食中毒って何だろう?予防するために出来ることはある?

2019.03.29

食品にまつわるトラブルの一つである食中毒。一口に食中毒といっても、その原因となるものはいろいろあり、発生する症状も違います。ここでは、食中毒の原因や食中毒の症状、そして予防方法についてご紹介します。

食中毒とはなんだろう?

そもそも食中毒とはどういうもので、どのような症状が起こるものなのでしょうか。
食中毒とは、「食中毒を起こすもととなる細菌やウイルス、有毒な物質がついた食べ物を摂取することによって下痢や腹痛、発熱、吐き気、けいれんなどの症状が発生する病気のこと」を指します。症状の程度は、原因となった物質や食べた人の体の状態によっても大きく異なり、時には命にかかわることもあります。また発生するまでの期間も原因物質によって違います。

日本では2018年の一年間で食中毒は1,330件も発生しており、患者数は17,282名にものぼりました。残念ながら3名の方が食中毒で亡くなられています。しかしこれらの件数は、医療機関から保健所に届けられた数です。このため症状が軽くて医療機関にかからない人もいると考えられ、実際の食中毒発生件数はもっと多いと推定されます。食中毒は飲食店に限らず、家庭でも発生しているため、私たちも食品の取り扱いには注意が必要です。「暑い季節に食中毒は発生しやすくなる」というイメージがあるかもしれませんが、実は食中毒は原因によって発生時期が異なるものの、年中発生しているのです。このため一年を通じて注意する必要があります。

食中毒を引き起こす主な原因は?

大きく分けると次の4つが挙げられます。

1.微生物
人体に有害となる細菌やウイルスなど

2.寄生虫
魚介類や肉類、野菜などに寄生する小さな虫

3.天然毒素 
自然界にある天然の毒

4.化学物質
食品には本来含まれていない有害な化学物質

食中毒を引き起こす主な原因これらのうち微生物起因による食中毒が多数発生しています。2018年の食中毒患者数をみると、ウイルスによるものが約5割(8,876名)、細菌によるものが約4割(6,633名)、つまり約9割は微生物を病因物質として発生していました。肉眼では見えない微生物。しかし私たちの体に大きな影響を及ぼしているのですね。そして残り約1割は寄生虫、化学物質、自然毒によるものなどです。ちなみに食中毒患者数は2017年が16,464名、2016年は20,252名であり、毎年多くの方が食中毒になってしまっているのです。私たちはできる限りの対策をたて食中毒を防ぎたいものです。ではなぜ食中毒になってしまうのでしょうか?食中毒を引き起こす原因について、詳しく見ていきましょう。

1.微生物
(1)細菌によるもの
細菌による食中毒は、原因となる菌の性質により大きく3タイプに分類されます。
①感染型食中毒
原因菌に汚染された食品を摂取し、腸管内で原因菌が増殖することで発生します。代表的な原因菌として、カンピロバクター、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオなどがあります。

②毒素型食中毒
食品中で原因菌が増殖し、産生された毒素を摂取することで発生します。代表的な原因菌として、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌(嘔吐型)などがあります。

③生体内毒素型食中毒
微生物に汚染された食品を摂取し、腸管内で微生物が増殖して毒素を産生することで発生します。代表的な原因菌として、ウェルシュ菌、セレウス菌(下痢型)、腸管出血性大腸菌などがあります。

(2)ウイルスによるもの
ウイルスは低温や乾燥した環境で長く生存することができます。細菌と違って食べ物の中で増殖することはできませんが、食べ物を通じて人や動物の体の中に入ると、腸管内で増殖して食中毒を引き起こします。
ウイルスによる食中毒は、ほとんどがノロウイルスによるものです。2018年のウイルスによる食中毒患者数8,876名のうち8,475名がノロウイルスを病因物質としていました。

2.寄生虫
適切な処理をされていない魚介類や生肉などを食べたため、食材に寄生していた虫を摂取することにより食中毒が発生しています。特に近年増えているのは「アニサキス」という寄生虫による食中毒です。アニサキスは体長2~3cm、半透明白色の寄生虫です。サバやサケ、スルメイカ、サンマなどの魚介類の主に内臓へ幼虫が寄生しています。
アニサキスが寄生している生の魚を食べたとき、まれに人の胃や腸壁に侵入し、数時間以内に激しい腹痛が生じます。時には吐き気やおう吐、じんましんなどの症状も発生することがあります。アニサキスによる食中毒を防ぐため、魚介類を生食する際は早めに内臓を取り除き、低温(4℃以下)で保存しすみやかに食べましょう。

3.天然毒素 
植物性と動物性の毒に分けられます。代表的なものとして植物性では毒キノコやスイセン、トリカブトが、動物性ではフグ毒や貝毒があります。残念ながら2018年に食中毒により亡くなられた方は、いずれも植物性自然毒を病因物質としています。誤って毒キノコを食べてしまった場合、胃腸炎症状の他に幻覚や言語障害などの神経障害が発生することがあり危険です。キノコ狩りや山菜採りなどをする場合は十分気を付け、もしも誤って毒キノコなどを食べてしまった場合は、出来るだけ早く医師の診断を受けるようにしましょう。

4.化学物質
本来は食べ物に含まれていないはずの有害な化学物質を摂取することにより発生します。
代表的なものとして、ヒスタミンによるヒスタミン中毒や、ヒ素、鉛、水銀などの金属による食中毒、農薬や食品添加物によるものなどがあげられます。これまでにメチル水銀化合物による水俣病や、ポリ塩化ビフェニル(PCB)によるカネミ油症事件など、痛ましい大規模な食中毒が発生しています。

このように食中毒には微生物、寄生虫、天然毒素、化学物質によるものなどいろいろな原因があげられます。特に微生物によるものが多いので、どのような原因菌があるのかを見ていきましょう。

カンピロバクター

カンピロバクターは、動物の腸内にいる細菌で毎年多くの食中毒が発生しています。2018年の食中毒発生件数1,330件のうちの1/4近くの319件、患者数でいうと総数(17,282名)のうち1割強(1,995名)を占めています。カンピロバクターは牛や豚などの腸管にも存在しますが、鶏の保菌率が特に高いといわれています。生や加熱不足の肉を摂取することで感染するケースが多く、ペットから感染することもあります。食後2日~7日で発症し、腹痛や吐き気、下痢、発熱などの症状が出るのが特徴です。

サルモネラ属菌

サルモネラ属菌は、動物の腸管や川、湖、下水などに広く存在する菌です。生や加熱不足の卵や牛・豚・鶏などの肉が原因となります。ペットやネズミなどによって食べ物に付着してしまうこともあります。感染すると食後6時間~48時間で吐き気や腹痛、下痢、発熱などの症状が現れます。

腸炎ビブリオ

腸炎ビブリオは、海水や魚介類などに生息している細菌です。真水に弱いですが、塩分を好んで増殖するという特徴があります。原因となる食材は生の魚や貝類などがあります。魚介類を調理したあと、包丁やまな板を洗わずに別の調理を行った結果、感染するというケースが多いです。感染すると食後4時間~96時間で激しい下痢や腹痛などの症状が現れます。

ブドウ球菌

ブドウ球菌は、自然界に広く生育、人間の皮膚や鼻、喉の中などにも存在している細菌です。多くの場合、調理する人の手から調理品に伝わります。原因となる食材は穀類やその加工品などで、おにぎりや寿司、サンドイッチなどがあります。ブドウ球菌は酸性やアルカリ性の環境でも増殖して毒素を作りだします。菌自体は熱に弱いのですが、産生された毒素は熱に強くて加熱しても効果はありません。しかも毒素は乾燥にも強いという特徴があります。ブドウ球菌に汚染された食べ物を摂取すると、30分~6時間で吐き気や嘔吐、腹痛、下痢などの症状が発生します。

ウェルシュ菌

カレー

ウェルシュ菌は自然界に広く存在し、食品にも、人間の腸内にも常在している菌ですが、食中毒の原因菌にもなり得ます。
肉や魚介類を使用した調理品を大量に作り、数時間〜1晩ほど室温に放置するとウェルシュ菌が増えてしまいます。
そのため、カレーやシチュー、スープなどの煮込み料理を作って室温で放置すると、ウェルシュ菌が増え、産生された毒素で食中毒になることがあります。食中毒の発生件数は2018年が32件と少ないのですが、患者数は2,319名と非常に多い状況です。ウェルシュ菌による食中毒の場合、水様性の下痢や軽い腹痛などの症状が見られることが多いです。カレーなどを作った後は室温で放置せず、低温で保存することや、食べる前に十分加熱することを心がけるといいですね。

腸管出血性大腸菌

大腸菌は人や家畜の腸内に存在している菌で殆どのものが無害ですが、中には下痢などの消化器症状を引き起こすものがあり、それを病原大腸菌と呼んでいます。

腸管出血性大腸菌とは、病原大腸菌の中でも毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群を引き起こす菌のことです。代表的なものとして「腸管出血性大腸菌0-157」が広く知られています。毒性の強い「ベロ毒素」と呼ばれる毒素を出し、腸管出血性大腸菌で汚染された食品を摂取すると12時間~60時間後に腹痛や水のような下痢、出血性の下痢などの症状が出ます。

腸管出血性大腸菌の感染源として、生や加熱が不十分な肉や生野菜など、多岐に渡っています。ベロ毒素は毒性が強いため、乳幼児や高齢者などは重症化する危険性が高く、時として死に至る場合があります。

ノロウイルス

ノロウイルスは、ウイルス性食中毒を引き起こす原因の代表です。一度に多くの人が発症しやすく、国内で発生した食中毒の患者数の約5割は、ノロウイルスが原因で発症しています。特に11月〜2月頃に多く発生する傾向にあり、冬に流行するといえるでしょう。

ノロウイルス

食品では二枚貝がノロウイルスに汚染されていることがあり、牡蠣やアサリ、シジミ、ハマグリなどを、生や加熱が不十分な状態で食べると感染することがあります。食後1日~2日で吐き気、下痢、腹痛などの症状が見られます。
ノロウイルスは熱に弱く、85℃以上で1分間以上加熱するとよいでしょう。なおノロウイルスに感染した人の便や嘔吐物から感染することもあるため、嘔吐物処理などで触った場合はしっかり手を洗いましょう。

ここまで代表的な食中毒菌をいくつかご紹介しましたが、この他にも食中毒菌はまだまだ存在しています。ではどうしたら食中毒にならないか、対策を見ていきましょう。

食中毒を予防しよう!

食中毒の原因はいろいろありますが、先ほど述べたように微生物を病因物質とするものが約9割と非常に多く、注意すれば殆どの食中毒の発生を防ぐことができます。どうしたらよいのか食中毒予防の3原則を見てみましょう。

食中毒予防の3原則「つけない」「増やさない」「やっつける」(細菌の場合)

「つけない」「増やさない」「やっつける」

食中毒を予防するために徹底すべきこととして、「つけない」「増やさない」「やっつける」の3つが挙げられます。

1.つけない
まず、食品に食中毒の原因菌をつけないようにしましょう。肉眼では見えませんが、手にはさまざまな雑菌が付着しています。洗浄剤による二度洗いやアルコール消毒などを徹底して、食品を触る前に手に付いた雑菌を洗い流してください。そして調理に使うまな板などの器具も、使用した後はきれいに洗い、できれば殺菌しましょう。特に生の肉や魚などを扱う場合は注意が必要です。

2.増やさない
食品に菌が付着した場合、時間が経つとどんどん増えていきます。調理は素早く行い、調理したものは早めに食べましょう。細菌は多くの場合、10℃以下で増殖速度が緩やかになり、マイナス15℃以下では増殖が止まります。食品を低温で保存し、菌を増やさないようにすることが大事です。

3.やっつける
食中毒の原因となる細菌は熱に弱いものが多いため、加熱して死滅させることでも予防できます。特に肉類などは生や加熱不足によって食中毒を起こす危険性が高まるので、しっかりと加熱してください。食品だけでなく、使用済みのまな板や包丁なども熱湯殺菌を行い、原因菌をやっつけましょう。

ウイルスの場合「持ち込まない」「ひろげない」「つけない」「やっつける」

ウイルスは細菌と違って食品中では増えません。従いまして「増やさない」はあてはまりません。ウイルスを食品につけないように、「持ち込まない」こと、仮に調理環境にウイルスが持ち込まれてしまっても食べ物や調理器具に「ひろげない」ようにしましょう。

食中毒のなりにくさと腸内環境の関係は?

食中毒は誰しも同じようになるわけではなく、なりやすい人、なりにくい人がいます。これは体の免疫力の強さが影響しており、実は腸との関係が深いのです。口からは食べ物とともに細菌やウイルスなども入ってきますが、それらが体に必要なものか判断するため、腸には全身の免疫細胞の60%~70%が集まっています。つまり腸は人体にとって最大の免疫組織なのです。

この腸内には1000種類以上、100兆個もの腸内細菌が生態系を作っており、多種多様な菌が腸壁に群がっている様子がお花畑のように見えることから、この生態系を「腸内フローラ」と呼んでいます。腸内フローラは人によって違っており、食べものや生活習慣によって変化します。腸内に棲む乳酸菌は乳酸などの有機酸を作りだし、それにより腸内環境が酸性になり有害菌の増加を抑制すると言われています。食中毒予防の一つとして、乳酸菌を含む飲食品を意識して取り入れて腸内環境を整えることも有効だと考えられます。

まとめ

食中毒の原因は微生物や寄生虫、天然毒素、化学物質などさまざまであり、汚染の対象となる食品も幅広く、化学物質の誤飲や誤食も発生しています。引き起こす症状は多岐に渡り、軽症で済むものから激しい嘔吐や下痢、腹痛を伴うもの、神経障害、場合によっては命にかかわることもあります。発生場所は飲食店に限らず家庭でも発生しています。食中毒の約9割は微生物を病因物質としていますが、気を付けることで微生物による食中毒は防ぐことが可能です。「つけない」「増やさない」「やっつける」の原則を守り、食中毒から身を守りましょう。

参考資料

1.農林水産省 食中毒の原因と種類
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/featured/afp1.html

2.食品衛生の窓(東京都福祉保健局) たべもの安全情報館 知って安心~トピックス~
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/anshin_topics.html

3.厚生労働省 食中毒統計資料 平成30年 病因物質別月別食中毒発生状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html

4.農林水産省 消費・安全局 消費・安全政策課「食中毒ってなあに?」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/training/pdf/081225a.pdf

5.政府広報オンライン 食中毒を防ぐ3つの原則・6つのポイント
https://www.gov-online.go.jp/featured/201106_02/

6.アサヒグループホールディングス(株)研究開発HP
https://www.asahigroup-holdings.com/pdf/rd/library/kins/vol16_2.pdf

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