インパクトの可視化
アサヒグループは、サステナビリティと経営の統合の実現に向けて、サステナビリティ活動によって創出される事業・社会インパクトをプラスとニュートラルの側面で定量的に可視化する取り組みを進めています。この取り組みにより、経営管理できる重要な指標を特定し、その指標を施策の優先順位の決定や投資判断、進捗管理に組み込むことで、事業の持続的な成長を実現し、社会へのプラスのインパクトをさらに創出できると考えています。また、インパクトを定量的に示すことで、より高度化した情報開示につながり、すべてのステークホルダーとのエンゲージメントを高めることにもつながると考えています。
取り組み概要
アサヒグループは、インパクトの可視化の取り組みを今後グループ内で展開することを企図し、以下のように段階的な取り組み概要を独自に策定しました。
最初にこの取り組みの土台となる①価値関連図の作成・仮説検証を行い、全体像を把握します。次 に、②サステナビリティ活動による事業インパクトの可視化と社会インパクトの可視化に取りかかりま す。さらに、その可視化したインパクトがどのように企業価値向上につながっているかを証明するステッ プの③インパクトがもたらす企業価値向上への効果の可視化(証明)に取り組みます。これによって、 当社グループ(企業)がそのサステナビリティ活動になぜ取り組むか、取り組む意義を可視化します。 最後に、①~③の取り組みによって導き出された経営管理に活用できる重要な指標を特定(④インパ クトの指標化)し、グループ目標やKPIの設定、さらにアクションにつなげていきます。
2024年の取り組み
2024年は、引き続き、①価値関連図の作成・仮説検証を行い、②の事業インパクトの可視化では、当社グループ独自のロジック作成に取り組み、また、社会インパクトの可視化では、今後の可視化フロー構築を目指し、分析事例案件の拡大を進めました。③の取り組みでは、インパクトによる間接的な効果(レピュテーション効果)をステークホルダーごとに証明する分析に挑戦しました。なお、対象エリアは引き続き、日本のみとしました。
また、2024年は、今までの私たちの取り組みの方向や現在地の確認のため、自社だけでなく、多くの社外の方々とも情報や意見交換の場を持ち、新たな気づきも得ることができました。
価値関連図の作成・仮説検証
取り組み内容
2024年版の価値関連図は、2023年版の構成を引き継ぎ、サステナビリティ活動から企業価値向上への道筋を「直接的な価値の道筋」と「間接的な価値の道筋」を設けて作成しました。「直接的な価値の道筋」は、サステナビリティ活動そのものによる、売上収益やコストといった直接的な収益効果の影響要素の道筋です。一方、「間接的な価値の道筋」は、レピュテーション効果の道筋を示しています。サステナビリティ活動によって創出されたインパクトを社内外に対してコミュニケーションすることで各ステークホルダーとのエンゲージメントが向上し、それが間接的に企業価値向上につながります。コミュニケーションを介するため、間接的と名付けました。また、企業価値向上への影響だけでなく、社会の変容への影響の道筋も示しています。
プロセス
まず、対象テーマにおいて価値関連図を仮説作成し、次に価値関連図上に示した全ての価値を測定する財務・非財務の指標を設定し、分析・検証に必要なデータ収集を行います。続く分析・検証工程では、価値関連図上に示した、隣接する全ての価値同士の相関関係を遅延浸透効果を加味した単回帰分析で検証する価値関連性分析の手法や、部分的に俯瞰型分析を用いて検証を実施します。最後にこの定量分析結果が、定性的にも相関関係があると言えるかという点で再度、確認も行います。
分析・検証の結果としては、一連の価値連鎖を実証できた活動もありましたが、非財務指標を設定した多くの道筋においては、相関関係は実証できませんでした。適格な指標設定やデータ取得ができないという課題は引き続き残りました。その中で、今後の取り組みに向けて、ステークホルダーとのエンゲージメントや社会変容などのデータ取得のために独自で調査設計や実査を開始しています。
社会インパクトの可視化
アサヒグループはインパクト加重会計の手法を活用して、社会インパクトの可視化に取り組んでいます。この手法では、「環境インパクト」「製品インパクト」「従業員インパクト」の3つの側面から社会インパクトを捉え、それぞれの側面でプラスとマイナスの価値を金銭価値に換算し、合算することで、総合的な社会インパクトの可視化が可能となります。2024年は、「持続可能な農産業」をテーマに社会インパクトの可視化に取り組みました。「価値関連図」上で示すと下記のような範囲の取り組みになります。
取り組み内容
2024年は、2023年に引き続き、アサヒバイオサイクル(株)の商品である「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」を対象に「持続可能な米生産」の活動を「製品インパクト会計」のフレームワークを用いて、算出しました。算出対象は「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」を活用することで実現可能な米の節水型乾田直播栽培による効果を測定するために、GHG排出削減量、農産物収穫量、米作りにかかるコストの3つに特定。比較対象は従来の水稲栽培としています。そして、算出方法の設定や算出式を確立し、試算しました。
算出内容
調査対象農産物のサンプルデータは、それぞれ1試験農場のチャンピオンデータを用いて試算しました。各々の試験農場からGHG排出量、収穫量、コストの増減データを取得し、「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」の販売量による効果金額の可視化を行いました。
結果としては、GHG排出量については、従来の水稲栽培と比較して、農産物当たりのライフサイクルGHG排出量の約65%の削減効果が見られました。収穫量については同等、コストについては、農作業にかかる工数が削減できる効果が見込まれると仮説を立てていましたが、信頼性のあるデータが取得できなかったため、今回は対象外としました。以上のことから今回の算出対象をGHG排出削減量とし、1試験農場で使用した「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」による社会インパクトは、約291万円、農産物(米)1t当たり換算では、約1.8万円の結果となりました。また、この結果を前提に従来の水稲栽培に使用したとされる2024年の本商品の販売量の全てを節水型乾田直播栽培に使用したと仮定した場合、拡大推計によって試算した社会インパクトは、約1.33億円となりました。
コストなど算出対象範囲の拡大は今後の課題です。節水型乾田直播栽培は文字通り、水使用量の削減効果も見込まれますが、当初より信頼性のあるデータ取得が困難であることが明らかであったため、こちらも対象外としました。持続可能な米生産の活動は、まだ初期段階であり、大きな目的を持って今後も継続されます。その効果を定量化することは、さらなる活動の推進をもたらし、社会インパクトの創出につながると信じています。
2024年にトライした取り組み
企業価値向上への効果の可視化
アサヒグループは、価値関連図が示す「間接的な価値の道筋」にあるサステナビリティ活動によって創出したインパクトがレピュテーション効果としてどのように企業価値向上につながるか、消費者と投資家の道筋について仮説を立て、検証にトライしました。
消費者の道筋ついては、インパクトを創出したサステナビリティ活動をコミュニケーション(PR活動)することで消費者とのエンゲージメント(コーポレートブランド価値)が向上し、そして、それが最終的に当社グループの商品全体の販売にプラスの影響を与えると仮説を立て、その影響度を検証しました。具体的には日本を対象に消費者調査を実施し、そのデータをもとに分析を実施しましたが、残念ながら信頼性の高い分析結果は得られず、仮説の証明には至りませんでした。
投資家の道筋については、インパクトを創出したサステナビリティ活動をコミュニケーション(IR活動)することで、投資家とのエンゲージメントが向上し、それが、最終的に投資活動にプラスの影響を与えると仮説を立て、検証を進めました。まずは、投資家側の見解を理解することを目的として、運用機関会社との対話から開始。そして、小規模でしたが、投資家エンゲージメント調査も実施しました。また、ESG外部評価機関による評価がどのように資本効率や財務基盤にプラスの影響を及ぼすかなどの検証も進めました。結果としては、こちらも信頼性の高い分析結果は得られず、仮説の証明には至りませんでした。
2024年のこれらの取り組みでは、試行錯誤を重ねる結果となり、成果を提示することはできませんでしたが、一方で、この取り組みの中で今後につながるさまざまな知見や気づきを得ることができました。
今後の取り組み
アサヒグループは、今後も引き続き、インパクトの可視化の取り組みを推進していきます。価値関連図の取り組みでは、価値関連性分析の精度を上げつつ、環境以外の未完成であるテーマに注力していきます。
事業・社会インパクトの可視化では、今後の実行フェーズを鑑み、当社グループ内の仕組みづくりを目指し、双方で分析事例案件の拡大を進めていきます。
企業価値向上への効果の可視化については、2024年は、サステナビリティ活動によるプラスの影響にフォーカスして、仮説検証を進めましたが、一方で、ニュートラルへの影響の方が大きいのではないかという仮説もあります。サステナビリティ活動による発生の可能性があったリスク(マイナスの影響)の回避や低減効果です。2025年からは、ニュートラルの効果の可視化(証明)についても取り組んでいきます。
2024年までは、取り組みフローの構築を目指し、小規模なプラクティスを重ねてきましたが、2025年からは、当社グループのマテリアルなテーマに踏み込んでいきます。当社グループは、この取り組みの先駆者となるべく、引き続き、挑戦していきます。