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ステークホルダー・ダイアログ2019

サプライチェーンにおける人権リスクの低減に向けて

グローバルに事業を拡大しているアサヒグループでは、事業活動に関連する人権への影響に適切に対応していくため、サプライチェーンを含めた人権リスクマネジメントを実施したいと考えています。これに際し、有識者の方々との対話の場を設け、アサヒグループに必要な取り組みの進め方について示唆をいただきました。
(2019年12月実施)

参加者

有識者(順不同)

独立行政法人日本貿易振興機構
アジア経済研究所
新領域研究センター
法・制度研究グループ長
山田 美和氏

ロイドレジスタージャパン株式会社
取締役
冨田 秀実氏

アサヒグループホールディングス(株)

アサヒグループホールディングス(株)
常務取締役 兼 常務執行役員CFO
サステナビリティ担当
勝木 敦志

アサヒグループホールディングス(株)
取締役 兼 執行役員
調達担当
辺見 裕

アサヒグループホールディングス(株)
執行役員
調達部門 ゼネラルマネジャー
グローバル調達戦略推進センター長
ア田 薫

アサヒグループホールディングス(株)
サステナビリティ部門 ゼネラルマネジャー
近藤 佳代子

「リスクアプローチ」で取り組みを推進する重要性とは

勝木 我々アサヒグループは、欧州や豪州を中心に大規模なM&Aを実施するなど、積極的にグローバル化を推進しています。また、世界各地から原材料の調達を実施しています。そのため、事業活動を進めるに際しては、どこにどのようなリスクがあるかを把握することが必要であると考えています。「人権」に関しては特に重要であると認識しており、どこにどのような人権リスクがあるかを把握する「人権デューデリジェンス」をはじめ、人権関連の取り組みに一層注力しているのが現状です。
今後、内外のステークホルダーの皆さまから信頼いただけるような姿を早急に実現すべく、人権に関して引き続きスピード感をもって取り組むために、何に留意することが望ましいのでしょうか。

山田氏 人権に関する課題はサプライチェーン上に数多く存在します。そのため、取り組みを進める際は、どの原材料や地域に人権に対するリスクがあるかを初期に見定め、重要度が高いところから「リスクアプローチ」で取り組むことが必要です。また、事業環境は日々変化するものであるため、継続的にPDCAを回し、適切に情報開示を行っていくことも重要です。

冨田氏 海外企業のM&Aを成長のドライバーとしているアサヒグループの場合、グローバル視点でリスクが発生し得るということを改めてご認識いただきたいと考えています。
その際、事業が人権侵害の影響を受ける可能性のあるステークホルダーを見極めることも重要です。具体的には、「従業員」、「サプライチェーンで関わる地域社会の人々」、そして「消費者」や「顧客」等もスコープに入れた上で人権リスクを見極めるべきではないでしょうか。そのためには、社内においても、サステナビリティ部門や調達部門、人事部門のみならず、より多様な部署を巻き込み、グループ全体でリスクにコミットすることが必要であると思います。

勝木 当社の事業に関わる全てのステークホルダーをスコープに入れつつ、重要性の高いところから取り組みを推進・開示していくことがグローバル企業としての責任を果たすということであると理解しました。

労働環境の実態把握の必要性

辺見 これまでに多くの当社内の製造拠点訪問を実施してきた経験をふまえて申し上げると、職場の活性度は業績と連動するのではないかと思います。当社としては、どの拠点でも同じように前向き且つ高いパフォーマンスで働いていただける労働環境整備に、今後も継続的に尽力していきます。そのためには、実際に現場で作業に従事している方々にお話しをうかがい、本質的にどのような課題があるかをつかむ必要があると考えています。引き続き、現在実施している取り組みをベースにしつつ、PDCAサイクルをまわすようなマネジメントを実施する予定です。

山田氏 現場に活気があるということに加えて、自身の能力が評価され、且つ活かされている、と労働者自身が感じられることも重要です。実態をつかむために、数多くの現場訪問を実施されているということですが、今後は国籍や性別等の属性が異なる複数の担当者の方が同行する等、是非複数の視点が入るような現場訪問を実施すると良いのではないでしょうか。
一方、サプライヤーとのコミュニケーションに関しては、アサヒグループとして重視しているポイントが伝わるようご留意いただければと思います。そのためには、サプライヤー側が「なぜこのような取り組みがアサヒグループから要請されているのか」を考え、分からなければサプライヤーとアサヒグループの社員が共に考え対話を行うようにアプローチされてはいかがでしょうか。例えば、アンケートを使ってサプライヤーの取り組みを把握する場合、当該アンケートをエンゲージメントのツールとして使うなど、次の改善に繋がるようなアンケートの実施・活用が重要であると思います。

冨田氏 アンケート回答結果と現場の状況や監査結果に乖離があるケースは往々にして存在するため、最終的に現場を確認すべきではないでしょうか。質問票を作成するのであれば、辺見さんのような現場経験のある方々の知見を入れつつ、考え抜いて質問を設定することが必要です。
その他、重要なポイントは、サプライチェーンの人権における取り組みに関し、何のためにやっているかという目的を明らかにすることです。そういった「目的」の代表格として挙げられるのは、「ESG評価の向上」、「ビジネスリスクの低減」、「ビジネスと人権に関する指導原則が求めている本来の人権リスクの低減」の三点です。アサヒグループの場合は、すべてを意識されているかと思いますが、どこに注力するのか、何を目的にするかによってアプローチも変わってくるので、見極めが必要であると思います。

近藤 取り組み推進に際しては、「人権リスクの低減」等の目的を明確化し、それが社外にも伝わるよう、引き続き情報開示にも注力できればと考えています。また、調達担当者のような、現場に関する知見を持つ者が関与することについての重要性についてもご指摘いただいたと理解しました。

ア田 先日、原材料を生産する農園を訪問する機会がありましたが、やはり行ってみないと分からないところもあると率直に感じました。
「人権」というと、農園・工場等で働いている人の権利というイメージを持っていましたが、「地域住民」にも影響があるテーマであると認識しています。そういった意味で、人権リスクのモニタリングは多層的に進めていく必要があると考えています。
現在、サプライヤーの方々とのコミュニケーションの一環で、年次方針説明会を実施していますが、今後は多面的に本質を伝えるということについても意識していきたいと思います。

冨田氏 サプライヤーのリスクをあぶり出すのか、それとも教育効果を狙うのか、どちらを目的とするかによって、サプライヤーとのコミュニケーションのアプローチが変わるという側面もあります。いずれにせよ、サプライヤーの経営者と定期的にコミュニケーションをとることは、サプライヤー側の考え方を把握するという意味で、リスクマネジメント上非常に重要であると思います。

辺見 リスクマネジメントという観点では、雇用の流動性に伴う対応にも注意したいと考えています。特に海外は、雇用の流動性が相対的に高いので、サプライヤー側のマネジャーや経営者が変わり、繋がりが無くなるということが往々にして発生します。そのため、いつ人権リスクの対応状況について社外から聞かれた時も対応できるように、変化にキャッチアップしておかなければならないと考えています。

山田氏 「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンスガイダンス」では、自社にとってのキープレイヤーからリスクを把握していくことが推奨されています。そういった意味で「人が入れ替わった」ということを把握した時点で、そのプレーヤーに関連するリスクを重点的にモニタリングすべきではないでしょうか。

多国籍企業の社会的責任を求める指針である「OECD多国籍企業行動指針」を実施する実践的ガイダンスとして2018年5月に策定されたもの。「OECD多国籍企業行動指針」で勧告されているデュー・ディリジェンスの実施方法について、実務的かつ明解な解説を示し、企業を支援するものである。(出典:OECDホームページ)

近藤 皆さまのご意見をうかがい、実際に訪問・インタビュー等でサプライチェーンも含めた労働環境の実態をこまめに把握することや、そのための体制・仕組みづくりの必要性を、改めて認識いたしました。

アサヒグループへの今後の期待

近藤 サプライチェーンの人権リスクマネジメントを推進していく際、当社に期待することがあれば、是非お聞かせください。

冨田氏 現代奴隷リスク分析で明らかになった高リスクの主要原材料を栽培する農園にきちんとアプローチすることではないでしょうか。製造工程(一次・二次サプライヤー)と主要原材料調達品目に起因するリスク、サプライヤーのリスクは全く異なるので、整理してアプローチしていくことを検討すべきであると思います。

山田氏 主要原材料調達品目に固有の人権に対するリスクに関しては、例えばカカオの産地であるガーナやコートジボワールにおける児童労働等、共通の構造的なリスクが産地ごとに慢性的に存在しています。そういった状況をふまえると、同じ主要原材料調達品目を扱う同業他社と、企業間の連携でリスクを特定する等の取り組みを行い、相手国政府や地域社会へ対応していくと良いのではないでしょうか。

近藤 問題が非常に大きく、地域的な広がりも大きいだけに、個社で対応するのではなく、是非企業間での連携という道を探るべき、ということですね。その他、現在進めている救済メカニズムの構築についても、留意点があればご教示いただけないでしょうか。

山田氏 「ビジネスと人権に関する指導原則」では、救済メカニズムについて、(1)正当性があること、(2)アクセス可能であること、(3)申し立て後の手続プロセスが予測可能であること(特に企業側からどの程度の期間で回答が出されるか等)、(4)公平な手続であること、(5)透明性が確保されていること、そしてエンゲージメントと対話に基づくことが要請されています。アサヒグループが仕組みを構築する際に、これらの点に基づいて構築したとステークホルダーに説明できる中身を作りこむことが求められています。

冨田氏 山田さんのおっしゃる通り、指導原則に則り、窓口の明確化、受付プロセスの整備、透明性の向上が必要であると考えます。一方で、完璧なソリューションが無いということにも留意しておくべきでしょう。素晴らしい窓口を設置していたとしても、当該サプライヤーの原材料がアサヒグループの製品に使われていると認識されていなければ、窓口へたどり着くことは不可能であるためです。そういった意味で救済メカニズムの仕組みづくりは難しい課題ですが、引き続き取り組みを進めていただきたいと思います。

近藤 ありがとうございます。引き続き、社会から要請されている在り方を念頭に置きつつ、救済メカニズムの構築の取り組みを進めていきたいと考えています。

山田氏 アサヒグループの取り組みとして、グローバルな企業価値の創造に際し、「ネガティブインパクトの排除」と「ポジティブインパクトの拡大」と整理している部分が分かりやすく、こういった考え方は重要であると考えています。ポジティブインパクトの中には雇用創出・スキルアップ等が含まれているため、アサヒグループは既にポジティブインパクトを社会に与えていると言って良いでしょう。しかしながら、人権に関連するネガティブインパクトがあると、企業価値は落ちてしまうので、非常に難しい分野であると思います。

冨田氏 人権リスクマネジメントは「ネガティブインパクトの排除」の側面が強いと思いますが、生産性向上に繋がる等ポジティブな部分にも目を向けながら取り組んでいただきたいと思います。
また、人権のみならず、環境等の側面も含めて「責任ある企業」を目指し、是非スピード感をもって取り組んで頂きたいと考えています。

山田氏 その他、これまで人権を含めたサプライチェーン管理の取り組みを推進してきた企業の方々によると、人的リソースが一定程度必要であるというお話しもお聞きしたことがあります。アサヒグループの場合、既にトップコミットメントがあるため、心配には及ばないと思いますが、人権は全社横断的な課題且つ主要原材料調達品目や地域も多岐にわたるという状況を踏まえると、予算、スキル、人的リソースが更に必要になるかも知れません。

勝木 本日議論させていただいた「人権」に関連する領域は、今や事業戦略や企業価値に直結するものになっており、一度対応を誤ると企業価値の毀損にもつながると考えています。お二方のアドバイスをもとに、引き続きグループ全体で取り組みを推進するとともに、何のために実施するかを今後も強く意識していくことができればと考えています。本日はありがとうございました。