ビールにグラスに注ぐとシュワシュワと泡が出てきますね。「ビールには泡がつきもの。泡の無いビールは想像できない」という方がいらっしゃるのではないでしょうか。ビールの泡、実はおいしいビールを飲むために欠かせない役割をしているのです。ではビールの泡の役割や、そもそもなぜビールに泡ができるのか、炭酸飲料と違ってなぜ消えにくいのかなどをご紹介します。記事の最後にビールをおいしく飲むためのちょっとしたコツもご紹介しますので、ぜひお読みください。
ビールに泡ができる理由
ほかのお酒を見ても、ビールのように泡の層ができて長くキープされるものはほとんどありません。それでは、なぜビールには泡ができるのでしょうか。なぜ消えにくいのでしょうか。それらの理由を見ていきましょう。
ビールの泡の正体
泡の正体は、ビールに溶け込んでいる炭酸ガスです。二酸化炭素といった方が分かりやすいかもしれません。このビールの泡、実は製造工程で微生物の働きによりつくられているものなのです。その微生物は「酵母」の仲間である「ビール酵母」。ビールづくりに欠かせない大切なパートナーです。ビールをつくるとき、まず麦芽、ホップ、水などの原料から麦の甘い汁「麦汁」をつくります。この麦汁には麦芽糖が含まれており、ビール酵母はこの麦芽糖を発酵してアルコールと二酸化炭素をつくります。ビールはできあがった後ビンや缶などの容器に充填して密封するため、生成された二酸化炭素は逃げられません。そしてグラスに注ぐことにより泡が出てくるのです。
ビールの泡が消えにくい理由
ビールの泡はなかなか消えず、長い時間存在感を放ちます。サイダーなど一般的な炭酸飲料は時間が経つと泡が消えてしまいますが、なぜビールの泡は消えにくいのでしょうか。
それは、ビールの主原料である麦芽やホップの成分の働きによるもの。ビールをグラスに注ぐと液体から遊離した炭酸ガスが気泡となります。その気泡の周囲を麦芽由来のタンパク質が取り囲みます。気泡の膜の表面にタンパク質が並ぶことで、泡が壊れにくくなるのです。さらにホップに含まれる苦味成分が、並んだタンパク質同士を補強することで、気泡の構造が安定するのです。このように麦芽とホップは、ビールの味や色だけでなく泡もちの良さにも影響しているのです。
「泡」はビールをおいしくさせる?
ここまでビールに泡ができる理由、そして泡が消えにくい理由をご紹介しました。次にビールの泡にはどのような役割があるのかをみていきましょう。
ビールにおける泡の役割
黄金色のビールの上にきめ細かな白い泡がこんもり乗っていると、おいしそうに見えますね。泡はビールをおいしく見せる上、きめ細かい泡の滑らかさもビールのおいしさを引き立てています。泡には他にも大事な役割があるのです。
ふわふわの泡には、実はフタの役割もあるのです。泡があることによって、液体中の炭酸ガスが抜けるのを防いだり、風味が逃げ出したりするのを防いでくれます。また、ビールの液体部分を空気に触れさせないようにすることで、酸化を防いでおいしさをキープしてくれます。
ビールの泡もビール?
泡はビールをおいしくさせてくれますが、あまりに泡が多いと液量が少なくて損した気分になる方がいるかもしれません。実際に1940年代、日本のとあるビアホールでは、提供されたビールの泡が多いことから、かさ増しのためにわざと泡を多くして不当に売上を出しているのではないかと指摘が入り、法廷で争われたことも。
その際、東京大学の名誉教授であり「酒博士」として知られていた坂口謹一郎氏が、泡とビールの分析値を比較しました。その結果、泡の方がビールよりもアルコール濃度が高いことが分かりました。よって、泡が多いビールを提供しているからといって、不当な利益を上げているとはいえないという判決が出ました。このことから、「泡もビールである」という認識が広まったといえます。
ビールの泡を長持ちさせるには
せっかくビールを飲むなら、なるべく泡を長持ちさせておいしい状態をキープしたいもの。ビールは、グラスの状態やビールの注ぎ方によって泡のでき具合や長持ちの具合が大きく変わってきます。そこで次にビールのおすすめの泡の割合と泡を長持ちさせるコツをご紹介します。
おいしいビールはまずグラスの準備から
ビールを注ぎ入れるグラスは、洗剤を用いてきちんと洗浄しておきましょう。特に油分が残っていると、泡のキメが粗く泡が消えやすくなりますので、注意してください。洗ったあとは、流水ですすぎを行い自然乾燥させましょう。布巾などの細かな繊維も泡もちを妨げる原因の一つとなりますので、自然乾燥させることで細かい繊維がグラスの内側に残るのを防げます。
ビールの液体と泡、おすすめの割合は「7:3」
おいしいビールは液体と泡の比率は、7:3がおすすめです。先述のとおり、泡はビールのおいしさを決める重要な要素の1つ。フタの役割をする泡が3割程度になるようにビールをグラスに注ぐことができれば、ビールをもっとおいしく楽しめます。なおビールはあまり冷やしすぎると泡が立ちにくくなるので注意してください。ビールのおいしい温度は6℃~8℃。夏は「やや低め」、冬は「やや高め」の温度を目安にするとよいでしょう。
おいしいビールの注ぎ方
それでは、きめ細かな泡が3割程度を長持ちさせるビールの注ぎ方を紹介しましょう。今回は、缶ビールをグラスに注ぐ際の手順を紹介します。
まずグラスを垂直に持ち、缶の注ぎ口が真下を向くようにして少し高い位置からビールをグラスの中心に注いでください。グラスの半分程度まで泡ができたら、一度注ぐのを止めて泡が落ち着くのを待ちましょう。
次にグラスを斜めに持ち、缶の注ぎ口をグラスの縁につけて静かにビールを注ぎ入れましょう。このとき、泡の下にビールを流し込むことを意識してみてください。泡の下にビールを入れることで、おいしさを保ったまま注げます。
徐々にグラスを垂直に起こしていき、グラスの口付近までビールを注ぎましょう。その後仕上げとして、もう一度グラスを垂直に持ち、上からビールを注ぎます。この仕上げのおかげで、よりクリーミーな泡を立てられるのです。液体と泡の割合が7:3になるように調整したら、完成です。
おいしいビールを提供するためにアサヒグループが行っていること
アサヒビールでは、よりおいしい「アサヒスーパードライ」をお客様に楽しんでいただけるよう、2018年に泡品質を向上させています。これは仕込み、発酵、ろ過の工程に新たな醸造管理技術を導入することで、泡を形成するタンパク質の分解や喪失を極限まで低減させる技術の開発に成功。泡のきめ細かさや泡もちを進化させています。従来よりも更に洗練されたキレのある味わいを実現させています。
まとめ
ビールの泡は、見た目だけでなくおいしさにも関わる非常に重要なもの。グラスの手入れ、ビールの注ぎ方によりおいしい泡をおすすめの割合でつくることが出来ます。ビアホールなどのお店だけでなく家庭でもおいしいビールを楽しむために、今回ご紹介した「おいしいビールの注ぎ方」をぜひお試しいただければ幸いです。