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ステークホルダー・ダイアログ2017

環境中長期目標の策定に向けて

アサヒグループではこれまで、持続的な社会の実現に貢献するための取り組みを進めてきました。今回、新たな環境中長期目標を策定するにあたり、目指すべき方向性を確認するため、有識者2名をお迎えしてのダイアログを実施。環境問題や企業の社会的責任に関する世界的な動向を踏まえつつ、ステークホルダーからの将来的な要請について、そして「アサヒらしい」CSR活動の在り方について示唆をいただきました。
(2017年5月実施)

参加者

有識者(順不同)

(株)レスポンスアビリティ
代表取締役 足立 直樹氏

WWFジャパン
気候変動・エネルギーGプロジェクトリーダー
池原 庸介氏

アサヒグループホールディングス(株)

アサヒグループホールディングス(株)
専務取締役 兼 専務執行役員
生産、調達担当
橋 勝俊

アサヒグループホールディングス(株)
取締役 兼 執行役員
CSR、研究開発担当
加賀美 昇

アサヒグループホールディングス(株)
CSR部門 ゼネラルマネジャー
鈴木 敦子

話題提供 ──「脱炭素社会」の動きとESG投資

ダイアログに入る前に、2名の有識者それぞれの視点からサステナビリティに関する最新動向について話題提供をいただきました。
WWFジャパンの池原庸介氏からは、気候変動問題をめぐる世界的な潮流についてお話しいただきました。2015年12月、「21世紀後半までに人間の活動によるCO2排出を実質的にゼロに」と謳うなど、低炭素から脱炭素社会に大きく舵を切るパリ協定が成立しました。化石燃料を消費する事業への投資引き上げが急増、一方で再生可能エネルギーの価格が急速に下がるなど、今後は「脱炭素」があらゆる経済活動のベースになっていくだろうとのご指摘をいただきました。

一方、(株)レスポンスアビリティの足立直樹氏からは、ESG投資の観点から、投資家がもっとも注目する「企業価値」についてお話をいただきました。エネルギーや資源を大量に消費する旧来のビジネスモデルはもはや持続不可能であり、自然を守り、社会との良好な関係を構築できるビジネスしか継続できないのが現状である。その中で、自分たちのビジネスは財務資本だけでなく自然資本、社会関係資本をいかにして増やしていくのか、というストーリーをステークホルダーに示すことの重要性について提言いただきました。
これらのお話を踏まえてのディスカッションとなりました。

今後、財務的価値と社会的価値は一体化する

加賀美 我々アサヒグループの中期経営方針においても、足立さんからご指摘のあった「企業価値の向上」を目指しています。その実現に向け、財務的価値と社会的価値の二つをともに向上させるために、戦略を立てて各事業会社でプランを実行しているところです。
社会的価値の向上に向けた取り組みとして、「アサヒの森」における森林保全や各工場におけるゼロエミッション活動などがありますが、それらを企業価値向上にもっと結びつけていきたいと思っています。そのために、社会的価値と財務的価値をつなぐ「線」を見える化することが必要だと感じています。

足立氏 おそらくは財務的価値も、これまでと同じやり方では上がらなくなってくるでしょう。つまり、環境負荷が高いなどの「持続不可能」なビジネスはお客様に受け入れられず、社会的価値を生み出す事業が尊重される。結果として、財務的価値と社会的価値とが次第に一体化してくるというのが、今見え始めている現象だと思います。

鈴木 企業価値を端的に示すのはやはり株価だというお話もありましたが、極端に言えば、今後はただ売上や利益を伸ばすだけでは株価も上がらないということでしょうか。

足立氏 利益が上がれば、もちろん財務的価値は上がります。しかし、持続不可能なビジネスモデルのままでは、例えば、生産を拡大しようと思っても材料が調達できない、生産してもお客様から選んでもらえないなど、ビジネスモデルそのものが行き詰まる可能性があります。そうすると結局は利益が上がらず、株価の向上にはつながらなくなってくると思います。

加賀美 我々が発行している統合報告書には、財務情報と非財務情報を開示しています。その二つが誰から見ても「つながっている」と分かるように、我々ももっと財務的価値と社会的価値のつながりを意識して情報発信していく、そして企業体としての価値創造のベクトルをつくっていく必要があると思います。

足立氏 おっしゃるとおり、統合報告書の中で一番重要なのはその「ストーリー」です。御社であれば、「世界の方々に今後もおいしい商品を提供していくために、原材料の生産現場や水をこういう形で守っています」という取り組みを示す必要があると思います。

「ビッグピクチャー」を描く重要性とは

 その点で、当社で問題なのは社内の意識だと思います。将来的に原材料が足りなくなるかもしれないとはいえ、コスト面を優先してしまいがちです。あまり長いスパンで経営を考えられていないともいえますが、そこを、たとえば10年のスパンで見られるかどうかだと思います。

足立氏 今はまだ、先進的な事例が注目されがちですが、ビジョンを持って恒常的な取り組みをしている企業がいずれは「ESG評価を向上させている」となると思います。おっしゃるように長期的な目線でしっかりと将来ありたい姿を描くようないわゆる「ビッグピクチャー」を描いて、常にそこに照らし合わせながら取り組みを続けていくことで、企業としての姿勢がぶれず、投資家からも評価されやすくなるのではないでしょうか。

池原氏 「ビッグピクチャー」を描くことは、ステークホルダーとのコミュニケーションにおいて大きな利点になります。一般の消費者にも発信が伝わりやすくなりますし、投資家に対する説明にも説得力が生まれる。
御社には、「アサヒスーパードライ」にグリーン電力マークをつける、「三ツ矢サイダー」に植物由来の容器を使うなどのよい取り組みがいくつもあります。ただ現状では、なぜアサヒグループがそれをやっているのかということがなかなか伝わりにくいと思うのです。

加賀美 それが「ビッグピクチャーを描く」ということですね。

池原氏 そのとおりです。そこでたとえば「アサヒグループは2050年までに脱炭素を目指す」といった明確な長期ビジョンを示し、個々の取り組みがそこにつながっていることが分かる、いわゆる「ビッグピクチャー」を意識しながら社内外に浸透させていけば、すべての取り組みの納得性が非常に高まるはずです。

加賀美 そのために今、環境中長期目標をつくろうとしているわけですが、目標を定めた後、その意識を保ちながら取り組みを継続していくことが非常に重要な点だと思います。

CO2排出量の「100%削減」はルール化していく

鈴木 さまざまな企業が「20xx年までに●%CO2排出量を100%削減する」といったビジョンを発表されています。しかし、自動車産業やエネルギー産業などは、排出量削減を目指すことでイノベーションが生まれ、それを新たに商品として売ることができますが、我々のような食品産業にはそうしたモチベーションがありません。環境負荷を減らすことで安全・安心な原材料が手に入りやすくなるということはありますが、どこか間接的です。

足立氏 今後、「100%削減」は業種を問わずルール化していくと私は考えています。気候変動枠組み条約でパリ協定に合意したことにより、世界は気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に収めることを目指すことになりました。このことは地球全体でCO2の排出量をほぼゼロにしないと達成できないといわれています。しかも、この「2度未満」というのも、果たしてそれで地球環境が保てるのかどうかは分からない、かなり甘く見積もった目標です。
そう考えると、何の産業であっても排出量をゼロにするというのは、全企業が守るべき「ルール」になっていくでしょう。御社はそもそもの環境負荷が比較的低く、バイオマスをたくさん使っているということで、ゼロ達成はそれほど難しいゴールではないと思いますし、むしろどんどん積極的に取り組まれるべきなのではないでしょうか。再生可能エネルギーへの切り替えが、環境負荷だけではなくコストを下げることにもつながるのは、池原さんからもお話があった通りです。
さらに考えるべきは、そこにどう付加価値を付けていくかでしょう。

 ただ、世界的には再生可能エネルギーの価格が下がっていく、というお話でしたが、日本では現在は割高で、なかなか広がっていません。そうした状況では、企業としては推進しにくい面もあります。

加賀美 現状よりも再生可能エネルギーにシフトしていくとなると、投資家に対する説明責任も生まれてきますね。

足立氏 世界的な環境先進企業でも、環境への大きな取り組みを立ち上げる際、「そんなことよりももっと配当金を出せ」という投資家はいたようです。ただ、経営者はそれに対して「自分たちは、これが本当に成功する道だと信じている。それが嫌なら株を売っていただいて構わない」と反論したという話もあります。
当初は環境へのコストに見えても、長期的に見ればそれが投資として利益に還元されることにもなるので、今後はおそらく、そうした長期的な視点をもった企業のほうが安心して投資できるという投資家が増えていくのではないかと思います。

池原氏 たしかに、政策の失敗もあって日本国内で太陽光発電の価格が下がってこなかったのは事実です。しかし、世界的に見れば間違いなく再生可能エネルギーのコストは下がってきている。そして、今多くの企業が掲げている、排出量80〜100%削減といった数字は、省エネだけでは絶対に無理で、エネルギー源そのものを脱炭素化していかないと達成できない数字です。
ですから近い将来、先進的な企業は間違いなくエネルギー供給事業者との対話を始めるでしょう。大企業が軒並み「再生エネルギーの供給をもっと増やしてくれ」と要望を出すようになれば、供給事業者も調達先を変えていくことになる。長期的なスパンで考えるべきだと思います。

「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という考え方

 もちろん私たちも、CO2削減や水資源の保護は絶対に取り組んでいかなくてはならないと考えています。我々の商品は「自然の恵み」から商品を製造しているため、少なからず地球を傷つけながら作られているわけですから、その「傷」を可能な限り少なく、できればゼロにしたいという思いは強くあります。
今日お話をお聞きしていて、やはりアサヒグループとしても「2050年までにCO2排出量ゼロ」を目指すべきだと思いました。

池原氏 それは非常に素晴らしいと思います。さらに、多くの人を巻き込んで協働しながら取り組みを進めていくために、環境ビジョンには数字だけではなく、例えば「各事業所があるエリアにおける再生可能エネルギーの普及に貢献できるような電力調達をしていく」といったポリシー的なこともぜひ盛り込んでいただきたいですね。
地域全体を巻き込んでいくことにもつながりますし、「アサヒグループが買ってくれるなら新たに太陽光発電に取り組んでみよう」といった事業者も出てくるかもしれない。そうした好循環を生むようなビジョンになるとなおよいと思います。御社はグリーン電力の購入についてはずっとリーディングカンパニーでおられますし、その御社が再生可能エネルギーを中長期的にどう活用していくかの方向性を示すことは、大きなポイントになるのではないかと思います。

足立氏 ビジョンを描くときにヒントになるかもしれないのは、「100年後に御社はどういう事業をしているのか」ということです。EUが提唱する「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という考え方がありますが、100年後の地球の状況を考えると、やはりこのサーキュラーエコノミーを実現していかざるを得ない。その中で、皆さんはどのように事業をしていくのか、どんな価値を世の中に提供して利益を得ていくのか。そして、生み出した利益をさらにどんなことへの投資に回していくのか。そう考えていくと、やらなければいけないことが見えてくるのではないかと思います。

鈴木 今後、環境中長期目標の策定を進めていくことになります。我々も企業価値向上に向けて、お二方のお話にあったように、ビッグピクチャーを描いてそこから逆算する、という考え方を取り入れてきたいと思います。お二方にはぜひこれで終わりではなく、引き続きご意見やアドバイスをいただければと思います。本日はありがとうございました。