明日は大事な会議。資料を準備しなくちゃと思いつつ、スマホを眺めたり、ぼーっと過ごしてしまうなんてことはありませんか?目の前のことに集中できないのはなぜでしょうか。集中力を高める方法は、自己流でなんとなく実践している方も多いかもしれませんが、近年研究がすすみ、"なんとなく集中力がUPによさそう"にきちんと根拠があることが明らかになってきています。今回は、集中力や作業効率に関する研究成果に基づいて、集中力が落ちてしまう原因やその対策についてご紹介します!
起床から17時間たつと、もう"ほろ酔い"状態!?
近年は働き方が多様になってきたと言われていますが、日中が仕事のコアタイムだという方は未だ多いのではないでしょうか。夕方になると疲れてしまい、午前中のパフォーマンスが維持できず、集中力が下がってきたと感じることもありますよね。
実は、私たちが十分に覚醒して作業を行えるのは、起床後12~13時間が限界である、ということがオーストラリアの研究グループより報告されています。※1
さらに、起きてから17 時間が経過すると作業効率はますます低下し、「ほろ酔い」に相当する状態になると言われているのです。つまり、例えば朝7時に起床した場合、19時には集中力の限界を迎え、夜中24時にはビール中瓶1〜2本を飲んだ時(血中アルコール濃度 約0.05%)と同程度にまで作業効率が低下してしまうのです。
集中力や作業効率が落ちる原因ってなんだろう
慢性的な睡眠不足には要注意〜休日の寝溜めも効果なし?
睡眠不足が連日続くと作業効率は日に日に低下していき、やがて自分の作業効率が落ちていることさえを自覚できなくなる、なんて恐ろしいことも研究から明らかになっています。普段睡眠をしっかり取っている場合、一時的に睡眠不足に陥っても、翌日強い眠気を感じるため、寝不足を自覚することができます。しかし、睡眠不足が何日も続いてしまうと、作業効率が低下する一方で、自分ではそれほど強い眠気を感じない、ということが研究によりわかってきました。つまり自分の不調にも気付けない、という負のスパイラルに陥ってしまうのです。※2
では一体、どのくらいの睡眠時間を確保すればよいのでしょうか?一説では 1日の平均睡眠時間が6時間を下回ると作業効率が低下してしまうと言われており、個人差はあるものの6時間程度の睡眠時間確保は必要です。しかし、厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、30代・40代男女の約半数は1日の平均睡眠時間が6時間に満たないといわれています。働き盛り世代の約半数が、睡眠不足によってパフォーマンスを最大限発揮できない状態になっているのかもしれません。※3
また、「平日は忙しくてなかなか睡眠時間がとれないから、休日たくさん寝溜めしよう」と思っている方も、要注意です。毎日睡眠3〜5時間というタイトな生活を送っている場合、1,2日程度十分な睡眠をとっただけでは、作業効率は完全に回復しない、ということも最近の研究で明らかになりました。集中力維持の観点からは、休日の寝溜めは効果がない、ということなのです。※4
仕事上の溜め込みがちなストレスも大敵
「つらい仕事ばかり頼まれて、急がなくてはいけないのに集中できない」なんてことはありませんか。適度な緊張やストレスは仕事のパフォーマンス発揮のためによいと言われていますが、過度なストレスを溜め込み続けると、集中力や作業効率が低下します。これは、強いストレスがかかり続けることで脳が過剰に働きすぎた状態となり、疲れているのに眠れなくなってしまうためと言われています。睡眠に支障が出てしまうことで、ますます疲労が溜まり、集中力が低下する、という負のスパイラルに陥ってしまいます。※5
集中力が切れてしまった時に試してみよう
ここからは、仕事の時にはもちろん、家事をしている時などでも、集中力が切れてしまったなと感じたら、すぐに試せるリフレッシュ方法をご紹介します。
たった10分間の昼寝で午後のパフォーマンスが改善!
毎日適切な睡眠をとることがもちろん大切ですが、仕事や生活が忙しいと、十分に睡眠時間を確保できないこともありますよね。そんな時には、約10分昼寝をすることで、作業効率を改善できるかもしれません。オーストラリアの研究グループが、昼寝の時間の長さに応じて、眠気や疲労、作業効率に与える影響について調査したところ、10分間の昼寝をとった時に最も作業効率が改善されました。一方、昼寝で30分間寝てしまうと、かえって眠気や疲労感が募る上に、夜の寝つきが悪くなってしまうこともわかりました。昼休みの10分間をお昼寝タイムにあてるだけで、日々のパフォーマンスが維持できるなら、是非とも試してみたくなりますね!※6
細切れ作業と休憩中の癒やし画像でリフレッシュ!
働き方改革が進む現代でも、休むことを後ろめたく思う方も多いのではないでしょうか。しかし、こまめに休憩をとりながら作業する方が、休憩なしで作業するよりも効率がアップするという研究結果が報告されています。東京大学のチームの研究で、中学生に英単語の暗記学習をしてもらったところ、こまめに休憩をはさみながら15分間の学習を3セット行ったグループは、休憩なしで60分続けて学習を行ったグループと比べて、集中力を高く維持し、学習できていることがわかりました。また、集中力に関与する「前頭葉」の脳波も、休憩をはさむと回復して活発になるということがわかったのです。※7
また、休憩の取り方にもコツがあります。仕事の合間には、ついついSNSで「癒やし」を感じる風景や動物の写真をチェックしてしまう、という方もいるでしょう。そんな「癒やし」画像に、実は疲労を和らげる効果がある、というちょっと面白い研究も報告されています。南国の青い海や空などの「癒やし」を感じる画像を作業の合間に見ると、実際に疲労が和らぎ、集中力や作業効率の低下を抑えられることが、理化学研究所のグループによって明らかになったのです。集中力改善のためには、自分の好きな「癒やし」画像を手元に置いておくのも、ひとつの方法かもしれませんね。※8
日頃の生活習慣を見直して集中力UP
ここまで紹介してきたリフレッシュ法は、パフォーマンスが低下しているな、と感じた時に一時的に有効なものです。それだけでなく、日頃の生活習慣を見直すことも、安定したパフォーマンスを発揮するには大切です。
数分間の運動が集中力を呼び覚ます
「遅刻だ!」と思いながら通勤時に猛ダッシューーそんな時、出社してからいつもより仕事がはかどると感じた経験はないでしょうか。実はその感覚は正しいかもしれません。数分間の運動が集中力や判断力などを向上させることが、最近の研究で明らかになりました。筑波大学・中央大学の研究グループによると、自転車漕ぎ運動を30秒、休憩30秒を数セット行った後で集中力の評価をしたところ、運動しない状態と比べ、集中力や判断力が向上したのです。やや負荷の高い運動を短時間おこなうことで、思考や行動に関わる脳の部位の神経活動が活性化され、集中力の向上につながったと考えられています。※9
1日のうちたった5分間だけ、例えば出社前や昼休みの時間を利用して身体を動かす習慣をつくると、活力が湧いて仕事がはかどるようになるかもしれませんね。
食事でアタマを活性化しよう
一般的に、朝食を食べることは様々な観点から推奨されていますが、実は、集中力維持の観点からも、朝食をとることには良い効果があるのです。ある製薬企業の調べでは、朝食を食べたグループは、朝食を食べていないグループに比べ、高い集中力を維持し、作業量も多くなる、ということが明らかになっています。一汁三菜のような献立でなくとも、固形状の栄養調整食品といった手軽な食べ物でも、同様の効果が得られるそうなので、忙しい日でも何かひと口朝食をとれるとよいですね。※10
また、鰹出汁を飲むことで作業効率の低下が抑えられる、という研究報告もあります※11。例えばコンビニのおにぎりと味噌汁という組み合わせも、おすすめかもしれません。
さらに、脳の働きを活発にするような栄養素や食品も注目されつつあります。例えば、サバやマグロなどの魚に含まれるDHA (ドコサヘキサエン酸)やEPA (エイコサペンタエン酸)は、脳内の情報伝達をスムーズにすると言われています。普段の食事で魚を食べるのはちょっと難しいという場合でも、サプリメントとして取り入れることが可能です。同様に、発酵乳に含まれるペプチドも集中力改善に有効であることがわかってきました。※12
こうした栄養素は、集中力向上に対して即効性はありませんが、3か月、4か月と続けることで効果が出てくるものであり、日々安定したパフォーマンスを持続的に発揮したい方にはおすすめです。
まとめ
日々のパフォーマンスを発揮し続けるためには、睡眠や適切な休憩をとること、またちょっと食事に気をつかうなど、小さな生活改善を積み重ねていくことが非常に大切です。仕事や家事、また育児などに忙しく、頑張っている「今」だからこそ、より効率よく乗り切るために一度生活を見直してみてはいかがでしょうか。集中力や作業効率の向上で生活を豊かにする糸口が見つかるかもしれませんね。
参考文献
※1 Dawson D. and Reid K., Fatigue, alcohol and performance impairment, Nature 1997; 388, 235.
https://www.nature.com/articles/40775
※2 Krause AJ. et al., The sleep-deprived human brain, Nature Reviews Neuroscience 2017; 18(7):404-418.
https://www.nature.com/articles/nrn.2017.55
※3 厚生労働省|平成29年「国民健康・栄養調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189_00001.html
※4 Van Dongen HP. et al., The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation, Sleep 2003;26(2):117-26.
https://academic.oup.com/sleep/article/26/2/117/2709164
※5 徳永 雄一郎 著,「脳疲労」社会 ストレスケア病棟からみえる現代日本, 講談社現代新書, 2016.
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210835
※6 Brooks A. and Lack L., A Brief Afternoon Nap Following Nocturnal Sleep Restriction: Which Nap Duration is Most Recuperative?, Sleep 2006; 29(6):831-840.
https://academic.oup.com/sleep/article/29/6/831/2708239
※7 Watanabe Y. and Ikegaya Y., Effect of intermittent learning on task performance: a pilot study, J. Neuronet 2017; 38:1-5, 2017.
http://neuronet.jp/jneuronet/002.pdf
※8 水野敬ら, 健康科学イノベーションのための抗疲労介入研究, グランフロント大阪(大阪府・大阪市), 2014年5月30
https://research-er.jp/articles/view/20217
※9 Kujach S. et al., A transferable high-intensity intermittent exercise improves executive performance in association with dorsolateral prefrontal activation in young adults, NeuroImage 2018; 169:117-125.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1053811917310170?via%3Dihub
※10 食事の内容が脳と体のパフォーマンスに影響、大塚製薬
https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/balance/performance/
※11 石崎太一ら, 鰹節だし摂取が単純作業負荷時の精神疲労・ストレスおよび作業効率に及ぼす影響, 日本食品科学工学会誌 2007; 54(7):343-346.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/54/7/54_7_343/_pdf
※12 アサヒの素材【ラクトノナデカペプチド】