「ビール醸造工程における酵母スラリー撹拌システムの開発」が「令和元年度 化学工学会」において技術賞を受賞
2020年9月25日、東京都江東区にて、「令和元年度 化学工学会賞」の表彰式が行われました。表彰式では、アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株)と(株)神鋼環境ソリューションズの「ビール醸造工程における酵母スラリー撹拌システムの開発」が技術賞を授与されました。
表彰式は本来3月に開催予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で延期となっていました。この度、9月24日~26日にオンライン開催された、「化学工学会 第51回秋季大会」に合わせて、学会賞の表彰式も執り行われました。なお、表彰は実際の会場での授与と、オンラインでの授与が組み合わせて行われ、昨今のライフスタイルに合った新しい試みとなりました。
ビール製造では、一度発酵を終えて回収した酵母の懸濁液(以下、酵母スラリー※)を再度利用するまで、タンク内で保管する工程があります。しかし保管中、多くの酵母は凝集する傾向があり、タンクの上下で濃度の差が生じます。すると次に利用する際に酵母の濃度にばらつきができ、発酵工程が不安定となるため、保管している間も撹拌操作などで濃度を均一にする必要があります。
以前からいくつかの酵母撹拌機が開発されてきましたが、均一な状態になるまで強い力で撹拌すると酵母が大きくダメージを受け、逆に弱い力だと充分に撹拌することができず、最適なハンドリングが求められてきました。
そこで、撹拌による物理的な力と温度などの環境条件が、酵母にどのように影響するかを詳細に解析し、「低温かつ短時間であれば、撹拌の際に酵母が受けるダメージを最小化できる」という仮説をたてました。そしてタンク内全体を混合できる装置を試作して仮説を検証、さらに低温のタンク内での撹拌の様子をコンピュータでシミュレーション・調整を繰り返しながら、酵母へのダメージを最小限に抑えられる撹拌システムを開発しました。
最終的に撹拌翼付きタンクをスケールアップし、実際のビール工場に展開した結果、酵母がより活性の高い状態で維持され、高品質なビールの安定製造に寄与しました。本技術はアサヒビール(株)のビール工場をはじめ多くのビール工場に導入され、現在国内ビール製造現場で稼働しています。
今回、化学工学と農芸化学の分野を横断的に融合させることで、これまでビール製造の現場で長らく抱えていた課題を解決に導き、社会実装の成果をあげたため、受賞に至ったと考えています。
令和元年度 化学工学会技術賞
■受賞内容
「ビール醸造工程における酵母スラリー撹拌システムの開発」
■受賞者
アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株) 川村公人(写真右)
(株)神鋼環境ソリューション 菊池雅彦(写真左)・南俊充・岡本幸道
*いずれも敬称略