ラクトノナデカペプチド(LNDP)を含む食品の摂取により高齢者の認知機能が改善
-100名以上の「もの忘れが気になる」と感じている高齢者を対象に試験を実施-
高齢化により、認知機能や記憶力の低下を伴う認知症などの発生率が増加しています。認知症の一種であるアルツハイマー病については発症メカニズムの解明が進むと共に、認知症予防や認知機能向上につながる脳機能改善食品の開発が期待されています。近年では、牛乳や乳製品の認知機能低下に対する予防効果の研究が進んでいます。アサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社(AQI) コアテクノロジー研究所では、「もの忘れが気になる」と感じている高齢者約100名を対象に、アサヒグループが長年の研究で発見した乳由来ペプチドであるラクトノナデカペプチド(LNDP)(※1)を含む食品の認知機能への影響を調査しました。
本論文での臨床試験結果は、試験食品に関連した機能性表示食品に示される機能性に追加されるものではありません。
●病院や高齢者施設に通う軽度認知機能低下の疑いがある高齢者113名に対して、LNDPを含む食品を24週間継続して摂取する試験を行いました。
●モニター会員のみを対象とした試験と比較して、日常生活を送る高齢者を広く対象とすることで、「もの忘れが気になる」と感じている高齢者におけるLNDPの有用性を検証しました。
●LNDPを24週間摂取した群(試験食品摂取群)では、注意機能(注意力)を評価するSDMT(※2)においてプラセボ群と比較して有意な改善が認められました。また、「何をしようとしたか思い出せない」といったもの忘れに関する主観評価でも改善が認められました。
●複雑な図形の模写能力を評価するROCF(※3)テストでは、全体解析において試験食品摂取群とプラセボ群の間に有意差は認められませんでした。一方、描画能力の影響を考慮し、ROCF模写スコアが33点以上の参加者を対象に層別解析を行った結果、プラセボ群ではスコアの低下が認められたのに対して、試験食品摂取群ではスコアが維持され、群間で有意な差が認められました。
これまでにLNDPの認知機能への効果を検証してきた被験者は、モニター登録者が主流でした。しかし、モニター登録という行動を起こしている点で、母集団の属性に一定のバイアスがかかっている可能性があります。本研究では、モニター登録者ではなく、新たに病院や高齢者施設に通っている健常な高齢者や、地域住民を対象とした試験を実施しました。これはLNDPの認知機能に対する効果を検証する上で非常に有意義なことでした。しかも、静岡県立大学の山田靜雄先生が中心となり、施設や病院への交渉をはじめ高齢者への説明を丁寧に行ってくださるなど、アカデミア主導で行ったことで参加者に対して企業のバイアスがかかることなく、公平性を保って試験を進めることができました。
私は長年にわたってLNDPの認知機能への影響や安全性の評価、体内動態や作用機序の解明、素材の製法開発などに携わってきました。LNDPの認知機能への影響については、さまざまな先行研究によって明らかになってきたこともあります。本研究では、認知機能の中でも作業記憶や注意機能などを中心にLNDPの効果を調べて、有効性が示されました。今後も信頼性の高いエビデンスを提供し、私たちの研究が、よりよい生活の実現に貢献できればと期待しています。
私はこの論文の研究には直接関わってはいませんが、本研究成果をもとにヒトiPS細胞由来の神経細胞にLNDPを添加することで生じる遺伝子発現について調べてきました。これまでに脳由来神経栄養因子(BDNF)(※4)等の遺伝子発現の増加が認められており、静岡県立大学の山田先生を中心に共同研究の成果をまとめていただいているところです。LNDPが記憶や認知機能に作用する分子機序を明らかにすることで、その有効性を科学的に裏付け、消費者が安心して積極的に摂取できる根拠となることを期待しています。
認知症という社会課題に対しては製薬企業を中心に新薬開発が進んでいます。一方で、認知症を発症する前の段階から安全性の高い食品を日常的に摂取することで、認知症の予防や認知機能の維持に役立てることも重要だと考えています。私たちの研究では、そのような予防的アプローチに科学的なエビデンスを提供し、健康寿命の延伸に貢献することを目指しています。
※4 脳由来神経栄養因子(BDNF:Brain-Derived Neurotrophic Factor)
脳の神経細胞の成長、生存、機能維持を促すタンパク質。「脳の肥料」とも呼ばれる。
本研究では、もの忘れが気になる軽度認知機能低下が疑われる高齢者(65歳以上)を対象に、国際的に認知された試験であるROCF、SDMTを用いて、乳由来ペプチドLNDPを含む食品の24週間摂取による影響を評価しました。その結果、LNDPの継続摂取が記憶機能・認知機能や注意機能の向上に寄与することが示され、学術的に意義深い知見であると考えられます。今後の本領域における機能性食品として期待されます。
研究にあたっては、静岡市、近隣の市町の老人会やラジオ体操にも参加して説明させていただきました。高齢健常人を対象として、質の高いヒト介入試験を実施し信頼性の高い結果を得るために、本試験の趣旨を被験者に丁寧かつ分かりやすく説明して理解を得るように努めるとともに、乳由来の試験食品についての詳細な説明を行いました。
健康をサポートする機能性食品は、一般消費者が自己判断で摂取します。飲食品業界およびアサヒグループには、安全性と機能性において誰もが納得できる信頼性が高い学術的根拠(エビデンス)に基づく製品開発に努めていただきたいです。
近年、牛乳や乳製品の認知機能低下に対する予防効果に関する研究が増加しています。牛乳には、ホルモン分泌、免疫、栄養素の吸収、神経伝達などの重要な生理機能に関与する多数のペプチドが含まれています。私たちが2018年に発表した研究では、「カルピスⓇ」製造に使われるカルピスⓇ菌に含まれるLactobacillus helveticus発酵乳が非臨床試験において記憶障害に対して有効であることを見出し、そこに含まれる主な活性成分がLNDPであることを発見しています。また、健常な中年被験者を対象とする研究では、LNDP を含む発酵乳を 8 週間摂取することで注意機能と遅延記憶が改善されることを示しました。本研究では、複数の医療機関や地域在住の高齢者の協力を得て、100名以上の健常な高齢者がLNDPを含む食品を24週間摂取することの認知機能に対する影響を調査しました。
図1)試験食品摂取群とプラセボ群におけるSDMTスコア変化量の比較
図2)試験食品摂取群とプラセボ群における「何をしようとしたか思い出せない」スコア変化量の比較
図3)試験食品摂取群およびプラセボ群におけるROCFスコア変化量の比較
※描画能力によるバイアスを取り除いた層別解析(試験食品摂取群n=38、プラセボ摂取群n=45)
本研究では、LNDPを含む試験食品を24週間継続摂取した高齢者において、注意機能および視覚性認知機能に関する指標で有意な改善が確認されました。これらの結果は、LNDPを含む食品を継続摂取することが高齢者の認知機能の一部(注意機能や視覚性認知機能)の維持・改善に寄与する可能性があることを示しています。
脳神経細胞に対するLNDPの正確な分子作用機序はまだ十分には解明されていません。そこで別途実施した研究において、私たちはヒトiPS細胞由来神経細胞における学習および記憶関連遺伝子発現に対するLNDPの影響について調べました。その結果、LNDPはBDNF、受容体チロシンキナーゼファミリー(Trk受容体)(※7)などの遺伝子発現を増加させることが示されました。LNDPの作用機序を明確にするためには、今後さらなる研究が必要です。
Shizuo Yamada, Michiyo Shirai, Fumiya Nakamura, Kazuhito Ohsawa, Manabu Watanabe, Michiko Koga. Beneficial Effects of Food Containing Lactononadecapeptide on Memory Function in Elderly Japanese Subjects—A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study. Food Res. Suppl. 2026, 1(2), 10006; DOI: 10.70322/frs.2026.10006