インパクトの可視化

アサヒグループは、サステナビリティと経営の統合の実現に向けて、サステナビリティ活動によって創出される事業・社会インパクトをプラスとニュートラルの側面で定量的に可視化する取り組みを進めています。この取り組みにより、経営管理できる重要な指標を特定し、その指標を施策の優先順位の決定や投資判断、進捗管理に組み込むことで、事業の持続的な成長を実現し、社会へのプラスのインパクトをさらに創出できると考えています。また、インパクトを定量的に示すことで、より高度化した情報開示につながり、すべてのステークホルダーとのエンゲージメントを高めることにもつながると考えています 。

2023年の取り組み一覧

2023年の取り組み

2023年は、2022年の取り組みステップを継続して採用し、対象エリアは引き続き、日本のみとしました。インパクトの可視化の土台となる①「価値関連図」の作成・仮説検証、サステナビリティ活動のインパクトを定量化する、②事業インパクトの可視化と③社会インパクトの可視化の3つに分けて段階的に取り組みを進めました。

①「価値関連図」の作成と仮説検証

取り組み内容

アサヒグループのサステナビリティ活動がどのような価値連鎖の道筋を経て、企業価値向上につながるかという全体像を把握するための取り組みです。
プロセスとしては、まずテーマごとに「価値関連図」を仮説作成します。次に定量的に相関関係を検証するため、「価値関連図」上に示したすべての価値を測定する財務・非財務の指標を設定し、分析・検証に必要なデータ収集を行います。続く分析・検証工程では、「価値関連図」上に示した、隣接するすべての価値同士の相関関係を単回帰分析で検証する価値関連性分析の手法や、部分的に俯瞰型分析を用いて検証を実施します。最後にこの定量分析結果が、定性的にも相関関係があると言えるかという点で再度、確認も行います。
2023年は、サステナビリティ活動の成果によって創出した事業・社会インパクトが、企業価値向上までつながる価値連鎖の道筋(2023年版価値関連図「インパクトによってもたらす価値」部分)の構造構築に注力しました。

2023年度版価値関連図(環境テーマ一部抜粋)

価値関連図

※分析実行: アビームコンサルティング株式会社, Digital ESG Platform

2023年版の「価値関連図」では、アサヒグループの方針や戦略に照らし合わせ、新たに「直接的な価値の道筋」と「間接的な価値の道筋」を設け、仮説構築しました。「直接的な価値の道筋」は、アサヒグループの重点方針に通ずるサステナビリティ活動そのものによる、売上収益やコストといった直接的な収益効果の影響要素の道筋です。一方、「間接的な価値の道筋」は、サステナビリティ活動によるインパクトを、コミュニケーションを通じて社内外に伝えることで、各ステークホルダーのエンゲージメントが向上することによって得る影響要素、つまりレピュテーション効果の道筋を示しています。例えば、対消費者であれば、エンゲージメントの向上がコーポレートブランド価値の向上につながり、ひいては企業が有するすべてのブランドや商品への消費行動に影響(ハロー効果)を及ぼし、企業価値向上までつながることを示しています。また、企業価値向上への影響だけでなく、社会の変容への影響の道筋も示しており、これらの道筋はコミュニケーションを介するため、間接的と名付けました。
実際の「価値関連図」は、1テーマごとに詳細に作成し、「サステナビリティ活動と成果」部分の価値連鎖についても再構築し、指標の設定やデータ収集も実施しています。次の検証ステップの価値関連性分析では、データを収集できた部分については、多くの相関関係がみられ、価値連鎖の道筋が実証されました。この結果により、2023年版の「価値関連図」の価値連鎖の構造は、私たちの理想図に近づいてきたと考えています。

今後の取り組み

今回、価値連鎖の構造上の大枠は構築できたものの、「間接的な価値の道筋」に位置する投資家や従業員とのエンゲージメント向上については、明確な道筋を示せていない部分もあり、今後、深掘りに挑戦していきます。また今回の分析では、データの未取得や不足が要因で分析に至らない部分も多々ありました。データ収集については、環境データのような実績データだけでなく、社会の変容やステークホルダーとのエンゲージメントなどを測る調査系のデータの取得も必要になります。今後、計画的にデータを収集する仕組みづくりも進めていきます。テーマごとに進捗の濃淡はありますが、土台である「価値関連図」の取り組みをさらに進化させ、次の段階である事業・社会インパクトの可視化へと進めていきます。

②事業インパクトの可視化

取り組み内容

2023年は、「価値関連図」で示した「環境」のテーマの活動である「容器包装軽量化」を題材とし、アサヒ飲料(株)のラベルレス商品を対象とした事業インパクトの可視化の試算に挑戦しました。
「価値関連図」で示した2つの価値連鎖の道筋をもとに、サステナビリティ活動のインパクトによってもたらされる効果を「直接的な効果」と「間接的な効果」に分けて算出式の構築を進めました。

インパクトによってもたらされる効果

●直接的な効果

「商品・サービスによる収益効果」

消費者が商品やサービスを購入する際、“サステナブルであること”を理由とした購入への影響度を収益効果として表しました。ラベルレス商品であれば、プラスチック使用量の削減によって環境課題に適応した商品であると消費者が認知し、それを理由に購入している割合を調査し、売上収益を試算します。

<算出式イメージ>
ラベルレス商品販売金額 × 消費者の購入理由(調査:環境理由割合)

「現在(や将来)のリスク回避による収益効果」

主にサステナビリティ活動によってリスクを回避し、ニュートラル化できたコストを表します。まずは、炭素税の影響度の試算から進めています。ラベルレス商品であれば、通常品からラベルを減らしたことで削減できたCO2排出量に、設定したICP価格を乗じて、回避できたコストを試算します。日本は炭素税未導入エリアのため、導入されたと仮定しての試算です。現時点では、実績ベースの試算のみですが、今後は将来的な影響金額も組み込み、スキーム化したいと考えています。また長期的には、炭素税だけでなく、原材料費やエネルギー費などの影響度の定量化も検討しています。

<算出式イメージ>
ラベルレス商品によるCO排出削減量 × Internal Carbon Pricing

●間接的な効果

「サステナビリティ活動で創出したインパクトのレピュテーション効果」

ステークホルダーごとへの効果をレピュテーション効果として算出を試みたものです。消費者を対象としたラベルレス商品の効果の算出であれば、CO2排出量を削減した活動をコミュニケーションすることで、消費者とのエンゲージメント(コーポレートブランド価値)が向上し、それが最終的にアサヒグループの商品全体の販売にどれだけ影響するかの試算です。今回、私たちはロジック化から定量の試算までを実施しましたが、信頼性の高い分析結果には至りませんでした。

今後の取り組み

「直接的な効果」については、今後、スキーム化し、実行フェーズに進めていく考えです。「間接的な効果」については、投資家エンゲージメントへの効果なども含め、定量化に向けて、引き続き、取り組みを進めていきます。将来的には、定量化した金額を合計値として使用するだけでなく、それぞれの金額を指標として、経営管理に活用することも検討しています。

③社会インパクトの可視化

アサヒグループは2022年からインパクト加重会計の手法を活用して、社会インパクトの可視化に取り組んでいます。この手法では、「環境インパクト」「製品インパクト」「従業員インパクト」の3つの側面から社会インパクトを捉え、それぞれの側面でプラスとマイナスの価値を金銭価値に換算し、合算することで、総合的な社会インパクトの可視化が可能となります。2022年はアサヒグループの事業の根幹である「責任ある飲酒」、2023年は当社グループらしさを発揮できる「コミュニティ」をテーマにインパクトの可視化に取り組みました。

取り組み内容

社会インパクトの可視化の取り組みは、インパクト加重会計の中の「製品インパクト会計」のフレームワークを用いて、分析を進めています。2023年は「コミュニティ」をテーマに、アサヒバイオサイクル(株)の商品である「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」を対象に社会インパクトの可視化の試算に挑戦しました。

取り組みプロセス

最初に社会インパクトを算出する目的の設定と算出対象の特定を実施。目的は、当社グループが「コミュニティ」の重点活動として目指している、農産物生産者のWell-being向上への貢献としました。可視化はその実現のための手段と考えています。
次に算出対象の特定です。これは、社会インパクトの規模を測るメインとなる対象を指しています。今回は、前述の目的に沿って、今まで使用していた農薬などを「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」に切り替えることで農産物生産者が得る、収穫量増加の影響金額を主な算出対象としました。試算にはCO2排出削減のコストも含めています。算出対象特定後の次のステップは、算出方法の設定です。具体的には算出ロジックの作成や算出に必要な社内データ、社外のマクロデータを収集し、算出式を設定します。最終的に設定した算出式の信頼性の確認も当社グループだけの検証に限らず実施しています。

社会インパクトを算出する目的の設定と対象の特定

コミュニティ:重点活動「持続可能な農産業」の実現

〈 算出目的 〉 農産物生産者のWell-being向上

〈 算出対象 〉 農産物生産者の農産物の収穫量増加金額

算出方法の設定(必要なデータ収集)

算出式の確立

算出内容

今回は、収穫量データが取得できたサンプルを、野菜・畑作のケースと果樹のケースの2つの農作物グループに分け、それぞれの収穫量増加金額とCO2排出削減効果金額で社会インパクト金額を試算しました。サンプルデータは、それぞれ1試験農場と1農場のチャンピオンデータを用い、農薬使用時と比較した「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」使用時の対象農作物の収穫量増加割合を算出し、それに2022年の商品販売量分を拡大推計して試算しました。算出結果は、野菜・畑作のケース(調査対象農作物:トマト)では、収穫量増加割合が1.21倍、社会インパクト金額が64.9億円、農地1haあたり換算では115.4万円となりました。同様に、果樹のケース(調査対象農作物:みかん)では、収穫量増加割合が1.20倍、社会インパクト金額が16.2億円、農地1haあたり換算が117.2万円となりました。

今後の取り組み

今回の分析は、取り組みプロセスや算出方法の設定については、評価できるものと考えています。ただし、データの信頼性向上は、今後の課題と捉えています。実際には、野菜・畑作、果樹のほかに水稲(コメ)についても1つのケースとして試算しましたが、得られた結果の信頼性が低く、今後の課題の1つとしました。その一方で、この取り組みの背景や目的とともにその結果を定量的に示すことが、今後の社会インパクトの可視化、さらなる社会インパクトを創出する活動の推進につながると考え、2つのケースについては、定量開示することとしました。アサヒグループは、引き続きデータ収集や算出式の精度を高め、この取り組みの先駆者となるべく、挑戦していきます。