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研究レポート

Report43

りんごポリフェノールと膝軟骨との意外な関連
−変形性膝関節症に対して効果を示す可能性−

「一日一個のりんごは医者を遠ざける」、と聞いたことはありませんか?民間療法でも健康機能が謳われるりんごには、食物繊維やビタミンの他に、「ポリフェノール」が含まれています。
 アサヒグループでは、りんごに含まれるポリフェノールに着目して、長年研究に取り組んできました。今回は最新の研究成果として、「変形性膝関節症」への効果について、ご紹介します。

りんごの機能性研究のはじまりと今

アサヒグループのニッカウヰスキー(株)は北海道・余市での創業時、ウイスキーの仕込みや熟成に時間がかかり、出荷に数年を要するため、その期間に地元のりんごを用いてりんごジュースを製造していました。このようにりんごを使用した製品を開発する中で、りんごの「未熟果」にポリフェノールが多く含まれることを発見しました。

りんごはひとつの果叢(かそう)に4〜5個程度の実がなりますが、養分が分散してしまうのを防ぐため、小さいうちに果叢にひとつだけ残し、間引き(摘果)をします。摘果時期の果実は「未熟果」といい、果実のみずみずしさを守るためのポリフェノールが高濃度に凝縮されています。ポリフェノールの濃度は、通常私たちが食べている果実の約10倍も含まれています。

図1 りんごの未熟果

アサヒグループでは、間引いて捨てられてしまう未熟果から、ポリフェノールを抽出して「りんごポリフェノール」とし、長年機能性研究に取り組んできました。食品由来の素材でありながら、すでに抗酸化、抗アレルギー、肥満抑制、美白、抗腫瘍など様々な効果が報告されており、メカニズムの解明に関しても、研究が進んでいます。

近年の研究では、りんごポリフェノールが生理活性を発揮するメカニズムとして、「ミトコンドリア*注」が関与していることが示唆されています。りんごポリフェノールとミトコンドリアの関連について検証をすすめる中で、ミトコンドリアの機能低下を介して発症する疾患に対して、りんごポリフェノールが効果を発揮するのではないか、という仮説にたどり着きました。今回、その一例として最新の研究成果である、「変形性膝関節症」に対する効果について紹介していきます。

*注)ミトコンドリア
ミトコンドリアは、大部分の真核生物に存在する細胞小器官です。生物の活動に必要なエネルギーを産出しており、その他にも細胞周期や代謝にも関与する、非常に重要な細胞小器官です。

生活の質を低下させる変形性膝関節症

変形性膝関節症とは、膝関節の腫れや痛みを伴い、歩行が困難になるなど、生活の質を著しく低下させる運動器疾患です。関節においてクッションの役割を担う「軟骨」が擦り減ることが主な原因であり、骨への負担が増加することで症状が悪化します。未受診者を含め、現在国内には40歳以上の患者が2,500万人いると推定されており、加齢とともに多くの人が罹患する可能性があるため、治療法の確立が望まれています。しかし主な治療は外科的な処置となっており、服用による非侵襲的な治療は補助的なものに留まっています。

一方、近年の研究により、膝関節の軟骨を構成する「軟骨細胞」でのミトコンドリアの機能低下が、変形性膝関節症の発症と悪化に関連していることが見出され、ミトコンドリアを介した非侵襲的な治療法の確立が期待されています。

新しい治療法を探索する中で、ミトコンドリアを介して作用すると考えられている、りんごポリフェノールが候補素材にあがり、研究が始まりました。

図2 変形性膝関節症の発症と悪化

ミトコンドリアの新生促進と活性化作用の検証

■正常軟骨細胞への効果

まず正常な軟骨細胞に対して、りんごポリフェノールがどのような効果をもたらすか、調べることにしました。初代培養の軟骨細胞を用いて、りんごポリフェノールがミトコンドリアに与える影響を検証したところ、りんごポリフェノールを添加した軟骨細胞では、ミトコンドリアDNA量(図3左)ならびに、ミトコンドリア転写調節因子が増加し、ミトコンドリアの活性も向上することが明らかになりました(図3右)。これにより、りんごポリフェノールはミトコンドリアの新生を促進する可能性が示唆されました。

図3 りんごポリフェノールの正常軟骨細胞への効果
(左:ミトコンドリアDNA量の増加、右:ミトコンドリア活性の向上)

■ミトコンドリア機能欠損軟骨細胞への効果

変形性膝関節症では、軟骨細胞においてミトコンドリアに局在する活性酸素除去酵素である、Superoxide dismutase2 (SOD2)が減少することが先行研究により明らかになっています。SOD2の減少により、ミトコンドリアは酸化ストレスが過剰な状態となり、それにより膝関節の「軟骨変性」が誘導されると考えられています。

そこで今回、Sod2を遺伝的に欠損(ノックアウト:KO)させた軟骨細胞を用いて、りんごポリフェノールの効果を検証しました。その結果、りんごポリフェノールを添加したSod2KO軟骨細胞では、正常軟骨細胞と同様にミトコンドリアDNA量(図4左)ならびに、ミトコンドリア転写調節因子の増加、ミトコンドリアの活性向上が確認されました(図4右)。これにより、りんごポリフェノールは変形性膝関節症の細胞のように、ミトコンドリアに障害のある軟骨細胞においても、ミトコンドリアを活性化する可能性が示唆されました。

図4 りんごポリフェノールのミトコンドリア機能欠損軟骨細胞への効果
(左:ミトコンドリアDNA量の増加、右:ミトコンドリア活性の向上)

軟骨成分の産生促進作用の検証

軟骨組織に存在する「プロテオグリカン」は、高い保水力があり、クッションのような役割を果たすことで、機械的な負荷から関節を保護する働きがあります。プロテオグリカンは軟骨細胞から産生・分泌されますが、変形性膝関節症ではこのプロテオグリカンの産生が低下することが、先行研究により明らかになっています。

そこで、正常な軟骨細胞を用いて、りんごポリフェノールがプロテオグリカンの産生に与える影響について検証しました。その結果、りんごポリフェノールの添加により、プロテオグリカン合成遺伝子の発現上昇、ならびにプロテオグリカン量の増加(図5)を確認しました。

図5 りんごポリフェノールのプロテオグリカン産生促進効果

動物での膝関節軟骨変性の抑制作用の検証

これまでは細胞を用いた試験でりんごポリフェノールの効能評価をしていましたが、加えて変形性膝関節症のモデルマウスを用いて、その効果を検証しました。

軟骨細胞のみでSOD2をKOし、ミトコンドリア機能不全を起こしたマウスに対し、さらに靭帯切除術により変形性膝関節症を誘導し、変形性膝関節症のモデルマウスとしました。そのマウスにりんごプロシアニジン(りんごポリフェノールをさらに精製した成分)を、1日500mg/kg、8週間経口摂取させた結果、膝関節の軟骨変性が組織学上有意に抑制されました(図6)。

図6 りんごポリフェノールの膝関節の軟骨変性抑制効果

これまでの研究により、りんごポリフェノールは軟骨細胞においてミトコンドリア新生促進、プロテオグリカン産生促進、さらに変形性膝関節症への保護効果もあることが示唆されました。このことから、りんごポリフェノールは変形性関節症の非侵襲的な治療分野の、有望な食品素材になりうると考えています。

まとめ
医療が発達し平均寿命が延長する中で、健康に自立して生活できる期間である「健康寿命」を伸ばすことへの関心が高まっています。そのためには様々な疾患に罹患しないよう、自身で身体を健康に保つことが欠かせません。
 変形性関節症も、生活の質を大きく低下させる原因となるため、悪化させないための対策が重要となります。今回ご紹介したりんごポリフェノールの研究成果は、変形性関節症に対する非侵襲的治療の研究が、さらに推進していくきっかけになると考えています。
 アサヒグループでは、今後もお客様の身体のセルフケアに貢献する商品の開発を目指し、研究を続けて参ります。
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