食品の長期保存を可能にする、フリーズドライ。時短調理からいざという時の備蓄用にと、幅広い目的で使用されています。しかしフリーズドライすることで食品本来の栄養価が損なわれていないか、気になったことはありませんか?
ここでは、フリーズドライすることによって栄養価は損なわれないのかという疑問について答えます。フリーズドライする際の乾燥方法や、実際にほかの乾燥方法と比較した研究結果からわかる事実を確認しましょう。
フリーズドライで栄養価は損なわれる?
食品をフリーズドライすることで、本来の栄養価が損なわれてしまうのではないかと考える方も多いでしょう。しかし、実際には栄養価は損なわれにくいのです。その理由を知るため、フリーズドライ食品の製造方法について確認してみましょう。
フリーズドライとその他の乾燥方法
フリーズドライとは、「フリーズ(凍らせる)」と「ドライ(乾燥させる)」の文字通り「凍結乾燥」のこと。食品を凍結させ、真空凍結乾燥機にて真空下で乾燥させることで、フリーズドライ食品が出来あがります。フリーズドライすることで、味噌汁や野菜などを、おいしさを保ったまま長期間保管することが可能です。
フリーズドライ食品は、お湯を注ぐだけ、あるいは料理にそのまま加えるだけなど、時間がかからず手軽に食べられるのが特徴。食品のカサが小さく軽くなるため、輸送性に優れるというメリットもあるのです。
食品を乾燥させる技術は、フリーズドライの乾燥方法以外にもいくつかあります。例えば、天日乾燥。天日乾燥は、主に太陽熱と自然の風を利用して食品を乾燥させる方法です。また、熱風を発生させ食品に吹きかけることで乾燥させる、熱風乾燥もあります。
いずれも食品の保存性を向上させるために、使われることの多い手法です。野菜や果物の乾燥のほか、魚の干物作りにも活用されています。
フリーズドライしても栄養価は損なわれない
野菜に含まれるビタミンCは熱で壊れやすい栄養成分ですが、高熱を加えないフリーズドライは、他の乾燥方法に比べるとビタミンCの損失が少なくすみます。実際に野菜を乾燥させてビタミンCの残存率を比較する研究がありますが、フリーズドライをした野菜の方が熱風乾燥させた野菜よりもビタミンCの残存率が高いという結果が報告されています。
手を加えて加工を施すことで、食品に含まれる栄養価が損なわれるのではないかと心配するのは自然なことです。しかし、フリーズドライは高熱を加えていないため他の乾燥方法と比べると、栄養価は損なわれにくいといえるでしょう。さらに、食品の味や色、香り、形状などの変化が少ないなどの特徴があります。凍らせてから水分を抜くことで、熱風乾燥などの高熱を加える乾燥方法よりも食品の変化を抑えることができるのが、フリーズドライの大きな魅力といえるでしょう。※1
フリーズドライ食品ができるまで
フリーズドライ加工を施しても栄養価が損なわれないことを確認したところで、フリーズドライ食品のつくり方を詳しく見ていきましょう。
フリーズドライ食品がでるまで
通常の気圧下では、氷(固体)を加熱すると、水(液体)を経て水蒸気(気体)になりますが、圧力が一定値以下になると、氷は水を経ずに、直接、水蒸気になる「昇華」という現象が起こりやすくなります。フリーズドライ食品はこの昇華を利用して、食品中の水分をできる限り減らします。
フリーズドライ食品作りでは、調理した食品や野菜を-30〜-40℃ほどで凍らせるところからスタート。凍らせた食品を、真空に近い状態まで減圧します。その後、水蒸気になるのを早めるために昇華熱(昇華に必要な熱)が加えられ、食品の水分を抜き、乾燥状態にします。そうすることで、フリーズドライ食品はできあがるのです。
フリーズドライする際の注意点
フリーズドライはただ乾燥させたものではありません。食品の味や食感、栄養価を保ち、お湯を注いだときにすぐ元の状態に戻る必要があります。そのためには、食品を凍らせる方法が重要です。
一定の速度で温度を下げて凍らせる場合、温度を下げる速度が速いと氷の結晶が小さく、遅いと結晶が大きくなります。結晶が小さいほうが、食品の食感が損なわれにくくなります。しかし、結晶が小さすぎても水蒸気が抜けるための通り道が狭くなりすぎて、食品内部の圧力が上がってしまいます。その結果、氷を水蒸気に変える昇華ではなく、融解や沸騰が起きてしまうことも。融解や沸騰は食品の味や食感を損ねたり、素材の形状を保てず、お湯を入れたときにきちんと元の食品に戻らなくなります。
また、食品の凍結が不十分な場合も、沸騰を引き起こしてしまいます。適切にフリーズドライをするためには、凍らせる速度や温度は特に厳密に管理する必要があるのです。
アサヒグループのフリーズドライ技術
フリーズドライ食品の代表ともいえる、味噌汁。凍結乾燥するための条件が難しいこともあり、凍結する前の味噌の量を調節してフリーズドライにしている商品も多く存在します。アサヒグループでは、味噌と出汁をたくさん使った具材も豊富な美味しい味噌汁をフリーズドライするために、長年蓄積された技術と経験を活用しています。
味噌の成分や具材によって、凍結乾燥条件は異なるもの。そのためすべての味噌汁に一定の凍結行程を施すのではなく、商品によって凍らせる温度や速度を変えています。そうすることで、どの食材をつかっても味や食感を損なわず、美味しく食べられるフリーズドライ食品が出来上がるのです。※2
豊富な種類のフリーズドライ食品
時間をかけずに手軽に食べられ長期保存もできるフリーズドライ食品。現在はさまざまな種類のフリーズドライの商品を開発しています。どのような食品に活用されているのか、いくつかご紹介します。
活用の場が広がるフリーズドライ食品
フリーズドライといえば、従来味噌汁などのスープ類が主流でした。しかし近年では、豊富な種類のフリーズドライ食品を販売しており、にゅうめんやパスタなどの麺類、リゾットやおかゆなどの米飯類、おしるこなどのスイーツまで、幅広いラインナップが魅力です。このような調理済みのフリーズドライ食品を活用すれば、料理の一品が手軽に完成します。
フリーズドライ食品はお湯を注ぐだけで作れるので、災害時などの緊急用食品としても活用されています。また、フリーズドライ加工を施した食品は、水分をほとんど含みません。水分が少なければ食品に含まれる成分や風味の変化を抑えることができるため、長期保存するのに優れています。さらに、フリードライしても栄養価が損なわれないことから、野菜をフリーズドライした商品も人気を集めています。包丁やまな板を使って、皮を剥いたり切ったりする手間が省けることから、毎日忙しく、料理の時短をしたい方からも好評です。
まとめ
フリーズドライは、栄養価を損なわずに保存性を高められる優れた乾燥方法です。災害時などの緊急用だけでなく、フリーズドライ食品のおいしさと簡単につくれる手軽さから、日常の食事にも取り入れられています。手軽でおいしく食べられるフリーズドライ食品を、是非活用してみましょう。
※1 乾燥技術の違いによる食品中の有用成分の変化
日本食品保蔵科学会誌 Vol.38
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010832640.pdf
※2 たかが味噌汁、されど味噌汁、フリーズドライ技術の蓄積
https://www.asahigroup-holdings.com/research/report/37.html