東日本大震災で被災した宮城県東松島市の復興を支援する「希望の大麦プロジェクト」。被災した土地を活用して大麦の栽培や加工販売を行うことで、地元に「なりわい」と「にぎわい」を生み出したい。そんな想いのもと、「産・官・学・民」が連携して、地域の産業づくりに取り組んでいます。
東北の復興に、アサヒグループとして貢献できる道筋を模索
2011年、日本の東北地方を直撃した東日本大震災。アサヒグループは、東北の復興を長期にわたって支援する方法を模索していました。その答えを現地に求めるため、復興庁を通じて社員を宮城県東松島市に派遣。地元の皆様と本音の対話を重ねる中で聞こえてきたのが、「津波に襲われ、不毛になった土地をよみがえらせたい」という声でした。
被災した土地をいかに再生するか? 話し合いの末、導き出されたのが「大麦を栽培して、加工商品を販売する」というアイデアです。アサヒグループはビールや飲料の原料となる大麦については、右に出る者がいないほど数多くのノウハウを持っています。この強みを活かして被災土地に大麦を実らせ、地元の食材として盛り上げることで、失われた人々の営みや人と人とのつながりを取り戻せたら――。「希望の大麦プロジェクト」は、そんな想いを胸にスタートしました。
大麦の試験栽培を経て、地元の皆様とともにオリジナル商品を開発
手始めにアサヒグループが取り組んだのが、関係者の自宅の庭を借りて行った大麦の試験栽培です。これまで、東北の気候はビール大麦の栽培に不向きとされていました。しかし、品種の選定や栽培工程の工夫など試行錯誤の甲斐あって、庭にまいた30種類の種は無事生長。翌年からは被災土地での本格栽培へとシフトし、年を追うごとに面積を広げながら収穫量を増やしていきました。
その一方で、大麦の商品化に向けても奔走しました。大麦はそのままでは食べることができないため、何かしらの加工が必要です。地道な交渉が実り、まずは洋菓子メーカーとのコラボレーションが実現。続いて、地元の地ビール製造所と協力して、クラフトビール『GRAND HOPE』を世に送り出しました。アサヒグループ内でも、多くの社員が知恵を出し合って、商品開発のアイデアを検討。毎年「希望の大麦」を使った地域限定商品を発売するなど、商品ラインナップは今も増え続けています。
自立した地域の産業として、持続可能な仕組みづくりを
大麦の収穫量が150トンを超え、商品化が軌道に乗り始め、プロジェクトは新たなステージを迎えています。これまでは、「一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE)」とアサヒグループが一緒に旗振り役を務めていましたが、これからは地域の皆様が主体となって進める段階。東松島市に尽きることのない「なりわい」と「にぎわい」を生み出すことができるよう、地域に根差したプロジェクトとしてHOPEの主導で進めていきます。
そしてアサヒグループも、震災から10年の節目を迎えて、さらなる価値創造と復興のためのものづくりを始めています。ニッカウヰスキー(株)宮城峡蒸溜所では、地域産業復活の希望を象徴する存在として、「希望の大麦」を使ったウイスキー原酒の製造を開始。そのほか、「希望の大麦」を活用した中長期的なものづくりも計画。地域とともに歩み続けるための土台を固めています。
地元の皆様と膝を突き合わせ、「復興のために何ができるか」を考えるところから始めた「希望の大麦プロジェクト」は、人が人を呼び、想いと想いが共鳴して、行政機関・大学・市民の皆様を巻き込む大きなうねりへと発展しました。失われたかつての「なりわい」と「にぎわい」を、いつの日かこの地に取り戻すために。地域と生産者など、ここで生まれた数えきれないほどの「つながり」が、東松島市の未来を創る力になります。