挑戦する研究者たち挑戦する研究者たち

世界のママ・パパがポジティブな気持ちで与えられる
ベビーフードを開発したい!

image開発

アサヒグループ食品株式会社
研究開発本部 商品開発三部
今野 円

大学院時代、応用生物科学を専攻、酪農食品化学研究室で「牛の初乳が、人間の体にどんな影響を与えるか」「牛乳由来の成分が、頭皮や毛髪にどんな影響を与えるか」などについて研究していた今野。就職活動では、乳業メーカーや食品メーカーを中心に企業研究を行っていた。ゼロから1を生み出す仕事をしたい……。その思いが、ベビーフード開発という仕事との出会いにつながった。和光堂からアサヒグループ食品へ。仕事のステージが変化する中、今野は、自身のキャリア形成に、大きな可能性を感じている。

和光堂の「フロンティアスピリット」に強く共感して

現在、アサヒグループ食品でベビーフードや幼児食の開発を手がける今野。就職活動では、乳業メーカーや食品メーカーを中心に企業研究を行っていたものの、本当に自分がやりたい仕事なのかどうか、確信が持てずにいたという。そんなとき、揺らいでいた今野の心を確固たるものにしたのが、和光堂(現アサヒグループ食品株式会社)との出会いだった。
「ホームページを詳しく見ていくうちに、育児用ミルクやベビーフードを日本で初めて開発・発売した会社だと知ったんです。そのフロンティアスピリットに魅力を感じました」
かねてから「ゼロから1を生み出す仕事をしてみたい」と考えてきた今野は、和光堂への入社を決意する。
2012年4月に入社、6か月間の期限つきで配属されたのは、粉ミルクの開発チームだった。
「和光堂の粉ミルクは、育児用ミルク『はいはい』、フォローアップミルク『ぐんぐん』、そして、大豆たんぱくを使用した『ボンラクト』の3アイテムです。最初は、この3商品だけで15名もスタッフがいることが不思議でした。果たして私の仕事はあるのだろうかと不安になりました」

最初に担当した仕事は、育児用ミルクの成分分析だった。大学院時代に身につけた分析技術を活かして日々の仕事に取り組む中で、今野は、この部署に15名ものスタッフが従事している理由を知ることとなる。
「育児用ミルクの成分は、赤ちゃんの健康に直結するため、法令で厳格に定められています。メーカーがあらかじめ登録した成分を変更する場合には、その都度、届出を行う必要があるのです」
育児用ミルクは、栄養設計の改良(リニューアル)に伴う原料変更だけでなく、既存の原材料メーカーをやむなく変更することもある。そのような場合、一つの原料変更が味や成分にどんな影響を及ぼすのか、などについても事前に分析し、検証しなければならないのだ。
「こうした地道な分析の積み重ねによって、安全で高い品質が担保されているのだということに初めて気づいたんです。新入社員の時期に、その大切な作業に携わったことで、和光堂のブランドステートメントにある“ずっと、赤ちゃん品質”の真髄を知ることができました」

とにかく「品質」最優先! ベビーフードの開発

粉ミルク開発の半年間を経て、9月に本配属となったのは、ベビーフードの商品開発セクションだった。
「袋を開ければすぐに食べられるレトルトタイプのベビーフード『グーグーキッチン』シリーズの商品開発を担当しました」
この商品は、7か月、9か月、12か月など、赤ちゃんの月齢に合わせた具材の固さと大きさ、そして食べやすい食感にこだわった商品で、現在、約80種類の商品ラインアップがある。そのうち10種類ほどを一度にリニューアルするプロジェクトだった。
担当したアイテムは「鮭の豆乳リゾット」。先輩のアドバイスを受けながら何とか試作品を完成させ、評価を仰ぐ。
「先輩からは『これでは何を食べているのかがわからない』と指摘を受けました。強調したいのは鮭なのか、豆乳なのか、それともリゾットなのか……。まず“軸になる味”を決めなさいと。入社当初は、塩辛いものが好きで繊細な味がわからなかった私ですが、ベビーフードの開発業務を通じて、微妙な味の違いを感じながら、強調させたい味を再現しつつ、栄養のバランスを損なわない試作品を作れるようになりました」


もちろんベビーフードの分野においても、和光堂の「ずっと、赤ちゃん品質」は息づいている。
例えば粉末食品の一般生菌数。一般生菌数とは、食品の微生物汚染の程度を示す最も代表的な指標のことをいう。
「一般の粉末食品では、1グラム当たり1万~10万個程度が標準値ですが、赤ちゃん品質ではさらに厳しい5000個以下が求められます。 加熱殺菌によって微生物を死滅させることはできますが、高温・長時間の殺菌を行えば、素材の風味は失われてしまいます。このため和光堂では、原材料を選定する段階から、いかに衛生度がより高く、安全・良質なものを使用するかに心を砕いているんです」
取材中、開発スタッフが味の評価を行っている場面を写真撮影していると、今野が「ぜひ、皆さんも食べてみてください」と試食を勧めてくれた。メニューは、12か月頃からの赤ちゃん向け「筑前煮」だという。
とろりとしたその“食品”をスプーンで口に運ぶまでの間、正直言って期待感はなかった。薄味で味気ない根菜スープ、そんなものをイメージしていた。ところが、舌の上に広がった豊かな滋味は、想像をはるかに超えるおいしさだった。鶏肉、かつお、昆布のだしがしっかりとした旨味を感じさせる。そして、にんじん、ごぼう、大根など素材の繊細な風味も生きている。食感こそ異なるものの、味はまさしく「筑前煮」そのものだ。
「おいしいでしょう?」と今野が微笑む。どうやら私たちの表情は、彼女の期待通りだったようだ。
「実際に商品を購入してくれるママ・パパ、そして赤ちゃんにも豊かな旨味を感じてもらうために、特に、だしのおいしさにはこだわっています。ぜひ他社のベビーフードと食べ比べてみてください」。そう語る今野の表情は、自信に満ちていた。

質とおいしさに絶対的な自信があるからこそ、「もっと多くのママ・パパたちに、和光堂の商品を活用してほしい」という思いは強い。
「ベビーフードは、社会で働くお母さんが増えるにしたがって、広く世間に浸透してきました。ところが、今でも、わが子にベビーフードを与えることに“うしろめたさ”を感じ、『手づくり離乳食の代わりに“仕方なく”食べさせるもの』と考える方も少なくありません。とても残念なことです。ベビーフードを活用すれば、お子さんと過ごす時間が増えますし、何より和光堂のベビーフードは、素材の味を活かした味付け、厳選した食材、徹底した衛生管理をしているため、手作り離乳食のようにママやパパがポジティブな気持ちで与えることができると思います。『ウチは和光堂のベビーフードなの』と自慢してもらえる、そんな商品を開発していきたいですね」

国内ベビーフード開発業務のスペシャリストを目指す!

入社以来、商品開発分野に携わってきた今野が「最大のチャレンジだった」と語るのが、中国市場向けベビーフード商品の開発だ。2015年、和光堂は現地企業と合弁会社を設立し、中国市場の開拓に乗り出した。今野は、その新商品開発スタッフの1人に選ばれたのだ。
「慣れない中国語に四苦八苦しながら現地の法令を熟読し、1年未満というタイトなスケジュールの中で10種類の商品を開発しました。この経験は、大きな自信につながりました」
その一方で、自らの力不足を痛感させられる場面もあった。
「文化や背景の違いから生じるコミュニケーションギャップです。例えば、レトルト食品は保存料を使用していないのですが、法令では『保存料不使用』と表示することはできません。ところが中国側のスタッフは、『賞味期間が1年半もあるのに、保存料を使っていないはずがない』と、まったく信じてもらえなかったのです」
どうやら、中国ではレトルトパウチ入りのベビーフードが一般的でないため、理解してもらえなかったらしい。今野は、当時の思いをこう語る。
「私がレトルト加工の技術的特徴や、日中の法令の相違点などについて、きちんと熟知したうえで説明できていれば、納得してもらえたと思うんです。ベビーフード開発業務についての私の経験・知識が未熟だったということ……。そう考えると、今でも悔しくてたまりません」
結局、このときの中国進出は叶わなかった。

2015年、新たな価値を創造し続けるアサヒグループは、食品事業の再編を進め、和光堂を含む3社を統合させ、アサヒグループ食品株式会社を設立。今野はこの変化に、大きな可能性を感じている。
「アサヒグループ食品は、ベビー向け商品の開発で培ってきたノウハウを活かして、高齢者向けの食品や口腔ケア商品を展開するなど、まさに“老若男女のための商品”をカバーできる点がすごいと思います。アサヒグループは大きなブランドです。それだけに事業範囲も幅広いため、社員一人ひとりが個性や能力を発揮できる場が必ずある企業だと感じます」
ゼロから1を生み出す仕事をしてみたい……。今野が和光堂に感じた「フロンティアスピリット」は、アサヒグループ食品にも脈々と息づいている。最後に、今後の目標を聞くと、今野は晴れやかな顔でこう答えた。
「いつかは中国進出のリベンジを果たしたい。その力を蓄えるために、国内ベビーフード開発業務のスペシャリストを目指します!」
(2018年5月11日取材)