のための商品開発をスタートさせたきっかけは、阪神淡路大震災でした。被災地支援のためにベビーフードを提供したのですが、すでに小さなお子様連れの方はほとんど被災地から避難していたそうです。そのとき避難所で避難生活を送っていた高齢者の方に代わりにご利用いただき、喜んでいただきました。看護師さんや医療関係者からも高く評価していただいたことがきっかけとなり、ベビーフードの技術を生かした商品開発が始まりました。
※当時は和光堂。2016年の会社分割によりアサヒグループ食品に承継。

高瀬:そうした経緯があったのは意外でした。ベビーフードと介護食には、咀嚼力や嚥下えんげ機能が低くても安全で、レトルトパウチなので長期保存ができ、手軽に食べられるという共通点がありますね。今ではこんなにたくさんの種類があって、咀嚼力に応じたやわらかさも段階があるのですね。

岸:ベビーフードと違い、様々な食経験を積んできた高齢者向けなので、味付けはもちろん具材のバリエーションにも気を配りました。試行錯誤を繰り返しながら、2000年代の初頭には現在の商品の元となる介護食が完成しました。ユニバーサルデザインフードの基準に照らし合わせて、4段階のやわらかさを設定しています。

誰かと食べるということの大事さ

歳を重ねても「食べる」選択肢を増やしてくれる介護食ですが、介護において「食」にはもう一つの課題があると高瀬さんは言います。それは、一人で食事を取ること。

高瀬:一人暮らしの方が、わざわざひとり分を調理するというのは大変ですよね。介護食のような選択肢があることに気づければいいのですが、そうでないと食べられるものが減ってしまっていたということもあり得ます。そうなると、食べたいという気持ちそのものが低下してしまいがちになります。

岸:食べることへのモチベーションって本当に大切ですよね。高瀬さんが共著として参加された本の中でも、男性の高齢者同士がお弁当を持ち寄って外で食べた方が楽しいし、安上がりでいいというエピソードが興味深かったです。おいしさや栄養面といったことはもちろん大切なのですが、他の人と一緒に食べる楽しさや、他の人が作ってくれた食事のありがたさなど情緒面での影響が大きいのかもしれませんね。

高瀬:地域に根ざしたコミュニティで食事を楽しむような環境ができたらいいですよね。ご自分から誰かを食事誘うのが苦手な方でも、仕組みができていれば気軽に参加できるのではないでしょうか。私は職業柄、介護保険の枠組みの中でどうやりくりするかを考えてしまいがちなのですが、制度の壁を乗り越えて、もっと柔軟に高齢者の食を位置付けることができたらいいなと思います。まだ認知度が低く定着していないのですが、管理栄養士による“栄養ケアステーション”や、気軽に健康相談ができる“暮らしの保健室”といった、自然に集いたくなる場がそれぞれの地域にあるのが理想ですね。

食べたいという気持ちに寄り添う

誰かと食事を一緒にすることが重要な一方で、同じ食卓を囲むからこその悩みもあります。子どもの頃は「自分の好きなもの」がテーブルに並んでいて、好きなように食べられましたが、自分で家庭を持つようになるとそうはいきません。それは、介護においても同じこと。同じ食卓を囲みながらも、「違う食事」を用意しなければならないことに、最初は戸惑うかもしれません。でも、両親が自分に寄り添ってくれたように、今度は自分が寄り添えばいい。それは家族間に限った話ではなく、介護の現場でも同じことのようです。

高瀬:私が以前勤めていた施設では職員が調理をしていましたが、味付けに関しては、薄味で提供して、物足りない方には醤油や塩を加えてもらうというのが一般的でした。夜中にどうしてもカップラーメンが食べたいという入居者の方がいらっしゃって、ご本人の意思を尊重して、食べさせてあげたという事業所もあるみたいです(笑)。

岸:そういうエピソードはありそうですね。一律に決め付けてしまうよりも、できる範囲で食べたいものを出してあげるというのも、たまにはいいかもしれないと思いますね。弊社の商品では塩分を控えながらも、出汁を使ってしっかりとした味付けにしています。カップラーメンのような濃い味付けまでとはいきませんが、きっとご満足いただけると思います。同居して介護をされているご家族にぜひ試してみていただきたいですね。

高瀬:在宅で介護できる環境を整え、介護食を選んでくれるご家族は非常に熱心で意識が高いと思います。品数も豊富にあるので、うまくローテンションが作れそうです。

“食べる”をずっと楽しく。口からご飯を食べてほしい

介護という言葉には少し重たい空気があります。でも、歳は誰もが重ねるもの。歳を取っていくことが日常なのであれば、介護は特別なことではない。そんな風に受け取ってもいいのかもしれません。最後に「介護」と「食」について改めてお話いただきました。

高瀬:この間仕事をしていたときに、入居者の方にお願いされて七夕の短冊に「自分の口で食べたい」と代筆したのですが、自分の口から食べることは本当に幸せなことですよね。

岸:“介護食”というとネガティブに聞こえてしまいますが、1日でも長く口からご飯を食べられるようにという工夫をこらしています。“やわらか食”、“ソフト食”といった呼び方もあるのですが、そうした抽象的なネーミングではなかなか認知していただけず、分かりやすく介護食と呼んでしまうのが現状です。超高齢化社会は誰しもに訪れる「食」の課題なので、これからは介護という言葉が特別なことではなく、当たり前のこととして語られるようになるといいですね。

高瀬:嚥下機能が低下した方でも楽しめる、中華やフレンチのフルコースを提供するレストランの取り組みも面白いですね。それから、私の知人がやっていている“介護スナック”に行ったことあるんですが、おつまみも食べやすく工夫してあって、皆さん大いに楽しんでいたのが印象的でした。やっぱり、若いうちはどうしても他人事なのでしょうが、介護をいかに“自分事化”できるかですよね。食を通じた楽しみやリラックスできる場が必要で、介護する側も介護される側も、お互いの負担を軽くするという点で、こうした介護食を利用することもひとつの手段ですね。

岸:ありがとうございます。このシリーズのレトルトに加えて、タンパク質アップのために、ご家庭の冷蔵庫にある豆腐や卵を利用して追加いただくのもおすすめしています。アレンジメニューをホームページでご紹介していますので、そちらも参考にしていただけると嬉しいですね。

高瀬:私たち介護に携わる人間も、介護食のような選択肢があることを意識しつつ、食べる楽しさをより長く提供することができればと思います。本日はありがとうございました。

岸:ありがとうございました。

未来をつくるkaigoカフェ
高瀬 比左子さん
大学卒業後、介護の道へ。ケアマネジャーとして勤務しながら「NPO法人未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。行政や企業との協業や介護事業者向けの人材開発事業も行っている。介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員

アサヒグループ食品
岸 奈津美さん
農学系の大学を卒業後、2007年に和光堂(現アサヒグループ食品)に入社。入社後、ベビー用のオーガニック飲料の商品開発等に携わり、現在は介護食品の開発を担当している。

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