加齢に負けるな!物忘れを予防する鍵は生活習慣にあり!?

2019.11.07

「あのドラマに出ていた芸能人、なんて名前だったかな...」若い頃と比べて、ちょっとしたことでもなかなか思い出せない、何だか物忘れが激しくなった気がする、と感じることはありませんか。年を取ると、どうして物忘れが増えてしまうのでしょう? 最近の研究では、その意外な原因も明らかになっています。本記事では、国内外の最新の研究成果を交えて、今から取り組める物忘れの予防法についてもご紹介します!

あなたの物忘れの原因は?加齢or認知症

物忘れとひとことで言っても、実はいくつか種類があるのをご存じですか? 今回の記事では、私たちが年齢を重ねるにつれて必ず経験する、加齢による物忘れにフォーカスします。

加齢による物忘れでは、「思い出す」力が衰える

私たちの「記憶」のしくみは、「覚える→キープする→思い出す」という3ステップでできています。この中でも、年齢とともに脳が老化することで衰えやすいのが、「思い出す」という力。たくさんの記憶の引き出しから、これだ!という記憶を見つけて引っ張り出すことが難しくなるので、「覚えてるはずなのに、なぜか思い出せない」ということが増えるのです。 ※1

  〜例えばこんな経験ありますか? 加齢による物忘れ〜

  ・テレビで見た芸能人の名前が思い出せない
  ・昔読んだ本のことを覚えてはいるが、題名を思い出せない
  ・おととい朝食を食べた記憶はあるが、献立を思い出せない

認知症による物忘れは、「覚えられない」

物忘れが激しくなったのではないか、と感じるとき、「ひょっとして...認知症?」と気になる方もいるのではないでしょうか。認知症では、脳のさまざまな部位の神経細胞が障害されるために、日常生活に支障をきたすような物忘れが生じてきます。加齢による正常な範囲の物忘れとの大きな違いは、記憶のプロセスの中でも「覚える」力が衰える点です。実際にはなかなか見分けがつきづらい面もありますが、次の3点がめやすになるかもしれません。 ※2

  〜認知症による物忘れ、3つのめやす〜

  ・物忘れのために日常生活に支障が出ている
   例)自宅への帰り道がわからなくなり迷ってしまう

  ・本人に物忘れの自覚がない
   例)同じ会話を繰り返しているのに気づかず、また同じ話をする

  ・経験の一部ではなく、経験したこと全体を丸ごと忘れてしまう
   例)朝ごはんを食べたこと自体を覚えていない

注:以上はあくまで一例です。ご自身や身近な方に気になる症状がある場合は、一度専門機関に相談してみましょう。

加齢による物忘れを加速する原因は、寝不足とメタボ!?最新研究でわかった事実

加齢による物忘れが起こる原因は「脳の老化」ですが、同じ年齢でも若々しく見える人がいるように、脳の老化のスピードは、人によってなぜか違いが出てきます。その違いのもとになるのが、日々の生活習慣と言われています。

実は、最近の研究で、「睡眠不足」や「メタボリックシンドローム」など、物忘れとは一見関係なさそうなことが、脳の老化につながり、物忘れに代表される認知機能の低下に関わることがわかってきました。驚きの最新研究をご紹介しましょう。

毎日1時間の睡眠不足が、脳の老化を早めてしまう!

毎日1時間の睡眠不足が、脳の老化を早めてしまう!

「今日もついつい夜更かししちゃった」「仕事が忙しくて、最近なんだか寝不足でね」そんな会話は日常茶飯事かもしれません。しかし、睡眠不足は脳の老化を早める、と聞いたらどう思うでしょうか?

「睡眠時間が短い高齢者は脳の老化が早い」という研究結果が、シンガポール国立大学医科大学院の研究者らにより発表されました。なんと、睡眠時間が1時間短くなるごとに、脳の萎縮が進むことが判明したのです。しかも、記憶力や情報処理速度などのテスト結果を合わせた総合的な認知機能も、睡眠時間が1時間短くなるごとに低下していくことがわかりました。たった1時間の夜更かしでも、脳の老化を進めるとは、あなどれませんね。 ※3

睡眠の質が低いと、意思決定力や思考力に影響が?

さらに、布団に入ってもなかなか眠れない、夜中や早朝に目が覚めてしまう、悪夢を見る、といった睡眠の質が低い場合にも、認知機能に影響があることがわかってきました。67歳以上の男性2800人以上を対象にしたアメリカの研究で、自己評価で睡眠の質が低いと答えた人は、そうでない人と比べて、意思決定や問題解決力、抽象的思考力などの「実行機能」が低下するリスクが、40〜50%も高まることが明らかになったのです。 ※4

メタボの影響は、糖尿病や高血圧のみにあらず...

メタボの影響は、糖尿病や高血圧のみにあらず...


気をつけるべきは睡眠不足だけではありません。「メタボ」という言葉はしばしば耳にしますよね。健康診断で指摘されたことのある方もいるのではないでしょうか。正式名称は「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」。運動不足や食べすぎ、などの生活習慣の積み重ねが主な原因となって、内臓脂肪型肥満になり、さらには脂質異常、高血糖、高血圧といった症状が現れている状態のことを指します。 ※5

このメタボリックシンドロームも、認知機能低下のリスクを高めていることが近年わかってきました。シンガポールで行われた研究で、1500人以上を対象に6年間の追跡調査をおこなったところ、メタボリックシンドロームと診断された人は、そうでない人に比べて、「軽度認知障害(*注)」を発症する人の割合が、1.75倍も高かったのです。メタボリックシンドロームが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病だけでなく、一見すると関係なさそうな脳の働きにも影響してしまう、というのは驚きですね。 ※6

(*注)軽度認知障害とは:正常な状態と認知症の間の状態を指し、認知症を発症する一歩手前、と言われています。生活に支障は出ていないものの、記憶力をはじめとする認知機能の低下がみられます。

物忘れの予防につながる「4つの生活習慣」

このように、睡眠不足などの生活習慣が、加齢による物忘れを加速してしまう可能性が明らかになってきました。でも、これはチャンスとも言えます。年を取るのは誰にも止められませんが、生活習慣は今日からでも、十分改善できるからです。

加齢に負けず、認知機能の低下を予防するための生活習慣についても、世界中で研究が進められています。今日からでもすぐに取り組める方法を、最新の研究成果とともにご紹介します。

1.寝る時間を1時間早くしてみる

寝る時間を1時間早くしてみる

寝不足だな、と感じている人は、時間をやりくりして、今より1時間早く寝てみるのはいかがでしょうか。もちろん、最適な睡眠時間の長さは個人によっても違いますが、認知機能の低下を予防するという観点からは、約7時間以上が一つのめやすとなるでしょう。

また、睡眠の質を高めることも認知機能の改善につながります。夜なかなか寝付けないなど、睡眠の質に悩んでいる場合は、次のように寝る前の過ごし方や起き方を工夫してみることで、眠りを改善できるかもしれません。 ※7

入浴は寝る直前でなく1〜2時間前に。
お風呂で上がった深部体温が下がってきてからベッドに入ると、眠りやすくなります。

寝る前に白色光を浴びないように、リビングや寝室の照明の色を変えてみましょう。
白色光を浴びると、眠気を促すホルモン・メラトニンの分泌量が減ってしまうためです。

眠気を感じてから寝床に就きましょう。
 目が冴えて眠れなくなってしまった時は、無理に寝床にとどまらずに一度起きて、音楽などでリラックスしましょう。

平日でも休日でも、起きる時刻は一定に。
 休みの日はついつい寝だめをしたくなりますが、体内時計のリズムを乱さないことが良い睡眠につながります。

2. 1日10分の軽い運動が、記憶力を向上する

1日10分の軽い運動が、記憶力を向上する

毎日の運動が、体力づくりや気分転換に良いのはもちろんですが、実は記憶力を向上させる効果もあることをご存じですか?

ゆったりしたウォーキングやヨガ、太極拳といった、ごく軽い運動を10分間行うだけで、記憶力が向上することが、筑波大学とカリフォルニア大学アーバイン校の研究グループにより、2018年に明らかになったのです。心拍数でいうと90〜100拍/分以下の、かなり楽だな、と感じる程度の運動が、脳の海馬を中心とした記憶システムを活性化し、記憶力を向上させるというメカニズムだと考えられています。負荷を掛けたきついトレーニングではなく、ウォーキングのように簡単な運動が記憶力にも効果がある、というのは続けやすそうですね。 ※8

3. 趣味を楽しみ、認知機能のカバー能力をアップ

趣味を楽しみ、認知機能のカバー能力をアップ
好きな趣味を楽しむことも、認知機能の維持に効果があることがわかってきました。最近、「認知の予備力」という考え方が注目されています。加齢にともない、私たちの脳は少しずつ老化していきますが、それをカバーする力のことです。ふだんから知的活動によって脳の神経細胞のネットワークが密になったり、記憶を司る海馬周辺が活性化していたりすると、脳細胞がダメージを受けても、他の情報処理経路で代償することができ、認知機能の低下を防ぐことができる、と考えられているのです。休みの日にはつい家でごろ寝したくなりますが、音楽や写真、手芸など、自分ならではの趣味を楽しむことが、神経ネットワークの効率を高め、「認知の予備力」を増やすのにも有効なんですね。 ※1 ※9

4. 食生活に、青魚、ナッツ、肉、乳製品を取り入れてみる

食生活に、青魚、ナッツ、肉、乳製品を取り入れてみる


衣食住の中でも、特に認知機能への効果が期待されているのが「食」です。私たちが口にする食品の中には、認知機能低下の予防に有効な成分がいくつもあることがわかってきています。バランスの良い食生活を心がけながら、以下のような食品をちょっとずつ取り入れてみるのはいかがでしょうか。代表的なものをご紹介します。

・イワシやサバなど青魚に含まれる、EPA、DPA、DHAは、認知機能改善の効果が多く知られています。脂の乗った秋のサンマなど、旬の時期に食べるのがおすすめです。青魚以外では、ウナギやサケにも多く含まれています。 ※10

・ナッツ類や、ほうれん草・ブロッコリーといった緑色野菜に多く含まれる、ビタミンE。 ※11

・鶏胸肉などの肉類に多く含まれる、イミダゾールジペプチド。高齢になると肉を食べるのを避けがちかもしれませんが、肉を食べることは認知機能の改善にもつながります。 ※11

牛乳や乳製品。福岡県久山町の住民を対象にした九州大学の研究では、牛乳や乳製品の摂取量が多い人ほど、認知症リスクが低下することがわかっているのです。 ※12 

・発酵乳の中の有効成分、ラクトノナデカペプチドによる記憶力の維持効果も、アサヒグループの研究により最近明らかになりました。

まとめ

私たちが年を取る限り、加齢による脳の老化は避けられません。しかし、睡眠や運動、食事など、私たちの生活習慣が、加齢に負けない脳をはぐくむことにもつながるのです。そう思うと、日々の暮らし方がちょっとだけ変わるような気がしませんか?

「どういう時に物忘れが多いかな?」「どうしたら予防できるんだろう?」といった自分の身近な疑問を入り口に、自分自身を観察して、物忘れ対策を考えてみる。また、年齢を重ねてゆく自分の体や脳の働きについて、もっと知ってみるのもいかがでしょうか。そんな知的活動をしてみるのも、物忘れ予防につながるかもしれませんね。

参考文献

※1 佐藤眞一 著「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」光文社新書, 2018
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334043872

※2 厚生労働省|みんなのメンタルヘルス総合サイト|こころの病気を知る|認知症
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html

※3 Lo JC. et al, Sleep duration and age-related changes in brain structure and cognitive performance. SLEEP 2014;37(7):1171-1178.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4098802/

※4 Blackwell T. et al, Associations of objectively and subjectively measured sleep quality with subsequent cognitive decline in older community-dwelling men: the MrOS sleep study. SLEEP 2014;37(4):655-663.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4044750/

※5 厚生労働省|e-ヘルスネット|メタボリックシンドローム
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic

※6 Ng TP. et al, Metabolic Syndrome and the Risk of Mild Cognitive Impairment and Progression to Dementia: Follow-up of the Singapore Longitudinal Ageing Study Cohort. JAMA Neurol 2016; 73(4):456-63.
https://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2491655

※7 厚生労働省保健局 健康づくりのための睡眠指針 2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

※8 Suwabe K. et al, Rapid stimulation of human dentate gyrus function with acute mild exercise. Proc Natl Acad Sci U S A 2018;115(41):10487-10492.
https://www.pnas.org/content/115/41/10487

※9 岩原昭彦, 八田武志, ライフスタイルと認知の予備力. Japanese Psychological Review 2009; 52(3): 416-429.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/52/3/52_416/_pdf/-char/ja

※10 D'Ascoli TA. et al, Association between serum long-chain omega-3 polyunsaturated fatty acids and cognitive performance in elderly men and women: The Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Eur J Clin Nutr 2016;70(8):970-5.
https://www.nature.com/articles/ejcn201659

※11 久恒辰博. 食品成分による脳老化改善・認知症予防の可能性. 化学と生物 2016; 54(12): 892-900
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/54/12/54_892/_pdf

※12 Ozawa M. et al, Milk and dairy consumption and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2014; 62(7):1224-1230.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jgs.12887

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