REPORT

バイオガス×燃料電池でクリーンな発電を目指す!
~ビール工場排水由来のガスを利用~

現在、地球温暖化防止に対する意識は世界中で高まっており、省エネのために様々な取り組みが行われています。アサヒグループも気候変動に関する新たな中長期目標を設定し、各部門での取組みを推進しています。
今回は日本の高い技術力に注目が集まっている「燃料電池」と、ビール工場排水由来の「バイオメタンガス」を用いた発電について、ご紹介します。

日本の「燃料電池」技術で二酸化炭素削減に貢献

地球温暖化は、平均気温の上昇、海面上昇、洪水に留まらず、森林火災、干ばつ、海洋酸性化など、地球規模で様々な影響を及ぼしています。これらは国境を越えた非常に重要な問題であるため、国際的な枠組み※下部コラム①参照が策定され、各国が自発的に取組みを開始しています。

日本でも自動車排出ガスの削減、二酸化炭素(以下、CO2)の回収・貯留、発電効率の向上など、非常に高いレベルで省エネが進んでいます。日本が掲げる、 2030年度の温室効果ガス削減を、2013年度比26.0%減とする目標達成のためには、企業が協力してさらなる技術革新に取り組む必要があります。

日本が保有する、高度なエネルギー創出技術のひとつに、「燃料電池」があります。燃料電池は水素と酸素の化学反応エネルギーを、電気エネルギーに直接変換するため、発電時の効率が非常に高いことが知られており、さらにクリーンなエネルギーとしての活用が期待されています。しかし、大半の燃料電池は高効率に発電するため、化石燃料から水素源を得ており、その際に発生するCO2は地球温暖化ガスとしてカウントされるという問題があります。この課題を解決できれば、燃料電池発電の技術でCO2削減目標に寄与できると考えられます。

図1:持続可能な地球環境のための取組み例

「カーボンニュートラル」な排水を活用!

アサヒグループでは、国内にあるビール工場8拠点、飲料工場5拠点において、嫌気性排水処理設備を導入しています。この設備では、製造工程で出る大量の排水をメタン発酵法により処理し、そこから「バイオメタンガス(以下、バイオガス)」を得ています。バイオガスはメタンが主成分であり、カーボンニュートラル※な資源です。
現在バイオガスをタービンやエンジンなどで燃焼することで、電力や熱エネルギーとして再利用していますが、さらに高効率に発電をするために、燃料電池の燃料(水素源)としてバイオガスを活用することを考えました(図2)。

※カーボンニュートラル
CO2の排出総量が変化しないことを示しています。植物由来の原料を用いて得られたバイオガスは、植物の成長段階でCO2を吸収しているため、燃焼時にCO2が排出されたとしても、全体でみると総量は変化しない、という考え方です。

図2:工場排水由来のバイオガスの利用

工場排水特有の不純物を除去・ガスを精製

バイオガスを使用する際に、課題となるのがガス中の不純物です。燃料中に不純物が存在すると、微量でも燃料電池の電極成分と反応し、電極面に膜を形成したり、電極そのものと反応して電極を不活性化してしまい、発電できなくなります。この燃料電池を不活性化する不純物(被毒物質)には様々なものがありますが、全てを除去するための設備は巨大で、かつ導入コストも高くなってしまいます。

そこでビール工場排水に存在する可能性がある被毒物質(ホウ素、ケイ素、リン、硫黄、塩素等)について、ガス中に含まれる成分分析を実施したところ、検出された成分は硫化水素(H2S)などの硫黄系成分のみであることが分かりました。そこで、これらを除去(脱硫)する、高純度かつ低コストで導入可能な精製プロセスの開発に取り組みました。

その結果、3段階の脱硫ステップ(①水酸化ナトリウムと反応させる湿式処理、②活性炭に吸着させる乾式処理、 ③水分を完全に除去する脱水処理)を含む精製装置を完成させました。実際に本装置を用いて、工場排水から得られたバイオガスを精製した結果、H2Sは機器で検出できる下限値未満まで除去できていることが確認できました(図3)。(二酸化硫黄、三酸化硫黄も同様に検出なし)

図3:脱硫工程と各工程でのH2S濃度

バイオガスを使った長時間連続発電に成功

精製したバイオガスを、実際に燃料電池発電に用いた場合の性能を検証するため、九州大学次世代燃料電池産学連携研究センターと共同で、発電試験を実施しました。今回使用した発電試験は、固体酸化物形燃料電池※下部コラム②参照(以下SOFC、三菱日立パワーシステムズ社製)の一部である3素子セルを用い、アサヒグループと九州大学が共同で開発した試験用バイオ燃料電池発電装置で実施しました。

この試験用SOFCを用いた検証の結果、ほぼ一定の電圧を維持しながら(図4)、3,000時間を超える連続発電に成功しました。また被毒物質による発電阻害も見られなかったため、今回の精製メタンガスは燃料電池発電燃料として、実用可能であることが確認できました。

図4:精製したバイオガスを用いたSOFCでの発電

2019年5月、10,000時間の連続発電に成功!

さらに試験運転を継続した結果、2019年5月に10,000時間の連続発電に成功しました。10,000時間という長い時間発電を継続しても、ほぼ一定の出力を維持していることも確認しています。

今後は実用スケールでの検証を続けていきます。

1万時間試験発電成功を喜ぶアサヒグループの社員(2019年5月、九州大学にて)

まとめ

今回、新たに開発したバイオガスの精製プロセスは、H2S以外の様々な被毒物質に対しても、その被毒物質に対応した除去を実施する事で、高純度な精製設備を低コストで導入することが可能と考えます。更にこの精製バイオガスを高効率な発電系であるSOFCと組み合わせることで、地球温暖化防止に対する効果も高まると考えています。私たちは、さらなる長時間の稼働や、発電コスト削減などを検証した上で、これらのシステムを事業実装プロセスとして確立することで、ビール工場に限らず幅広い食品工場のほか、嫌気性排水処理設備を導入している多くの工場・施設でもバイオ燃料電池の活用が可能となり、CO2排出量削減に貢献できると考えます。
今後もアサヒグループは技術開発をすすめ、事業成長とともに持続可能な社会の実現に向けて挑戦し続けます。

コラム①
世界で取り組む地球温暖化防止活動

地球温暖化問題に国際社会全体で取り組むため、世界的に様々な取り組みが実施されています。特に大きな枠組みの制定は、現在までに3つありました。

①1992年 国連気候変動枠組条約採択
・・温暖化に対し取り組むことに世界中が合意
②1997年 京都議定書採択
・・2008-2012年の温暖化ガス排出削減目標設定(改正案で2020年までの目標に変更)
③2015年 パリ協定
・・世界平均気温上昇を、産業革命以前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑えるための目標を策定。各国は目標を設定し、報告する義務がある

日本はパリ協定の枠組みを受けて、 2030年度の温室効果ガス排出削減を、2013年度比26.0%減とすることを目標に掲げています。
地球温暖化に対する対策は、大きく「緩和」と「適応」の2つに分類されています。

●「緩和」・・ 二酸化炭素をはじめとする、温室効果ガス排出量を削減する
(例:省エネルギー技術の開発や普及、植物による二酸化炭素吸収促進など)
●「適応」・・ 生態系や社会システムを調整し、温暖化の悪影響を軽減する
(例:灌漑対策、インフラ整備、新しい農作物の開発など)

国際社会で決めた目標を実現するためには、双方の対策を各国で推進することが不可欠です。

コラム②
SOFCのちょこっと解説

燃料電池は、水素を燃料として供給し、酸素と化学反応させることで電気エネルギーを得ています。
そのうちの1つであるSOFCは、燃料極に燃料ガス(メタンガスや一酸化炭素)、空気極に空気(酸素)を供給し700-1000℃の温度で発電します。また、稼働温度が高いため所定の触媒を用いる事で、供給するメタンガスなどから、燃料である水素を分離すること(改質)が可能となっており、改質工程と発電工程が同じ系の中で実現可能となっております。さらに排熱も高温であるため、熱利用と組み合わせることで、電気と熱を同時に得ることができる、高効率なシステムと考えられております。
なお現在、日本国内で燃料電池自動車などに用いられている燃料電池は、PEFCと呼ばれる水素を燃料とした燃料電池となっています。