2022年10月18日
業界の垣根を越え、目指す頂はPETボトルの水平リサイクル。持続可能な未来に向けた3社の挑戦。
PETボトルをもう一度PETボトルにすることで生まれるメリット
「メカニカルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」、アプローチの違いが生んだ連携
世界が驚く日本の使用済みPETボトルの回収率ときれいさ
ボトルtoボトルは消費者・飲料メーカー・リサイクル業者すべての協力が不可欠

2022年5月、アサヒ飲料は自動販売機横に設置されているリサイクルボックスから回収されるPETボトルを「ケミカルリサイクル※1」により再びPETボトルに生まれ変わらせる「水平リサイクル(ボトルtoボトル)」の取り組みを発表しました。また、2030年にはPETボトル容器の100%をリサイクルPETボトルや植物由来の環境配慮素材に切り替えることを目標としています。それらを実現するには、パートナー企業である株式会社JEPLAN(以下、JEPLAN)、遠東石塚グリーンペット株式会社(以下、遠東石塚グリーンペット)の協力が欠かせません。未来につながる持続可能なリサイクルを目指し、3社はどのように手を取り合い、連携しているのでしょうか?
JEPLAN 尾正樹代表取締役・執行役員社長、遠東石塚グリーンペット 顔宏任営業本部長、アサヒ飲料 CSV戦略部プロデューサー松ア大にお話を聞きました。
ケミカルリサイクル(化学的再生法)
化学分解により中間原料に戻した上で不純物を除去して再重合し、新たなPET樹脂をつくる方法。回収された使用済みPETボトルを選別、粉砕し、解重合を行うことによりPET樹脂を分子分解した後不純物を取り除き、改めて重合して新たなPET樹脂とする。JEPLAN独自のケミカルリサイクル技術「BRING Technology™」は、不純物の除去により石油由来の製品とほぼ同品質の樹脂を作ることができる。
JEPLAN 尾正樹代表取締役・執行役員社長
遠東石塚グリーンペット 顔宏任営業本部長
アサヒ飲料 CSV戦略部松ア大プロデューサー
PETボトルをもう一度PETボトルにすることで生まれるメリット
―使用済みPETボトルが新たなPETボトルとして生まれ変わる「水平リサイクル(ボトル to ボトル)」。アサヒ飲料はボトルtoボトルの取り組みを加速されていますがどのようなメリットがあるのでしょうか。

松ア(アサヒ飲料):アサヒ飲料はこれまでもPETボトルを包むフィルム状のラベルをなくしたラベルレス商品を展開するなど容器の環境配慮を行ってきましたが、ボトルtoボトルが加速することで、持続可能なリサイクルの実現にさらに近づけるのではないかと考えています。そもそもPETボトルの原料となるのは、石油由来のバージン樹脂PETと呼ばれるものですから、CO2の排出は避けられません。一方で、使用済みPETボトルからPET樹脂を作る際は、石油由来のものに比べてCO2排出量が抑えられると見込んでいます。これがメリットのひとつです。そして、PETボトルの水平リサイクルには、「ケミカルリサイクル」と「メカニカルリサイクル※2」という2つの方法があります。水平リサイクルを進めるための心強いパートナーとして「ケミカルリサイクル」ではJEPLANさんに、「メカニカルリサイクル」では遠東石塚グリーンペットさんにご協力いただいています。
尾(JEPLAN):「あらゆるものを循環させる」をビジョンに、循環型社会を目指して事業を展開しているのが我々JEPLANという会社です。独自のケミカルリサイクル技術「BRING Technology™」を用いることで着なくなった服を回収・リサイクルした後、ポリエステル繊維から新しい服を作りあげるBRING™、「ボトルからボトルの原料をつくる」PETボトルリサイクルを事業の軸としています。BRINGは蜂のイラストがシンボルになっていて、さまざまな施設・店舗で回収サービスを行っていますので、見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。

顔(遠東石塚グリーンペット):私どもの親会社は遠東新世紀という会社で、アジア最大のPETレジンメーカーです。実は日本のPETボトルの2本に1本は遠東新世紀のレジンを使用しているんです。遠東石塚グリーンペットではPETボトルをPETボトル原料へとリサイクルする「ボトルtoボトル」に特化した事業を展開しています。従来のPETボトルリサイクルでは、包装材や繊維向けの原料は生み出せても、PETボトル原料をつくることはできませんでした。そこで私たちは、「ボトルtoボトル」というPETボトルの水平リサイクルモデルを事業化しました。松アさんが仰ったようなCO2排出量の削減もボトルtoボトルのメリットですが、リサイクルのスキームを組むことで廃棄PETボトルが減り、海洋プラスチック問題が改善されるという効果も期待できるのではないでしょうか。
メカニカルリサイクル(物理的再生法)
回収された使用済みPETボトルを選別、粉砕、洗浄して異物を取り除いた後に、高洗浄による異物の除去や高温下での除染などの物理的処理を経てペレット化する方法。

「メカニカルリサイクル」と「ケミカルリサイクル」、アプローチの違いが生んだ連携
―遠東石塚グリーンペットさん、JEPLANさんは共にリサイクルPET樹脂を作られています。一見すると競合他社ですが、どんな点で連携されているのでしょうか?
顔:弊社がおこなっている「メカニカルリサイクル」は、使用済みPETボトルからキャップやラベルを剥がし、PETボトル以外の物質を徹底的に選別・除去した後に洗浄していきます。その後、内部に入り込んだ有害な化学物質を除染し、破砕・洗浄・乾燥した「フレーク」、「フレーク」を溶かして品質を均一化した「ペレット」、「ペレット」から水分を取り除いた「レジン」という工程を経て、リサイクルPET樹脂が作られます。

尾:BRING Technology™と呼んでいる弊社の「ケミカルリサイクル」は、簡単にいうと石油に近い状態にまで戻してしまう技術です。そうすることで、微小な単位の不純物まで取り除くことができます。同じリサイクルでも、顔さんの会社とはアプローチが違うので、協力できる領域があるんですね。
顔:弊社の「メカニカルリサイクル」の特徴は、比較的安価に大量生産できるということです。ただ、すべてをリサイクルできるわけではなく、25%近くのロスが発生します。それを繊維用途に使うこともできますが、ボトルtoボトルで循環させようとすると我々では活用できません。そこで、JEPLANさんの出番となる訳です。
尾:遠東石塚グリーンペットさんで生まれる副産物がうちの会社に届き、その後、不純物を徹底的に取り除く「ケミカルリサイクル」でPET樹脂が生まれるという仕組みです。

顔:その他にも、「メカニカルリサイクル」では何度も循環させるうちにPETボトルが若干黄色くなったり黒くなったりすることがあります。それを緩和するために添加剤を入れて黄色味を抑えるんですね。なるべくバージンPET樹脂に近い状態に戻します。メカニカルリサイクルの手法はこの点に関して今後の技術革新を期待したい。
尾:あとは、PETボトルに使われる触媒ですね。リサイクルが循環していくうちに、そういった不純物が溜まってしまい品質劣化の原因になってしまうのですが、弊社が腎臓のような役割できれいにしていくんです。
松ア:アサヒ飲料としては、単純にボトルtoボトルの比率を上げていくだけでなく、本当の意味で「持続可能な循環(サーキュラーエコノミー)」を実現させていきたいと考えています。「メカニカルリサイクル」で出てしまう副産物を「ケミカルリサイクル」で補いながら、より効率の良いリサイクルでボトルtoボトルの比率を上げていく。この先進的な試みに賛同したというわけです。

尾:アサヒ飲料さんが目指しているのは、使用済みPETボトルが何度も循環していく社会の実現です。弊社の技術ができること、遠東石塚グリーンペットさんができること、両社の長所をうまく組み合わせれば、いつかボトルtoボトルは100%に近い状態になるかもしれません。
顔:弊社は関東と関西合わせて約27万トンの処理能力があります。これは世界最大級の規模で、27万トンというのは日本で生産されている総PETボトルの約半分です。そこから生まれる約25%の副産物と考えると、2社の連携はとても大きな話です。
尾:また、世界的に見てもボトルtoボトルとして「ケミカルリサイクル」工場が動いてるのは、昨年稼働した弊社の川崎工場だけです。つまり、我々がやろうとしている「ケミカルリサイクル」と「メカニカルリサイクル」のベストミックスは、世界に先駆けた試みでもあるんです。
世界が驚く日本の使用済みPETボトルの回収率ときれいさ
―すべてを「ケミカルリサイクル」にしてしまうということも可能なのでしょうか?

顔:「ケミカルリサイクル」の工場を作ろうとすると、「メカニカルリサイクル」に比べて約3〜4倍の費用がかかってしまいます。また、日本の使用済みPETボトルは、消費者の方々がラベルやキャップをきれいに剥がしてくれていることもあり、とてもきれいなんです。そのため「メカニカルリサイクル」でも高品質な製造が可能です。
松ア:日本ではリサイクルのことも考えて、PETボトルはすべて透明にしようという業界のルールがあります。そういった取り組みも、ボトルtoボトルを推進するなかで、利点になっていると思います。
尾:そういう取り組みをしているのは日本だけですよね。
顔:しかも、政府の規定ではなくて業界の自主的な基準ですから。
尾:日本のPETボトルリサイクルの仕組みって本当にすごいんですよ。リサイクル率は88%超、回収率も90%を超えている。ヨーロッパのリサイクル率は40%くらいと言われています。
顔:国によってはリサイクル率が20〜30%のところもありますし、先進国であるアメリカでも30%程度ですよね。
松ア:SDGs、コンプライアンスの観点から、誰がどうやって集めているか、回収から再生までのルートがわかりやすいという点も評価されていいと思います。
―使用済みPETボトルの価格が高騰しているという話もありますが、それは今お話しいただいたような日本のPETボトルリサイクルの仕組みと関係があるのでしょうか?

顔:そうですね。いくつかの要因が挙げられますが、きれいな日本の使用済みPETボトルでないとリサイクルできない工場が多くあります。また、長繊維※3の業界では日本のPETボトルが原料として最高水準であることが、世界的に知られています。入札制度なので、欲しい人が多ければ価格は高騰してしまいます。
長繊維
繊維の中でも、特に長い繊維のことを指す言葉。化学繊維と天然繊維の2種類があり、ここでは化学繊維のことを指しています。
尾:PETボトルがPETボトルとして循環している限りは、需要と供給のバランスは崩れないはずですから、大幅な価格変動は発生しません。しかし、日本の使用済みPETボトルの品質が世界最高水準であるがゆえの取り合いが起きています。
―2017年末、中国が廃プラスチックの輸入を禁止したことで、廃プラスチックや使用済みPETボトルは行き場を失って大変だというニュースがありました。それはもう昔の話なんですね。
顔:そうですね。2017〜2019年にかけて国内でもリサイクル工場が増え、廃プラスチック滞留の問題はすぐに解消されました。また、時を同じくして日本の大手飲料メーカーがそれぞれ環境方針を発表し、各社がリサイクルPETボトルの比率を上げることを宣言したことも大きく影響しています。
ボトルtoボトルは消費者・飲料メーカー・リサイクル業者すべての協力が不可欠
尾:それ以前は需要がなくて大変でしたよね。
顔:PET樹脂はバージンのほうが安いですから。わざわざ高いリサイクル樹脂を使う意味を理解してもらえなかった。約10年前はそれが常識だったんですね。我々の本社は世界で3番目のバージンPET樹脂メーカーですから、そちらを売ればいいわけで、なぜわざわざ日本でリサイクル事業をやるんだという話にもなっていました。

尾:利益だけを考えるのではなく、それをいかに長く持続できるものにするのかという視点が生まれてきたことで、事業を軌道に乗せられました。それまではお互い、我慢の時代でしたよね。
顔:本当にそうですね。どうにか耐えながら、ボトルtoボトルによるリサイクルPET樹脂を市場に供給し続けているうちに、お客さんの認知度も高まり徐々に広がってきました。10年前とは違い、いまや環境への配慮はスタンダードになりつつあると思います。
松ア:そうした状況になっているのは、お二人のような方々が様々な場所で粘り強く取り組んでいただいたからこそでもあると思います。環境への取り組みは、みんなで協力しないと持続できない世界なんです。
―ボトルtoボトルに至るまでにも、JEPLANさんと遠東石塚グリーンペットさんが連携していたとも言えますよね。現在、ボトルtoボトルの達成率はどれくらいなのでしょうか?
尾: 15%程度になります。
顔:今年中には20%には届くのではないかと考えています。一方で、アサヒ飲料さんを始め多くの飲料メーカーは100%環境配慮素材とすることを目指している。そう考えると、目標はまだまだ遠くにあります。

松ア:現時点では、リサイクルで回っているPETボトルの量と、我々が目標とするうえで必要な量が合っていません。 今回収できている使用済みPETボトルが96%ですから、残り4%。これを何とか回収しきらなくてはいけない。さらに、できるだけきれいな状態で回収するためには、我々からも消費者の方々にもっと積極的にアプローチしていかなくてはいけないと思っています。
顔:先ほどの話に戻りますが、60万トンの使用済みPETボトルを100%回収できても「メカニカルリサイクル」では、歩留まりの関係で42万トンしか生産できません。そう考えると、JEPLANさんの技術がとても重要になってきます。もし、ボトルtoボトルの割合が80%でもいければ、世界で圧倒的な存在になると思います。リサイクルに協力的な日本の皆さんならできると期待しています。
尾:ボトルtoボトルのこの先進的な取り組みを、いずれは日本モデルとして世界に展開していきたいですよね。
―ボトルtoボトルがどこまで加速していくのか楽しみです。最後に、今後の展望についてお聞かせください。

尾:弊社としては、エネルギーをより効率的に使えるような技術が必要だと考えています。「ケミカルリサイクル」では電気やガスのエネルギーを使用します。電気を再生可能エネルギーに代替していくことはもちろんですが、例えばガスを水素に代えることができればCO2ゼロ工場ができてしまいます。そういう取り組みは積極的にやっていきたいです。
顔:「メカニカルリサイクル」の場合ですと、エネルギーの消費はもともと少ないんです。また、工場は7月から、自社内で使用する電力はすべてグリーン電力に切り替えました。弊社は日本最大のボトルtoボトルの製造会社ですが、同業他社ともコミュニケーションを取るのはもちろん、飲料メーカー各社とも連携しながら、地球に優しい環境を作っていきたいです。
松ア:アサヒ飲料としては、「メカニカルリサイクル」、「ケミカルリサイクル」それぞれの強みを生かし、活用できる技術を組み合わせて効率的な資源循環を目指していきたいですね。それを実現するためには、JEPLANさん、遠東石塚グリーンペットさんをはじめとしたリサイクラーの皆さんにご協力をいただきながら、長期的に安定して循環を回していけるような仕組みを作っていきたいと考えています。そして、持続可能なリサイクルを今後、益々推進していきたいと思います。
尾・顔:ぜひ、よろしくお願いします。
―本日はありがとうございました。

100年先を見据えた時、プラスチックを資源とし、何度も私たちのくらしに役立つものに生まれかわらせることは、未来を生きる人々へのギフトになり得る可能性を持っています。1社だけでは成し得ないことを、同じ思いをもったパートナー企業が手を取り合って形にしていく、それが共創の時代を築くことにつながっていきます。
株式会社JEPLAN
循環型社会の実現を目指して、広くサプライチェーンに携わりながら、独自のPETケミカルリサイクル技術「BRING Technology™」を用いたものづくり、技術ライセンスの展開に取り組んでいます。
https://www.jeplan.co.jp/
遠東石塚グリーンペット株式会社
日本におけるPETボトルリサイクルの最大手としてバージンPET樹脂メーカーによって作られたPET樹脂はお客様からも品質を高く評価されています。2023年には関東の本社工場に続いて兵庫県姫路市にも新たに工場が稼働すると共に日本の使用済みPETボトルをより多く「ボトルtoボトル」に回していきます。
https://www.figp.co.jp/