インパクトの可視化
アサヒグループは、サステナビリティと経営の統合の実現に向けて、サステナビリティ活動によって創出される事業・社会インパクトをプラスとニュートラル*の側面で定量的に可視化する取り組みを推進しています。インパクトと企業価値向上との関連性を明確化する継続的な分析を行うとともに、経営に活用する重要な指標の特定と活用を進めています。それらの指標を施策の優先順位の決定や投資判断、進捗管理に組み込むことで、事業の持続的な成長と社会へのプラスのインパクトのさらなる創出につながると考えています。また、インパクトを定量的に示すことで、より高度化した情報開示につながり、すべてのステークホルダーとのエンゲージメントを高めることにもつながると考えています。
*負の影響を低減し、実質的にゼロに近づける取り組みによる影響
取り組み概要
当社グループは、インパクトの可視化の取り組みをグループ内で展開することを企図し、独自に策定したアサヒグループモデルを導入しています。当社グループが考える企業価値向上への道筋を体系化することにより、インパクトの可視化の目的と取り組みを結びつけ、社内外のステークホルダーとの共通認識の形成、本取り組みを一層推進することを目的としています。
経営管理の高度化とステークホルダーエンゲージメントの強化を目的とするアサヒグループモデルでは、まずサステナビリティ活動がどのように企業価値向上につながっているかを図表化します。最初にこの取り組みの土台となる1st Step「価値関連図の作成・仮説検証」を通じ、全体像を把握した後、従来設定している2つの目的に基づき、取り組みを二つのラインとして体系化しています。
一つは、施策の決定や投資判断など、自社における経営管理の高度化に活かすための2nd Stepサステナビリティ活動による事業インパクトと社会インパクトを「定量的に可視化」する取り組みです。もう一つのラインでは、3rd Step「企業価値向上への効果の可視化」と、経営管理にも活用される4th Step「インパクトドライバーの特定」を通じて企業価値向上ストーリーの証明に取り組むことで、情報開示の高度化とステークホルダーエンゲージメントの強化を図ります。
2025年の取り組み
2025年も、環境や人的資本の高度化のテーマとあわせて、「責任ある飲酒」にフォーカスし、「価値関連図の作成・仮説検証」を継続し、一部の活動においては、プラスとニュートラルの両側面から社会インパクトの可視化に取り組みました。
また、価値関連図の取り組みのグループ内での拡大展開を見据え、プロセス化(仕組みづくり)を並行して進めています。専用のテンプレートを用い、活動によるアウトプット、アウトカム、さらに創出を目指す事業・社会インパクトを特定するステップを経て、価値関連図の作成・仮説検証を行いました。
加えて、「企業価値向上への効果の可視化」において、2024年にサステナビリティ活動によるプラスの効果の分析に取り組んだことに続き、2025年はリスク回避や低減によるニュートラル効果の分析を実施しました。
なお、対象エリアは引き続き、日本のみとしました。
価値関連図の作成・仮説検証
取り組み内容
責任ある飲酒は、アルコールの製造・販売を主力とする当社にとって、社会と共存して持続的な成長を実現するための重要なマテリアリティの一つです。当社グループが推進する責任ある飲酒は、新たなお酒文化の創造によるプラスのインパクトの創出とともに、不適切飲酒に起因するネガティブインパクトを低減するニュートラルなインパクトの創出を目指しています。2025年は、アサヒビール(株)の取り組みを対象として、価値関連図の作成・仮説検証と、社会インパクトの可視化に取り組みました。
プロセス
価値関連図の作成にあたっては、最初に、アサヒビール(株)の戦略に基づき、ストーリーラインを整理しました。アウトカムとして、戦略の柱である「Well-being:充実した幸福な社会」「Unconscious Bias:無意識な思い込みがない社会」「Diversity:多様性が実現した社会」というありたい姿を設定し、これらに基づいて議論を重ね、当社グループが創出するインパクトを特定しました。事業インパクトについては、新たな飲用機会の創出とリスク回避や低減の領域を特定し、社会インパクトについては、貢献する便益とその受益者を特定しました。
次に、企業価値へ至る道筋を示すため、特定したインパクトがもたらす価値や、財務・企業価値に至る要素を整理し、価値関連図を構築しました。続いて、活動から企業価値向上までの相関関係を検証する指標の設定やデータを収集し、価値関連性分析を実施しました。これらの活動を通じて価値関連図の仮説作成に注力しました。
社会インパクトの可視化
2025年は、日本を対象に一部の活動において、価値関連図で特定した当社グループの責任ある飲酒における社会インパクトを定量的に可視化することに取り組みました。
取り組み内容
責任ある飲酒の取り組みがプラスおよびニュートラルの両側面の効果を有すると位置づけ、双方の観点から可視化に着手しました。
ニュートラルの面では、不適切な飲酒がもたらす社会課題の一つである労働生産性低下に着目し、「一時多量飲酒の抑制による労働におけるアブセンティーズムとプレゼンティーズムの回避」についてロジックを構築し、社会インパクトを算出しました。また、当社グループの取り組みであるノンアルコール飲料の提供などによる抑制効果については、独自調査を実施し、1日当たりの労働損失額などについてはマクロデータを活用し、一定の前提に基づく推計として算出しています。
プラスの面では、「多様性のあるお酒文化醸成によるお酒を飲まない人のコミュニケーションの活性化」に関する社会インパクトを定量的に可視化しました。ノンアルコール飲料や低アルコール飲料の提供といった当社グループの活動によって、これまで飲みの場に参加しにくかったお酒を飲まない人が飲みの場に参加し、その結果としてコミュニケーションの活性化につながっているかについて、独自調査を実施しました。独自調査に加え、お酒を飲まない人の平均的な1回の飲みの場に使用する金額などをマクロデータから活用して、一定の前提に基づく推計により社会インパクトを算出しました。
多くの推計値を用いた算出には一定の改善余地があるものの、多様なステークホルダーとの共創を促進する重要な契機であると捉え、社会インパクトの開示を行いました。今後は課題の残る分析手法やデータ収集の改善に取り組んでいきます。
算出内容
算出の結果、一時多量飲酒の抑制による労働生産性低下の回避や、多様性のあるお酒文化の醸成によるコミュニケーション活性化について、以下のとおり社会インパクトを試算しました。
2025年にトライした取り組み
企業価値向上への効果の可視化
アサヒグループは、価値関連図が示す「間接的な価値の道筋」にあるサステナビリティ活動によって創出したインパクトがレピュテーション効果としてどのように企業価値向上につながるか、消費者と投資家の道筋について仮説を立て、検証を続けています。2024年はプラスの効果を検証したのに対し、2025年は、リスク回避・低減によるニュートラルな効果が現在の企業価値向上に寄与している可能性があると捉え、その検証に取り組みました。
分析にあたっては、当社グループと類似した企業特性(時価総額など)を有しつつ、サステナビリティ指標の評価*が相対的に低位にある企業を複数抽出し、これらを「サステナビリティ活動を十分に実施していない仮想アサヒグループ」と位置づけました。企業の特定には、日本のプライム市場に上場している企業約1,600社を対象に、傾向スコアマッチングの手法を用いました。その上で当該企業群と当社グループ(「サステナビリティ活動を実施しているリアルアサヒグループ」)について、2019年から2023年の期間におけるROIC、ROE、PBR、PERの指標を比較分析し、サステナビリティ活動が企業価値に与える影響について検証しました。
分析の結果、ROIC、ROE、PBRについては有意な相関関係は確認されませんでした。一方で、PERについては市場環境全体では低下傾向にある期間においても、当社グループの数値においては改善が見られました。この結果は、統計的な制約を踏まえる必要があるものの、外部環境の変化により、事業継続の不確実性が高まる中で、サステナビリティ活動がリスクの回避・低減に寄与し、その効果が市場の期待を反映するPERに表れつつある可能性を示唆するものと捉えています。
これまでの当社グループによる分析では統計的に有意な結果の確認には至っていませんが、本取り組みの方向性に関する一定の示唆は得られています。今後は、サステナビリティ活動が企業に与える影響について、プラスおよびニュートラルの両側面から分析を進めていきます。当社グループの重要な指標であるROICやROEに加え、PERや資本コストに関する指標にも着目し、よりシンプルかつ精緻な分析を行います。また、これらの分析結果を、価値創造ストーリーのナラティブと結び付けながら、「企業価値向上への効果の可視化」とその証明を一層発展させていきます。
*アサヒグループの観点から複数のサステナビリティ指標を選定し、基準値を設けて評価
今後の取り組み
当社グループは、今後も責任ある飲酒のテーマを重点領域と位置付け、インパクト可視化の取り組みを継続的に推進していきます。価値関連図の高度化や社会インパクトの可視化に加え、責任ある飲酒への取り組みをはじめとする各種施策の「企業価値向上への効果の可視化」に取り組む方針です。当社グループの中核であるアルコール事業において、サステナビリティと経営の統合を体現していきます。
また、これらの取り組みを海外事業を含むグループ全体へとさらに浸透させるとともに、新たな挑戦を続けていきます。多様なステークホルダーとのパートナーシップのもと、インパクトの可視化を一層進化させ、当社グループの枠を超えた価値の創出を目指していきます。