挑戦する研究者たち挑戦する研究者たち

「圧倒的にうまい」チューハイを作り、
チューハイカテゴリーでNo.1になる!

image開発

アサヒビール株式会社
研究開発本部 酒類開発研究所 開発第二部
瀬川 睦

大学院時代、生命理工学研究科で「生分解性プラスチックの微生物発酵に関する研究」に取り組んでいた瀬川。「微生物を利用したものづくり」に興味があったことからアサヒビール株式会社を志望したという。入社後に配属されたのは、缶チューハイの商品開発を手がけるセクション。「理想の缶チューハイ」を追求する日々の中で、「レシピや製造工程での技術革新」を目指す、瀬川の新たな挑戦が始まっていた。

入社一年目の瀬川が託されたのは、前例のない「すだち味」の新商品開発

酒類メーカー各社が次々と新商品を開発し、激しい商戦が繰り広げられている缶チューハイ分野。その商品開発は、どのように行われているのだろうか。瀬川に説明してもらった。
「例えば、『アサヒもぎたて』なら、活きた果実の味わい、すっきりとした後味、飲み飽きない味といったように、ブランドごとにその特徴を表現するコンセプトがあります。こうした特徴を最大化しながら、各フレーバーに合わせて果汁や香味などのバランスを調整し、生産に向けた処方を設計する…この工程を通常2-3ヵ月で行っていきます。「もぎたて」を新ブランドとして発売する前にはコンセプトと中味作りを同時に行ったので開発には約3年かかりました」
開発現場では、1つの商品は1人の担当者に託される。入社1年目の瀬川が初めて任された商品は、期間限定発売の「クリアクーラーすだち」。すだちを使った缶チューハイは、社内で扱ったことのない、新しいフレーバーの商品だった。
「多くの商品では、従来品を起点に改良の方向性を探っていくのですが、すだちの場合は前例がなかったので、ゼロからのスタートでした。初めて担当する商品ですからプレッシャーもありました」
瀬川はまず、すだちの生果実はもちろん、「すだちサワー」や「すだちジュース」なども試しながら “すだちの味”を研究。「甘味も酸味もしっかりしていて、スパイシーな香りで食事にも合う」という基本方針を決めた。
缶チューハイのフレーバーを特徴づける要素は、果汁、香料、甘味、酸味、炭酸のガス圧などだが、意外なことに、味の印象を大きく左右するのは「香り」なのだという。
「私たちが感じている『味わい』や『風味』といったものは、実は味そのものだけではなく、香りが強く寄与しています。例えば、お菓子などで『青りんご味』として定着しているものも、味そのものは、むしろ洋ナシに近い味だったりすることもあります。すだちの場合も、さまざまな菓子や飲料を参考に、香料メーカーからサンプルを取り寄せて香りを検討しました」

正解のない問いに向き合い、「おいしい」を見つけ出す

味の方向性が固まったら、配合を微妙に調整しながら試作を繰り返し、しだいに精度を高めていく。完成までに試したレシピは40~50種類におよぶ。
開発過程で欠かすことのできないのが「試飲」だ。数種類の試作品や競合品と飲み比べながら、同僚たちと意見を交わす。
「時にはアルコール度数9%のお酒を、朝から何度も飲み続けることもあります。もちろん飲まずに口に含むだけで評価もできますが、チューハイの場合は後味や飲み込んだ後に鼻腔に感じる香りも重要な評価基準になるので、しっかり飲みこむことも多々あります。今は慣れましたが、最初のうちは酔ってしまってたいへんでした(笑)」

「おいしさ」に正解はない。最終的な配合にたどり着くまでのプロセスについて話を聞いた。
「自分がおいしいと思う配合を、開発チームの同僚たちにも試飲してもらって意見を聞きます。そこで、『もっとこうしたら』という提案が出てきたら、全体のバランスを損なわずに改善するために、どの原料をどの程度調整すれば実現できるかを考え、新たな配合を試してみる……この作業を繰り返すことで精度を高めていきます。最初の頃は、私が『これだ!』と確信した味を認めてもらえずへこみましたが、今ではそうした同僚たちの意見も前向きに捉え、『よし、今度こそ!』と思えるようになりました」
こうしたプロセスを経て、いよいよ「クリアクーラーすだち」が発売された。
「やっぱり、自分が開発した商品が店頭に並んでいるのを見たときは感激でした。お客様にも好評で、共同開発した大手流通チェーンの方からは『来年もぜひ、すだちを販売したい』といっていただきました。初めての仕事で重圧も感じていたので、とてもうれしかったですね」


 

次なる目標は「新<もぎたて>キープ製法」のバージョンアップ

瀬川は現在、これまで取り組んできた味づくりの仕事に加え、技術開発の分野にも挑戦しようとしている。目標は「新<もぎたて>キープ製法」のバージョンアップだ。
「現在の『新<もぎたて>キープ製法』は、低温殺菌によって中身の香味劣化を抑制する技術と、劣化の抑制効果を持つ天然素材を活用して香りの劣化を防ぐ技術の組み合わせです。私は『ガス圧を調整したら、より香りが引き立つのではないか』『こんな素材を配合したら、さらにフレッシュさがキープできるのではないか』など、配合を検討する中で気づくことから新製法の開発につなげるような仕事をしていきたいんです」
2017年6月には、ビール醸造技術で権威のある国際学会「American Society of Brewing     Chemists Annual Meeting」において発表を行う機会にも恵まれた。
発表の 演題名は「革新的技術を応用したアルコール飲料RTD*の開発」である。「アサヒもぎたて」を支える技術に関するこの発表は、科学的エビデンスによって裏付けされた製品の重要性が増してきているという背景もあって、海外の醸造関係者からも注目を集めた。
それにしても、なぜビール醸造技術の学会でチューハイの技術発表なのだろうか?
「もちろん、発表を通じて『もぎたて』のプレゼンスを高めたり、当社の研究開発力をアピールするという狙いもありますが、競合各社と学会の場で切磋琢磨することで、チューハイ分野の技術開発を活性化したいという意図もあります」
よどみなく語る瀬川の表情からは、仕事に対する「貪欲な姿勢」が伝わってくる。

注*RTDは「Ready To Drink」の略。缶チューハイや缶カクテルなど蓋を開けてすぐに飲める飲料。

「スーパードライ」に並ぶようなビッグブランドを作りたい!

瀬川には、就職活動の際に印象的な思い出がある。
「研究所のメンバーの方たちとお酒を飲みながら語り合う会が催されたのですが、その席で、入社2~3年目ぐらいの社員と研究所長が、とても親しく話していたんです。社員同士の距離が近く、自然と意見を言える雰囲気を感じました」
この印象は、入社後も変わっていない。
「働く環境には本当に恵まれています。若手でもやりたいことや自分の考えを提案できるし、やる気さえあれば挑戦を受け入れてもらえる土壌も整っています。さまざまなブランドや商品を担当できるのも、今いる部署の特徴だと思います」
最後に、今後の目標について質問をした。
「チャレンジできる部署にいるからこそ、アサヒにしか作れないような『圧倒的にうまいチューハイ』を世に出すための技術を開発したいです。そして、ビール分野での『アサヒスーパードライ』に比肩するような、チューハイ分野ナンバー1のビッグブランドを作りたいと考えています」
入社4年目の社員が語る言葉としては、いささか大風呂敷に聞こえるかもしれない。しかし、瀬川の口調からは、驕(おご)りや衒(てら)いは一切感じられない。それは、これまでの仕事を通じて、揺らぐことのない「軸」をつくってきた者だけが持つ説得力なのだろう。
(2018年1月23日取材)