挑戦する研究者たち挑戦する研究者たち

研究と商品化の架け橋となり、
基礎研究の成果を社会に届ける

image開発

アサヒグループホールディングス株式会社
プロセス開発研究所 
内田 直人

研究者に「あなたが実現したい夢は?」と問えば、そのほとんどが「自分の手で新しいものを発見したい」と答えるだろう。しかし、内田の答えは、少し違っていた。
「研究が生み出した成果を商品に仕上げて社会に届ける。基礎研究を長くやってきた自分だからこそ、その架け橋となる存在になりたいと考えています。」
なぜ内田はそう考えるようになったのか、内田の想いに迫る…。

プロセス開発に携わることの意義とは。基礎研究で経験した悔しさを糧に

学生時代に生物科学を専攻していた内田は、「食」を通じて広く人々の健康に貢献したいと考え、アサヒグループホールディングス株式会社(当時のカルピス社)への入社を決める。
入社後は、長きにわたって、基礎研究の分野に携わることとなった。研究テーマの1つに、発酵乳の機能性に関する研究があった。内田は発酵乳に含まれる成分をつぶさに分析することで、「記憶力向上」に寄与する物質の特定に成功した。この研究成果はのちに、サプリメントとして商品化されることとなった。内田は当時の想いを「研究者として、この上ない喜びだった」と振り返る。」 

そんな内田であったが、2016年に異動が命じられる。新たな配属先として指定されたのがプロセス開発研究所だ。研究で見出された素材を商品化するための製造工程(プロセス)を検討して、生産効率の向上を目指すセクションである。
しかし、研究室と同じような製造プロセスで生産を展開するためには想像を超えた困難がある。たとえば、スケールアップ、低コスト化、品質維持、安定生産など、いくつものハードルをクリアしなければならないのだ。内田自身も、過去には苦い思い出がある。
「地道に実験を繰り返した末に、ようやく新しい物質や機能を発見しても、『採算が見合わない』『大量生産ができない』という理由から商品化につながらず、悔しい経験をしたこともありました」
だからこそ、自分がプロセス開発に携わることの意義がある……内田は、そう考えている。
「基礎研究を長くやってきた自分だからこそ、研究に携わる研究者たちの声に耳を傾け、彼らの想いを理解し、事業化する上で欠かせない存在になれるよう努力していきたいです」

スペシャリスト集団の「チーム力」

 プロセス開発研究所は、工場での現場経験者や微生物操作の達人など、さまざまなバックグラウンドで経験を積んだ者たちが集まる「スペシャリスト集団」だ。多様な人材が、互いに強みや専門性を発揮して「チーム力」で大きな成果を目指している。内田は、プロセス開発研究所で仕事をしながら、不思議な居心地の良さを感じていた。
「私は学生時代、水泳部に所属していました。水泳は個人種目がほとんどですが、リレー種目となるとチーム力が勝敗を左右します。普段の練習では、それぞれで技術や速さを磨いていきますが、リレー種目となれば個々の力を結集させ、戦略を立てて試合に臨まなければなりません。……プロセス開発研究所には、あの頃のチームを思い出させてくれる雰囲気がありますね。」

チーム力で成果を挙げた仕事のひとつに、乳酸菌「ラクトバチルス・アミロボラスCP1563株」の粉末素材の製法検討と生産拠点の立ち上げがある。内田はその時の思いを、うれしそうに語る。
「商品化するためには、求められる“品質(機能性)”と“コスト”を満たした乳酸菌の粉末素材を期限内に用意しなければならなかったのですが、研究室スケールではうまくいっていたことでも、工場のタンクスケールになるとうまくいきませんでした。新商品の発売日が迫る中、試行錯誤をくり返す地道な作業との闘いだったことを覚えています。一人でうまくいかないときこそチームの力が頼りになります。みんなで検討し合い、違った角度からの意見を取り入れることで課題解決につながる道が開けました。無事に発売日を迎えることができたときには、みんなで喜びを爆発させました。」

架け橋となる存在として、失敗を恐れずにチャレンジし続ける

「アサヒグループの研究所が生み出す研究成果には、さまざまな社会課題の解決につながるものが多くあります。私たちプロセス開発研究所のメンバーは、それを世の中に送り出すのがミッションです。そのミッションを果たすことは簡単ではありませんが、そんなときも『あきらめずに粘り強く物事に立ち向かう』ことが結果につながります。」
研究段階から、工場での生産を意識してプロセス開発を進められるようになれば、商品化までの期間が短縮でき、競争力の強化にも貢献できる。研究と商品化をつなぐ架け橋として、内田に課せられた役割は大きい。
 
「研究が生み出した成果を商品に仕上げて社会に届ける。基礎研究を長くやってきた自分だからこそ、その架け橋となる存在になりたいと考えています。」
プロフィールで紹介した内田の想いは、こんな経験から生まれたものに違いない。
(2017年6月19日取材)